THA後の腰痛に対する運動療法
はじめに
こんにちは、Leeです。
前回は骨盤のアライメントが
腰椎より上位の脊椎に与える影響について
「Hip-spine Syndrome」の概念を説明しました。
今回はその具体的な例として
「THA(人工股関節全置換術)後の腰痛に対する運動療法」
についてお話していきます。
みなさんは臨床でクライアントさんに
「術後股関節は痛くなくなったのに、腰が痛い」と訴えられることありませんか?
「THAをすることによって股関節痛も腰痛もどちらも改善した」という報告1)がある一方で、
「対象者を年齢別にグループ分けすると腰痛が改善したグループと変化しなかったグループがあった」という報告2)もあります。
1) Hip-spine syndrome: the effect of total hip replacement surgery on low back pain in severe osteoarthritis of the hip
2)森本忠嗣 他,Hip-spine Syndrome-人工股関節置換術施行例における腰痛の検討―.整形外科と災害外科2003)
股関節の可動域や筋力自体は改善したのに、
術前の歩容が改善しない…ということも
術後の腰痛と関係しているかもしれません。
この記事では、THA術後に行う運動療法のうち、体幹の機能向上も同時に図れる方法についてご紹介します。
この運動療法はTHA術後に限らず、
腰椎-骨盤帯のMotor control障害へのアプローチにもなるエクササイズです。
この記事はこんな方におすすめです。
◆Hip-spine Syndromeについて具体的な例を知りたい
◆THA術後のクライアントの腰痛改善のための運動療法について知りたい
1. 知っておきたいRDSの病態像
前回は、臼蓋形成不全のHip-spine syndromeの病態像についてお話しました。
今回はTHAの適応となることが多いRapidly destructive coxopathy(急速破壊型股関節症 以下:RDS)についても触れておきたいと思います。
Rapidly destructive coxopathy(RDS:急速破壊型股関節症)…1970年にPostelらによって提唱された疾患概念。主に高齢女性の片側に発症する。半年~1年の短期間に急速に大腿骨頭や寛骨臼の破壊をきたし、強い疼痛を伴うためTHAを実施することが推奨されている。
RDSの要因として
骨粗しょう症などの骨脆弱性による大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折などが推察されていますが、
RDSも骨盤-脊柱アライメントが原因と考えられています。
RDSに特徴的なアライメントは腰椎後弯-骨盤後傾姿勢です。
臼蓋形成不全による変形性股関節症では、
骨盤前傾を増強させることにより
寛骨臼の前方被覆を大きくし、関節応力を分散させる姿勢をとることがありますが(図の左)
RDSは加齢にともなう腰椎後弯が骨盤後傾を伴い、寛骨臼前方被覆が減少することで単位面積あたりの負荷が増大すると考えられています。(図の右)
このように、RDSはHip-spine Syndromeのなかでもspine-to-hipとなります。
3)園畑素樹 他,脊椎-骨盤アライメントの考え方、治療計画の立案(股関節外科医の立場から).関節外科 37.NO2 2018
2. THAが脊椎アライメントに与える影響
THA後の脊椎アライメントの変化については様々な報告があります。
パラメーターとして使用されている脊柱-骨盤アライメントの用語については、岡さんの記事をご参照ください。
●対象…片側股OA患者(63例:49~88歳)
●方法…術前術後の立位全脊椎Xp側面像を用いて以下のパラメーターを測定
・股関節屈曲拘縮の評価…大腿骨軸と垂線の角度(FI)・
・骨盤パラメーター…PI・PT・SS
・脊椎矢状面アライメントの評価…Sagital vertical axis(第7頸椎の中心から降ろした垂線と仙骨の距離:SVA)
●結果…術前PT20°以下の骨盤前傾群とPT20°以上の骨盤後傾群に分けた比較において、骨盤前傾群が術後1年時点でPTが有意に増加し、SSが有意に減少していたのに対し、骨盤後傾群では有意差をみとめなかった。SVAは骨盤前傾群において術後1年で有意に減少していた。
4)山本展生 他:人工股関節置換術後の骨盤傾斜、脊柱矢状面アライメントの変化の検討,日関病師 37(2)99-104,2018
●対象…初回THA患者(61股:44~81歳)
●方法…立位Xp側面像、腰椎Xp側面像、立位全脊椎Xp側面像を用いて評価
・APP : anterior pelvic plane…恥骨結節と両側の上前腸骨棘の中点を結んだ線が鉛直線となす角
・LLA :lumbo-lordotic angle…L1椎体とL5椎体上縁のなす角。前弯が+で後弯が−。
・TKA :thoraco-kyphotic angle…T1椎体上縁とT12椎体上縁のなす角。前弯が+、後弯が-。
●結果…APPは術後1年の経過で有意に減少(後傾)した。LLA,TKAは術後に腰椎前弯と胸椎後弯が減少する傾向がみられたが、統計学的有意差はみられなかった。年齢による比較では中高年層(40歳~64歳)は高齢者層(75歳)以上に比べ、術前骨盤の前傾・腰椎の前弯が強い傾向にあり、術後は両群とも術後に骨盤は後傾したが、脊椎アライメントに有意な変化は認められなかった。
5)石田崇 他:THA術後の立位傾斜と脊椎アライメントの経時的変化,日関病誌 28(4):527-532.2009
●対象…初回THAをした股OA106例(平均64歳)
●方法…立位骨盤単純X線像正面像を用いて評価
・冠状面バランス(C7 plumb lineとS1中心の距離)
・腰椎Cobb角
・胸椎Cobb角
THA術前における最大側屈時の腰椎Cobb角の矯正率が100%以上をFlexible群、100%未満をrigid群とし、それぞれ患側凸と健側凸に分けて検討)
●結果…冠状面バランスの術後変化、患側凸および健側凸のFlexible群では冠状面バランスが1㎜以内に収束したのに対し、患側凸および健側凸のrigid群では冠状面バランスの改善をみとめなかった。
6)術前腰椎可撓性が脊椎-骨盤アライメントに及ぼす影響.稲葉裕 他:関節外科Vol.37.No2.2018)
THA術後には術前の股関節屈曲拘縮や脚長差が改善し、骨盤前傾や傾斜は改善しますが、術前後傾位だった場合にも後傾していきます。
胸腰椎アライメントにも影響するかどうかは、胸腰椎の可撓性によります。
ここまでが無料で読める内容となります。
以下では「THA後のアライメントの変化と腰痛の関係」や「実際の運動療法」について詳しく解説していきます。
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