パラレルワールドから来ましたって言ったらどうする?
本当に今この世界が昨日までと同じ世界だと確信を持っていえるだろうか。
もっと砕いていうと、昨日と今日が同じ世界だという確固たる証拠がない。
実際パラレルワールドの方に移行したことを気づきもしない人、
移行自体したことがない人もいるだろう。
しかし私は実際にパラレルワールドの方に移動したような体験をしている。
これは「パラレルワールドに移動した話」である。
約15年前。
15年前、と言ってはいるが果たして本当に15年前なのかは定かではない。
結論から言うと、
【出会っていないはずの人間の思い出がある】ということである。
私にはかなり仲の良い友人がいた。
3つ歳下だが、気の合う奴だった。
よく言えば親友と言えなくもなかった。
悪く言えば底辺仲間だった。
お互いたいした職につかず、バイトバイトの毎日でくだらないことにお金を払っていた。
そんな彼と出会ったのは彼が高校3年の頃。17歳だったと思う。
3つ歳下なので、当然私は20歳だった。
季節は夏の終わりぐらいだった。
もうあと半年もすれば、彼も高校を卒業する、という時期である。
彼のバイト先であるファーストフード店によく出入りしていた。
そのファーストフード店は地方の小さなお店だったので、働いている人間もバイトか若い社員だけ。
私はそこを「金のかからないキャバクラ」だと思っていた。
地方の小さなファーストフード店はそんなに客は多くない。
だから、通い詰めていたらいやでも顔見知りになり、
年齢も近いせいでもう友達感覚である。
そのファーストフード店でバイトしていた彼と、
初めて言葉を交わしたのは「巨乳派か貧乳派か」である。
くだらない議論ではあるが、当時の私たちには
何か通じるものがあったのだろう。
それから私と彼は、毎日のように遊び歩くようになる。
お互いのバイトが終わったらファミレスに行き長い時間を過ごした。
彼はよく私にオススメの小説や映画を教えてくれたりした。
さて、ここまでが前提、前置きである。
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【成人式当日 朝〜昼】
私の成人式当日は、前日に例の如く彼と一緒に朝方までファミレスで過ごしていたので起きたのは昼だった。
私はもとから成人式なんて行く気はなかった。
なぜなら私は小、中、高と友達と言える人間はおらず、
もちろん同級生のメールアドレスどころか
連絡先の類は誰一人知らなかった。
だから行ったところで何をしたら良いかわからないので
ハナから行かない方がいいと思っていた。
私の両親は、気を使ったのか用事があったかしらないが
午前中には家にいなかった。
私は昼ごろ起きて、彼のバイトの終わりまでまで時間があるので
レンタルしていたDVDを観始めた。
家賃の安い団地の重い鉄のドアが開く。両親が帰ってきた。
両親はおそらく成人式に行っていると思っていたのだろう。
いや、行っていてほしかったのだろう。
起き抜けの顔で、みすぼらしい格好をしてDVDを見ている私を見て両親は
深いため息をついた。
残念な気持ちと歯痒い気持ちとイライラが混じった
一番腹が立つタイプのため息。
それだけを私に投げかけ何も言わなかった。
【成人式当日 夜】
日が暮れて彼のバイト先へ行き、安いキャバクラ体験をして彼のバイトが終わってからその足で
行きつけのファミレスへ行き、
またどうしようもなくくだらない話をしていた。
その時、ファミレスに複数人の集団が入ってきた。
その集団は羽織袴やスーツなどでおめかしをした子供なのか大人なのかわからない集団だった。
私はその集団を何か知っていた。今日は成人式の日である。
というかむしろ、本来なら私もあの集団の中にいてもおかしくはないのだ。
だってその時私もれっきとした新成人であったからだ。
その集団を見て彼は言った。
「あ、今日成人式なんすねー・・・あ!・・・おめでとうございます。」
彼はその時まで私が新成人で、
本来なら成人式に行ってもいい人間だということに気がついていなかった。
私は「遅いわ!」と一応つっこんでおいた。
私はこのことをはっきりと覚えている。
なぜなら唯一私に成人のお祝いを言ってくれたのはこの友人だけだった。
親からも言われなかった「おめでとう」を
言ってくれたのはこの友人だけだ。
はっきりと覚えている。
行きつけのファミレスで彼はハットを被り、サングラスをかけていて、
ドリンクバーでコーラを飲んでいた。ストローの柄は赤。
序盤でポテトを頼んでいて、
彼はけっこうおかまいなしにケチャップを大量につけて食べる。
その時ももれなくそうだった。
「おめでとう」を言ってくれたその時はすでにポテトは食べ終わっており、皿のはしっこにポテトで擦ったケチャップの跡だけが残っている。
はっきりと覚えている。
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まぁ悲しいエピソードではあるが、ここで私のこの揺るぎない記憶と現実は大きな矛盾と隔たりがある。
結論から言うと【私が成人式の時、彼とはまだ出会っていない】
ということである。
そう。彼と出会ったのは彼が高三の終わり、私が20歳。
すでに私が行くべき成人式は1年前に終わっているのである。
成人式の日を彼と迎えるのは不可能なのである。
ありえないのだ。
私の成人式の年の一年前は彼は高2。まだバイトすらしていなかった。
私と彼との接点はどこにもないはずである。
彼と実際に過ごした期間は彼が高三の夏頃から卒業するまでの約半年。
彼は卒業して県外の専門学校へ行ったのだ。
彼とはいろんなことを話し、いろんなことをした。
その過ごした思い出が私の中では
「半年の間にあった出来事」だとは思えない。
およそ180日、いや実際はもっと短いはずだ。
ほぼほぼ毎日会っていたとはいえ会えない日ももちろんあった。
丸一日一緒に過ごすわけではなく、お互いにバイトをしたりする時間もあるわけだからギュッと詰めたら過ごした時間はもっと短いだろう。
しかし私は実際に彼と過ごした期間は半年ではない気がしてならない。
成人式当日に彼に会っているからだ。
ということは1年前には確実に出会っていることになる。
彼が高二でバイトをしていない状態で、どこか別の場所で、
別のタイミングで出会っていることになる。
彼との思い出を生成するのには180日以下では無理なのだ。
彼は
「確かにたった半年とは思えないですね。なんかもっと前から知り合っていたような感じはしますね。」と言っている。
彼もこうは言っているがニュアンス的には
「それほど気が合った」とか「充実していた」とか
そんなようなことである。そういうことではない。
(仮説)
・私と彼は以前の世界では、彼のバイト先以外のどこかでもっとずっと前に出会っていた。
・以前の世界で彼は私と成人式当日をともに過ごし「おめでとう」の言葉をくれた。
・何か、どこかのきっかけで私自身が別の世界へ(今現在の世界)へ移動した。
・別の世界(今現在の世界)ではまだ彼と出会っていなかった。そして彼のバイト先で出会う。
私だけが移動した。そう考えるとつじつまが合う。
そうそう。
彼はよく私におもしろい映画や小説を教えてくれたと書いたが、
その勧め方が激しいというかあまりにもしつこく何度も
「観れ、観れ」とせっつかれて観た作品がいくつかある。
その中でもとりわけしつこく迫ってきた作品があるので紹介しておく。
・仮面ライダー龍騎(特撮)
・シュタインズゲート(アニメ)
・酔歩する男(小説「人獣細工」小林泰三)
仮面ライダー龍騎では「ミラーワールド」、
シュタインズゲートでは「世界線の移動」、
酔歩する男では「タイムトラベル」。
彼は私にこの作品たちをしつこく勧めた。
何か意味があってのことだったのだろうか。
今や聞く術はもう、ない。