コラム1:プロジェクトリスクの構造を考える
◆3つのレベルのリスク
プロジェクトリスクには3つのレベルがあります。
一つ目はプロジェクトを継続しても、プロジェクト立上げ時に期待している(プロジェクト憲章に記載している)ほどプロジェクトの目的への貢献できないというリスクです。これはプロジェクト破綻のリスクです。二つ目はプロジェクト憲章で設定した目標が達成できないというリスクです。そして、最後はプロジェクト(マネジメント)計画書で計画した通りにプロジェクトが実行できないリスクです。
例えば、新製品を開発投入し、製品ラインのブランドイメージを高めるという目的でプロジェクトを行うとしましょう。そして、新製品で新機能を実現するために適用を予定している技術が適用できないというリスクがありました。これは計画レベルのリスクです。
このリスクがどういうリスクかは、現実にこのリスクが起こったときに何が起こるかによります。例えば、新しい技術が適用できず、その影響でコストが膨らんだり、工数が増したりしそうですが、既存技術を工夫して適用することによってほぼ予定通りの機能の製品をつくれそうだとします。これだと単なる計画的なリスクです。
しかし、新しい技術を使えないので、前モデルを機能改善したレベルの製品しかできそうになく、売上げも計画ほど期待できそうにないとします。すると、これは単なる計画のリスクにとどまらず、スコープ目標が達成できないという目標レベルのリスクになります。
ここで注意しておきたいのは、計画レベルのコストや工数のリスクであっても、プロジェクトの予算や日程とは一線があることです。計画のコストや工数は制約条件であり、目標ではありません。そのためしばしば、計画通りでなくても(計画値をオーバーしても)見合うものが生み出せればよいという議論になりますが、これはその通りです。ただし、その場合も目標を達成することが条件になります。
つまり、その目標をクリアできそうにない場合には、目標レベルのリスクがあることになります。
◆目的貢献に対するリスク
さらに、プロジェクトの目的がどのくらい実現できそうかという問題が出てきます。もう少し正確にいえば、プロジェクトによる目的貢献が期待通りにできないというリスクです。
現実的には、例えばプロジェクトのスコープの目標が達成できなくても結果として目的がある程度達成できることはありますが、プロジェクト計画はプロジェクト憲章に示されるロジックに基づいて、目的を実現する(目的貢献する)ために目標を設定し、目標を達成するために計画に落とし込んでいくのが本来の姿なので、このような場合の議論はここではしません。
このような前提で考えると、目標が達成できそうな場合には目的に対するリスクはないと考えられますが、目標が達成できない場合目的の実現度がどのくらい減少するかが問題になります。
仮に、製品のブランドイメージを上げるという目的に対して、スコープ目標を達成できない製品では期待通りの貢献はできないとすれば、目的実現レベルのリスクがあることになります。しかし、日程の目標が達成できなくても期待通り目的に貢献できる場合もあり得えます。
◆受容すべきリスクと回避すべきリスク
リスクマネジメント計画でまず考えるべきことは、リスクにはこのような構造があるということです。これはそのリスクの本質がどこにあるのかということを洞察することを意味しています。その上で回避(転嫁)するか、受容(軽減)するかといったスタンスを決めた上で適切なリスク対応を決定する必要があります。
製品開発のような一般的なプロジェクトであればリスクの発生率や影響度にはある程度の個人的な感覚が入りますが、基本的には以下のようなスタンスになると思います。
リスクが計画レベルであれば、受容すべきです。計画レベルのリスクに対しては軽減も取る必要がなく、でどんどんリスクを取った計画を考えるべきです。実際にリスクが発生してもプロジェクトの失敗に直結する可能性は低いからです。
目標レベルのリスクがある場合が、もっとも難しいケースですし、プロジェクトマネジャーの腕が問われるところです。ある意味で、どうするかはプロジェクトマネジャーの考え方一つだとも言えます。まず、最初に言えることは、そのまま受容するには、プロジェクトへの影響が大きすぎるということです。その意味では軽減は必ず必要です。プロジェクトの成功は計画の実行ではなく目標の達成だと考えれば、リスクマネジメント計画がしっかりとできていれば失敗の可能性は極めて小さくなるでしょう。
この際、リスクを回避する必要があるかどうかは、目標の未達成が目的実現にどういう影響を与えるかによります。注目している目標が達成できなければ目的の実現度が激減するようであれば、そのリスクは取るべきではありません。回避すべきです。しかし、目標が達成できなくても目的の実現度があまり減らないとすれば、軽減した上でリスクを受容することが適切だといえます。
◆目標設定のロジックに立ち戻る
ここで考えるべきことは、目標が達成できなくても目的実現度があまり変わらない場合に、その目標設定のロジックは正しいのかということです。
上の例でいえば、製品のスコープ目標が達成できないときに、ブランドイメージの向上という目的への影響が小さいのであれば、新規機能の実現がブランドイメージの向上になるというロジックが妥当なのかどうかを考え直してみる必要があるということです。
◆リスクの構造を洞察して、マネジメント計画を考える
コンセプチュアルなリスクマネジメントとしては以上のようなものですが、これをコンセプチュアルスキルとしてみると、リスクには構造があることを十分に認識して、リスクの本質がどこにあるのかを考えるために、リスクによる計画実施への影響、計画から目標、目標から目的への影響を十分に洞察し、その上でマネジメント計画を考える必要があるということになります。
難しいのは、リスクの本質に対処することがプロジェクトの成功に結び付かない場合があることです。例えば、新機能のために適用しようとした技術にリスクがあるものの、既存技術でほぼ同等な機能の実現が可能そうです。しかし、このプロジェクトの目的は製品ブランドイメージ向上であり、そのためには新しい技術を適用することが不可欠だとします。この場合、技術のリスクの本質はブランドイメージを向上できないというリスクであり、これは目的に対するリスクです。
◆リスクの構造と組織の構造
ここで、技術適用のリスクの発生確率が高いときにどうするかは悩ましいところです。これは、別の見方をすればプロジェクトとしてはあまり重要なリスクではありませんが、プロジェクトに関する経営リスクが大きいということになります。このような場合、組織的なプロジェクトマネジメントができている場合には、リアルタイムで情報が共有され、経営的な判断ができますが、プロジェクトは現場の活動であるという位置づけになっていると、適切な判断ができません。
結論からいえば、このようなリスクはプロジェクト憲章で指摘され、プロジェクトの企画を変更する必要があるわけですが、リスクに構造があることを意識していないと見逃されることが多くなります。
つまり、リスクを構造的に扱うには、組織的なプロジェクトマネジメントが不可欠だということになります。もちろん、その組織は適切に洞察を行えるコンセプチュアルスキルを持つことが不可欠になります。
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【エクスサイズ】顧客の要求を疑う
【エクスサイズ】顧客の要求の本質を追求する
3.クリティカルシンキング応用(2)~リスクマネジメント
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2020年 06月 22日(月) 13:30-17:00
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━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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日時:【ZOOM】2020年 06月 22日(月)13:30-17:00(13:20入室可)
~2020年 06月 23日(火)13:30-17:00(13:20入室可)
場所:ZOOMオンライン
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鈴木 道代
(株式会社プロジェクトマネジメントオフィス、PMP、PMS)
詳細・お申込 https://pmstyle.biz/smn/critical_practice.htm
主催 プロジェクトマネジメントオフィス
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