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2015年『劇場版 MOZU』感想

ドラマ『MOZU』Season1、Season2を無事、観終わって満を持しての『劇場版 MOZU』(監督/羽住英一郎)鑑賞。
主人公、倉木(西島さん)の妻、千尋(石田ゆり子さん)が巻き込まれた爆発事故の大元となった上司たちの罪を白日の下に晒し、ほぼやり尽くした感のあったMOZUですが(すいません)、劇場版では倉木の亡くなった娘の真実が判明する。

またしても白昼堂々、高層ビル強盗とペナム大使館襲撃というふたつの事件が起こる。偶然大使館の車が襲われているところを倉木が目撃。大統領夫人は救えたものの知的障害を持つ娘、エレナ(マーシュ彩さん)とは離ればなれになってしまう。そのエレナと偶然にも遭遇するのが大杉(香川照之さん)だった。ふたつの事件は犯罪プランナーと呼ばれる高柳(伊勢谷友介さん)が企てたものだった。そんな高柳から倉木に連絡があり、エレナ共々、ペナム共和国へ来るよう要求される。彼の目的は倉木を自分の組織に誘うこととエレナの引き渡しだった。エレナと引き換えに大杉の娘、めぐみ(杉咲花さん)と明星(真木よう子さん)を人質に取られていた。
高層ビルを襲ったテロ集団のリーダーで殺し屋の権藤(松坂桃李さん)はドラマ版での影の主役であった新谷宏美(池松壮亮さん)を崇拝しており、殺した後には必ず宏美と同じマークを残していた。
そして高柳や権藤が先生と呼び、劇場版ではドラマで登場しなかったダルマを具現化させ、日本はダルマこと吉田駒夫(ビートたけしさん)が操縦していると知る。だがダルマは齢90を越えているため、常に移植できる臓器を用意しなければならない。今回ダルマの命に必要だったのがエレナだった。

架空の都市、ペナム共和国に役者が揃ったところで、大規模なアクション開始。しかしこの物語、毎回人の心の一番弱い部分を抉って来るので正直、腹立たしい(笑)倉木の娘の凄惨な死に方とそれを敢えて見せられた千尋。その目的もエゴイズムに溢れている。危うく明星も千尋と同じ立場に立たされそうになるが、そんなことを許さないのが倉木だ。彼は体が丈夫なので(こんな言葉でいいのか)どんなに瀕死状態に陥っても死なない。いや、真実を知るまでは死ねないと言うのが彼の信条だ。また、劇場版では一人娘のめぐみを守るため、大杉も大きなピンチに見舞われる。
日本の秩序を守っていると言うダルマだが、そのダルマを守るためにどれほどの命が奪われたか。そして人としての自由も自我も何もかも奪われた人間がどんな一生を辿るのか、あまりにも許し難い所業だ。そんな彼らを倉木同様、新谷も放ってはおかない。自分と血を分けた双子の宏美を崇拝していると言いながら実は愚弄しているような権藤を許さず「百舌の早贄」の刑をお見舞いする。

ダルマ関連の人物たちはゲームのように人を殺める。ドラマではダルマ側であり、しなやかに動き回っていた東(長谷川博己さん)だが、彼もまた大切な何かを「奪われた」人間なのだと倉木に指摘され、抑えていた感情が浮かび上がる。ふたりの関係はクールだが劇場版では倉木と東の間にもどこか血が通ったような様子が描かれる。
結局、倉木はダルマの手に落ちなかった。日本の秩序はこれから狂い出す、と東は忠告するが、それでいい、と倉木は返す。きっと肩の荷が下りたのは東も同様なのだろう。気の毒なのはエレナだ。知的障害を持って生まれ、母親とも離ればなれにさせられ、結局はダルマを生かす部品としてしか扱われなかった。彼女は特別だと高柳も権藤も言っていたが、ダルマがいなくなればただ虚しいだけだ。

ラストは平和に日本のレストランで倉木に待ちぼうけを食らう大杉と明星のコミカルな様子で終えるが、本当にこれでラストなのだろう。もう絶望も虚無も飽きたと思うので、解き放たれた百舌は自由に、好きなように羽ばたいたらいい、と願う。

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幸坂かゆり
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