
あなたの思い出買いますから(仮)イギリスアンティー(11)
一瞬意識がまったく無くなった。気づくと僕が僕の横にいて2人を見ているかたちになっていた。
こんなことあるんだ!初めての体験だった。自分の中にもう1人いて意識飛ばしながらで会話するってことは厄介なやつに当たった時何度かあったが、完全に自分が体から出て行ったことはこれまで一度もない。
これが幽体離脱というものなのか?ほんと不思議体験だ。
おじいさんのパワーがよほど強いのだろう。いい人でよかったと、一瞬思った。
「彩、彩、わかるかい。私だよ。彩」
おじいさんの僕は、彩さんの手を握って話しかけていた。
「あなた、あなたですね。この感触は確かにあなただわ。」
おばあさんはわかってくれたんだ。姿形は僕だけど中身はおじいさんだとわかってくれたんだ。
「こんなことってあるのね。もうあなたに会えないと思ってとても悲しくて、、、。でも会えた!本当に嬉しいわ。」
「彩、わかってくれたんだね。私も嬉しいよ。君には本当に苦労をかけたね。楽しい思い出を残してあげれなかったから、本当にすまなかった。僕はとても悔やんでいるんだよ。特に夫婦になってすぐなのにイギリスへ連れて行ってしまって、、、。」
「あなた、私は幸せでしたよ。イギリスのことも初めは戸惑ったけど、ほら、コレ、コレを買ってくれて、私をウキウキさせてくれたじゃない。あの時は行けなかったけど、あなたが本当に私のことを思ってくれてたってわかったから。私はその思い出で十分幸せだったのよ。」
おじいさんはしゃがみ込んで泣いていた。本当に愛していたんだなぁ。本当にステキな二人だ。
僕まで涙が出てきた。魂だけになっても涙は出るんだな。笑
「彩、君からそんなこと聞かされるなんて、僕は、、、コレで思い残すことなくあっちへ行けるよ。本当にすまなかった。そしてありがとう。彩」
二人は抱き合ってお互いの背中をさすりながら笑顔になっていた。一瞬だけどあの時のイギリスのあのキッチンで抱き合う二人に見えたのは幻だったのかな?
その後の会話はもう僕は聞かないことにした。二人だけの大切な思い出、時間にしてもらいたかったから。
「彩、そろそろ時間だ。またいつか会える日までキミは、しあわせに暮らしておくれ。本当にありがとう。もう行くよ。」
「あなた、あなた、私こそありがとう。本当に幸せでしたよ。
さようなら。また会いましょうね。」
僕はおじいさんの僕に重なった。ふわーっと後ろに倒れるかたちになり僕にはまっていった。
もうおじさんの姿は見えなくなったが、「ありがとう。本当にありがとう」という意識はアタマに響いていた。
「彩さん、おじいさんと話せましたか?」
手を握られたままだったが僕はゆっくりと話彩さんの手を握り返した。
「あ、あなた、もうおじいさんじゃないのね。本当にあの人は、行ってしまったのですね。」
「はい。おじいさんはいなくなりました。おじいさんも僕にお礼を言ってくれました。彩さん、大丈夫ですか?」
「ええ、思いがけないことで……う、う、う、でも…大丈夫です。
あの人に会えるなんて…思ってもみなかったから、本当に驚いたけど嬉しかったわ。コレのおかげね。」
彩さんは、膝のバスケットをポンポンと叩いて笑顔で言った。
「さあ、あなたはお仕事があるから私も戻らないとね。この家とも本当にお別れね。楽しかったことばかりじゃないけど本当にしあわせだったと思うわ。今日来てよかった。よかったらこのバスケットとお皿たちをもらってくれない?」
「え⁈いいんですか?大切な思い出のお皿じゃないですか?それに今ならコレ結構価値がありますよ。」
「いいのよ。私が持っててももう使うこともないし、私もどれだけ居るかわからないから。どなたかに使ってもらった方がコノお皿たちも喜ぶと思うわ。」
「わかりました。僕が預かっておきますね。返してほしくなったらいつでも言ってくださいね。」
「ありがとう。本当にありがとうございました。」
そう言って彩さんはバスケットをしたに置いた。
彩さんを押しながらゆっくりもう一度部屋の中を巡って外で待っている息子さんのところに連れて行った。
彩さんは素敵な笑顔で去って行った。
#小説
#イギリスアンティーク
#不思議な話
#骨董屋