時空を超えた「ふはふは」
大学時代、地下の図書館で偶然出会った本がある。
『豆腐百珍』。
江戸時代の豆腐料理が百も、つらつらと書かれている。
現代でも「おかずレシピ100」なんて書籍はありそう。
「古今東西、変わらぬものよのう」とにやにや読み耽っていた。
さて時を経て現在。
愛聴しているラジオで「豆腐」がテーマとなり、『豆腐百珍』の存在を思い出した。
……なんと、国会図書館のデジタルアーカイブにある!
アカデミックな世界から離れ、もう二度と会えないと思っていた刊本と感動の再会である。
せっかく家のPC画面で読めるのなら、実際にやってみたくなるのが人の常。
本日のお題は簡単にできそうなこちら、「ふはふは豆腐」。
心の奥底の、やわらかいところにそっと触れるような「ふはふは」。
ときめきませんか。
鶏卵(たまご)ととうふ等分(とうぶん)にまぜよくすり合セ
ふはふは烹にする也。胡椒の末(こ)ふる。鶏卵(たまご)のふはふは
と風味かわることなし。倹約を行ふ人専ら用ゆべし
チケット代や書籍代、グッズ代と財布の紐を緩めがちな同志諸君。
この「ふはふは豆腐」は、我々の味方だ。
江戸時代から節約料理需要はあったのだなあ。
いざ実践。
すり混ぜるなら豆腐は絹ごしに限る。
そして「ふはふは」では器によそうのも大変、そのまま食卓に出せる一人サイズの鍋を使うのがよろしかろう。
味つけについては仕上げの胡椒以外に記述がない。
とりあえず白だしを入れてみた。
江戸時代には存在しないが、江戸と令和のコラボレーションということで見逃していただきたい。
実食。
口当たりはなめらか、薄味に仕上げたのでするすると喉を通る。
胡椒を足すと、いわば「味変」でまた違った味わい。
タンパク質豊富で消化のよい食材の組み合わせなので、胡椒を入れなければ、病人食としても最適解になりそうだ。
所要時間十分でつくれるし、これは現代の食卓にこそご登板いただきたい料理だ。
「ふはふは」、今年の流行グルメに推薦したい。
令和三年、約二四〇年の時を経て東京の食卓に登場した「ふはふは豆腐」。
もう江戸城はないけれど、食は人々の間で生き続ける。
鍋いっぱいの「ふはふは」をぺろりとたいらげ、ごちそうさまでした。