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10月8日。インスタント祝福。

10月8日。
こちらでは雨模様だった。
僕は普段バイクで通学しているのだけれど、雨ではどうしようもない。
大嫌いな電車に乗った。

電車が嫌いな理由はとても単純かつ傲慢である。
誰かに乗せてくださいよと金を払っているのに、立たなければならないことが我慢ならないのだ。
特に烏丸線の料金は座らせてくれないと割に合わない。

できるだけ電車から逃げる努力もした。
同じ授業を受けている友達が車で通学しているので、よく拾ってもらうのだ。
こんな都合のいい話はなかなかない。
だが、世の中都合のいいだけの話は存在しない。
彼はとてつもなく怠惰である。
特に、起きることに関しては子どもにおいてのピーマンくらい苦手と言っても過言ではない。

彼を起こすために電話しまくった。
最初は通学の手段として彼を起こそうとした。
起きない。
次第に悔しくなってきた。
もはや彼を起こすことが目的となってしばらくしてから、我に返り、電車に乗ることを決意した。

授業は何事もなく過ぎ去った。
あ、収穫はあった。
僕の最近のnoteに登場する「謎の女性」の連絡先を手に入れた。
ナンパはしていない。
僕の脳はちんちんに支配されていないうえに、クレバーである。
斜め後ろに陣取り、彼女のパソコンのログイン画面に表示されるユーザーネームから本名を窃見、インスタで検索をかけたというわけである。
アルセーヌ・ルパンもびっくりの鮮やかさ。
僕は稀代のクレバー臆病者である。

18:30。
件の彼から起床連絡が入る。
怠惰は罪であるから、大学まで迎えに来させた。
いくら同じ怠惰仲間のよしみと言えど、6限寝坊は断罪されるべきだ。

彼は帰りに車用のスピーカーを買っていた。
彼はこれで10月8日、何かを為したことになる。
彼は赦されるのだ。

僕たちは意気揚々と爆音で音楽を聴いた。
最初はヤカラになりきってHIPHOPを聴き、タバコをふかした。

だが何の思いつきか、僕が『天使のくれた奇跡』を流した。

僕たちは祝福されていた。
生きていていいんだ。
軽率にそう思った。
誇張なしで、2人とも泣きそうだった。
爆音で賛美歌のようなものを聴きながら運転するという特殊な状況は、我々に救済をもたらした。

多分この現象には誰も気づいていない。

気づいていたら、夜中の難波は祝福で満ち溢れている。

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