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あまりにもおいしすぎて思わず笑っちゃうから、僕なりのおすそ分け。

おいしいを超えた感動を作りたい。

そんな想いでできたレストランが僕が働く「sio」です。7/20、もうすぐ4周年を迎えます。

この写真、何度見てもかっこいいんです。

そして、昨年10月には新たなレストランが出来ました。

ここには、「sio」で学んだこと、感じたことを活かしながら、僕たちが考える理想のレストランを詰め込んでいます。

その結果、できあがったのは″架空のホテルのレストラン″。

その名も「Hotel′s」です。

まるでホテルのラウンジのようなしつらえ。心地よい空間とサービスで、朝昼夜異なるスペシャリテが楽しめます。

そんな「Hotel′s」で新しい取り組みが始まりました。オーナーシェフの鳥羽周作が厨房に立つ″トバナイト″です。

厨房を離れるという決意をして、早3年。
ありがたいことに想像以上のスピード感でレストランから離れることになりました。

幸せの分母を増やすために、人にポジションを明け渡していく。

会社ができて4年足らずで、直営店は8店舗に増えました。
YouTubeのチャンネル登録者数は開設から1年で33万人を超えました。

さらに、ローソンのアイス、ミニストップのタレ弁など、たくさんのパートナー企業様とのお取り組み。
数万〜数十万人の方に″おいしい″を届けられるようになりました。

ひとつの夢だったコンビニスイーツ。

幸せの分母を増やし続けることの代償

目まぐるしい毎日ですが、幸せの分母を増やすために、チームもやれることも急拡大しています。

一方で、シェフは直接料理を振る舞う機会が減りました。

料理人は、作った料理を食べてもらい、喜んでもらうことが生きがいの一つではないでしょうか。

2年前までは自分も料理を作っていました。

″お客様から喜びの声を直接貰える″

そこから得られるパワーはかけがえないものです。そのためだけに頑張れると言っても過言ではない。その気持ちはよく分かります。

しかし。
人生の時間は有限な中で、たくさんの人に美味しいを届けたいと思ったシェフは厨房から出る決意しました。

「直接料理を提供するその時間、その機会を減らすことで、おいしいを届けられる総数を増やすことができるのではないか。」

シェフはそう考えて、会社を、チームを作って日々奮闘しています。(僕はそう理解しています)

毎日、たくさんの料理を作っています。
ほんとうに、たくさんのレシピを。
そして、チームで形にしているのです。

「絶対に″美味しい″を置いていかない。」
というこだわりを持ったシェフは、尋常じゃなくこだわります。

触れるものすべてを学んでいって、もっともっと美味しくしたい。
目の前のことをお客様起点で考えていくとアイデアが泉のように湧いてくるのです。

そして、人に会うと、とことんプレゼンします。
目の前にいる人にとって、少しでも何かヒントになれば。持ち帰られるものがあればと熱を込めて話すのです。

だから、有難いことにこの4年間たくさんのことが始まっているのだと思います。

そんな中でも、お店に立てる日は立っていました。どんなに疲れていても夜はsioに戻り、お客さんに料理をつくる。なぜおいしいのか、自分たちなりの理由を伝える。だって、料理が好きだから。それしかないと思います。


でも、少しずつジワジワとお店に立つ日も減ってきました。

そんな中。
「鳥羽さんが目の前でつくる料理を食べたい」という声が耳に入るようになりました。

その気持ちも、めちゃくちゃわかります。
僕らは、試作の後にその料理を食べられます。
この上なく、ラッキーなポジションなのです。
きっと、この特等席のチケットが売っていたら買いたい人だってたくさんいる。そう思います。

レストランからコンビニ弁当/スイーツまで、色んなレシピを作っていますが、実際美味しいから凄いんです。

料理人として、やれることは全部やる。
分母を増やしながら、やれる範囲でお客さまの期待に応える。

じゃ、お店に立つ日を決めよう。
せっかくなら全力でその時しか食べられない料理を作ろう。

そんなわけで始まったのが「トバナイト」でした。

思わず笑顔になる、10皿のキセキ

さて、初回は5月22日に行われました。
すみません、僕も行かせてもらいました。

その代わりにたくさんの人に伝える必要がある。
そう思いましたので、ていねいに解説していきます。

1皿目 アボカドのスモーブロー 白海老と牡丹海老のマリネをのせて

鉄板でカリッと焼き上げたバゲットの上には、プレミアムリッチという品種のアボカドを乗せて。

アボカドのねっとりとした食感に、合わせたのは白海老と牡丹海老。やさしい甘味、旨味が重なります。

グレープフルーツ、ライムのゼストで爽やかさを加えられました。
一口で何層も重なりがあるフィンガーフードです。

2皿目 牡蠣とサワークリームとグラニテ

小ぶりで旨味が凝縮した牡蠣を使用しています。
サワークリームとライムのグラニテでさっぱり、今回はさらに輪郭を付けるための塩味のアプローチとしてキャビアを添えて。

オリーブオイルの香り、サワークリームの甘酸っぱい印象から、時間とともに牡蠣の旨味が口に広がり、最後はハーブの香りが鼻を抜けます。

一口でコースのようなストーリーが楽しめるHotel′sのスペシャリテです。

3皿目 鮪のカルパッチョ

こちらもストーリー仕立てになっている一皿。まず一切れは赤身の瞬間漬けをたっぷりの薬味とともに。
次に、中トロはトマトとともに。両者の旨味が共鳴し合う。
最後は、脂の乗った大トロをスライスされた大根とともに。ねっとりした大トロと大根の食感がたまりません。さながら、からすみ大根。

3枚それぞれに合わせる野菜が異なり、狙いによってほんの少しずつ厚さが異なるのだといいます。

″全てはカットから始まる″
食材との対話を意識するというシェフの料理哲学を改めて感じました。

4皿目 じゃがいものラビオリ ゴルゴンゾーラソース

うずらの卵の目玉焼きが乗ったかわいらしい見た目以上に、とんでもない料理でした。

歯切れの良いラビオリに合わせたのはホワイトアスパラとスイートコーン。はじける食感、やさしい甘み。決して全体がぼやけない絶妙な塩梅のゴルゴンゾーラソース、仕上げに辻田さんの山椒の香りで天にも昇る心地です。

今年食べた料理で1番衝撃のおいしさ…と思うのも束の間でした。

また次の皿で衝撃を受けることになるのです。

5皿目 鮑とズッキーニのソテー、イカ墨のピューレ

この皿に込められたイズムは「サウナ理論」。
何度食べても感動するのはその計算し尽くされた塩加減。

アカリヤスとおかひじきのサラダの下に隠されたのは鮑とズッキーニのソテー。漆黒のバーニャカウダソースはしっかりとした塩味、でもそれには理由があって。コリコリとした食感の鮑、ジューシーなズッキーニ。

異なる楽しい食感だが、それぞれ実は淡白になってしまいがち。だからこそしっかりとしたソースの塩味と旨味で食べさせるのです。

身近な例だと、居酒屋の人気メニュー もろきゅう。味噌の塩味を感じながら噛んでいくと口の中できゅうりの水分が馴染んでいき、なんとも心地が良いものです。

構成されたパーツそれぞれの特性を意識した上で、全体の塩梅を点で捉えていく。
改めて、塩加減こそがおいしさの本質だと思いました。

もちろん味見はすると思います。
でも、すべて何度も微調整して提供できるわけではありません。温度を犠牲にする可能性もある。

毎回最短で、できれば一発で味(塩加減)を決めてこそ、感動のおいしさを提供できるのではないでしょう。

思えば、スパイスカレーを作ることが好きだった僕。実験するかのように、何度も何度も塩を加えていました。どれくらいの距離感なのかが、瞬時にはわからないからです。また、同じ材料でも数人分を作る時と大量に作る時ではどこか違います。

レストランは刻一刻とシチュエーションが変わる。同時につくる料理も、つくる量も。
ブレずに最短距離で塩梅を決めるのは、ゴールイメージが明確に描けていて、さらに狙った場所に流し込める技術がなければいけません。

これが、紛れもなく天才の仕業なのだと思います。

6皿目 黒毛和牛ヒレステーキ

薪の香りが移ったシルキーな舌ざわりのヒレはていねいにカットし、ホップ入りの苦い塩を軽くつけてゆっくりと口に運ぶ。

「え?」

あまりのなめらかさに思わず声が出ます。

まったくストレスなく、ストンと落ちるように切れる肉質。それも常に最高の状態で用意するナイフがあってこそです。

肉を楽しんでもらう舞台を整えただけなのかもしれません。
シンプルだからこそ難しい一皿なのだと思います。

7皿目 蛤の冷製カッペリーニ

焼肉は冷麺、Hotel′sでは冷製パスタ。

「そろそろさっぱりした一皿を」と出てきた料理は、蛤の旨味をしっかりと吸わせてキンキンに冷やした冷製のカッペリーニ。上には蕪のサラダを添えてあります。

旨味のボリュームがしっかりとあるからこそ、冷たくてもボヤけることがありません。

感動とは隙のない設計があってこそ生まれるものです。ここにもまったく気を抜きません。

8皿目 神戸牛のチーズスライダー

マクドナルドからグルメバーガーまで、色々食べてきました。問答無用でおいしいはずのハンバーガーの世界にもまだまだ上がありました。

レストランで食べるハンバーガーはまず温度が違います。そしてこの日はいつも以上に熱々でした。持った瞬間に興奮するほどに。

サクッ。かぶりつく。
音が違う。大きく耳に響く。

熱々が、こんなにも嬉しいのか。

とにかく旨味の多重攻撃。シンプルなチーズバーガーなのに、甘味、酸味、塩味、旨味のバランスが絶妙で、これまで食べたバーガーの中でダントツで美味い。

完全に手前味噌ですが、日本一ハンバーガーが美味しいレストランです。

9皿目 香りそびえ立つカルボナーラ

「まだいけるなら、カルボナーラも食べます?」

はい、もちろん。

「カルボナーラは塩と香りのパスタだ」とシェフは言う。卵とチーズで濃厚なイメージだが、シェフのはそうではありません。

透明感のあるカルボナーラなのです。

カリカリに焼くことでパンツェッタの香りを油にうつします。卵液には白トリュフオイルを加えさらにリッチに。

その香りを最大限に楽しんでもらうために、ポイントがふたつあります。

ひとつは、塩が決まっていること。
最近になってはじめて聞いたが、塩が決まると香りが立ち方が変わるらしいです。まだそんな引き出しが隠されていたとはどこまでも恐ろしい…だが、もちろんしょっぱくない。そこもまた絶妙な塩梅なのだ。

もうひとつは、温度。
卵液が固まる直前まで熱々に、それを閉じ込めるようにパスタを盛り付け、客席まで最短で届ける。フォークでパスタを持ち上げると、中から湯気とともにそそる香りがこれでもかと立ち込めます。

カルボナーラはシェフのスペシャリテだ。

並々ならぬこだわりが詰め込まれています。レストランで出すカルボナーラとご自宅でつくるカルボナーラでレシピを分けているのはそんな理由もあるのです。

なかなかお店でも作ることが許されていない、特別な思い入れがある一皿。
皆さんにもぜひ一度召し上がっていただきたいです。

10皿目 マジョラムのミルクジェラート

シンプルなミルクアイスで余韻に浸りながらコースを締めくくります。

なんだか、青空にうかぶ雲のようにも見えてくる。

あぁそうか。
このターコイズブルーの器の上にこのアイスが乗っている風景が浮かんで鈴木麻起子さんに器を依頼することになったんでした。

思わず笑顔になるこのアイス。

実は器に込められたメッセージも
『この器のまわりが笑顔で溢れる場所になりますように』

まるでこうやって盛られることが決まっていたかのように、間違いなく笑顔で溢れているのです。

そうして、全10皿のコースが終わりました。

何から何まで、本当に美味しかった。

まだまだ勉強しなければ言語化して説明することが難しいのですが、ペアリングも素晴らしかった。ぜひ詳しいワインのことはHotel′sのマネージャー青山に聞いてみてください。

以上が、僕からのトバナイトのおすそ分けです。五感でフルに体験した150分間を伝えるとなると、長くなってしまいました。

すこし脱線しますが最後に。どうしても伝えたいことがあるので書かせてください。

モチベーションは、誰よりもファンであるから。

この会社に入って、もうすぐ3年が経ちます。
これまでの社会人生活は1年〜1年半で色んな理由で、転職していました。

正直、逃げ出していました。
もちろんそれぞれの得手不得手がありますし、その人にしかわからない環境の難しさがあると思いますので逃げ出すなと言ってるわけではないです。

僕は、我慢強い方ではないと思います。
サウナもすぐに出たくなるし、水風呂に入るのも得意ではありません。

そんな僕がなぜこの仕事を続けられているか。

それは、自分自身が圧倒的にファンだからです。
だから、広報という伝える、届ける、届けきる仕事をしているんじゃないかと思ってます。

しかし、どんな時も盲目になってはいけません。
常にお客さまがあっての仕事です。
元々自分自身もお客さまだった時の気持ちを忘れてはいけないと思っています。

sioで初めて食べた時に衝撃だった鰆とグリーンカレー。思えば、そこからずっとファンなわけです。

そして、今回の全10皿で改めて、僕は思わず笑ってしまうような感動のおいしさが好きだし、生きがいなんだと気付きました。

お世話になったあの人にも、名前を知らないあなたにも。
僕らの料理を食べてほしいから伝えていく。

もはや、ただのおせっかいなのかも知れません。でも、好きなものは好きだからしょうがない。

これからも、自分にしかできないやり方で″おいしい″を届けていきたいと思う夜でした。

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