「チョットハナレテ」のサイン
馬たちは、自分の周りに危険がないことを確認すると、互いにコミュニケーションをとったりする。
じっと見つめたり、近づいて匂いを嗅ぎ合ったり、グルーミングをしたり、力比べや、じゃれ合いをしてみたり。
ぼんやり観察してみていると、いろいろな形で交流していることに気づく。
馬たちが同じ群れとして共に居るにあたって、大事にしていることのひとつに、互いの距離感があるんだそうだ。いわゆる、パーソナルスペース。
言葉に頼りすぎて感覚が麻痺してしまっている人間にとっては、本当に小さな行動に見えるのだけれど、仕草や耳の向きで「これ以上近づかないで」というサインを送っている。
例えばA馬がB馬にサインを送る。もちろんB馬は「おっとごめんよ」(と言っているかはわからないが)スッと距離をとるのである。
一方で、数分後にその馬同士が仲良さげに顔を近づけているシーンを見たりすることがある。
本当のところは馬に聞いてみないとわからないが、馬に過去や未来の概念はないといわれる。
いま、A馬の距離を取るという意思表示に、B馬が反応して距離を取った。
ただ、それだけのことなのであろう。
このことが、A馬とB馬の今後の関係性にヒビを入れるなんてことはないし、同じ群れとして行動している。
そうやって互いの心地よい距離感でいることが、互いを尊重しているということなのかもしれないし、うまくやっていくコツなんだろうと思う。
翻って、私たちはどうであろうか。
空気や機微を窺って慮って、心をヘトヘトにさせることはないだろうか。
人言語にも、「チョットハナレテ」のサインがあるといいのにと思ったり。
第二十九候「菖蒲華 (あやめはなさく)」のある日に