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あなたカチョエペペ、ぼくジェノベーゼ
隣で召し上がっている方が、過去一番のカチョエペペだ、頼んでよかったと言った。
その方は言わずと知れた食通の方だ。
シェフはカウンターの向こうで、反射的にガッツポーズをした。
ぼくが働くレストラングループ「sio」
そして、オーナーシェフである鳥羽周作が今厨房に立つ「sio AOYAMA」
12月にリニューアルをしたばかりのレストランだ。
そのレストランに詰め込まれた美味しいへの飽くなき探究心、おいしいを愛するすべての人に届いてほしいから、書き記したいと思う。
これほど、考え抜いているか?
シェフからそう突きつけられた気がした、隙も無駄もない美味しいのコンビネーションパンチ。
天才とは、俯瞰して見える領域がある人だ。
それは、圧倒的に考え抜き、試し、直し、見続けることで、見えていないことがないほどに全体像がくっきりと描ける状況なのだと思う。
イタリアの郷土料理リボリータからはじまり、自らで自由に厚みをつくるカルパッチョ、あたらしいスペシャリテsioのタルト。前菜でガッと心を掴まれると、4キロの鰆、攻めのボンゴレ、まるで焼き鳥な舞茸、とにかく温度にこだわったふなきさんのミニトマトと続く。メインには薪と鉄板、オーブンとそれぞれ役割が違う火入れをしたフランス産の鳩。先ほどのど直球なお口直しとは打って変わったにんじんと柿のミルフィーユアイス、ジェノベーゼにグランキオ、そして、無重力アイス。
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シェフの思想が生んだsioというレストランがもつ″美味しい″の探求。
そして、この7年10店舗に散りばめられたクリエイティブの集積が詰まった圧巻のフルコース。
隙のないコースが生んだのは、高揚感。
本当の美味しいは、箸も筆も止まらなくなるのだ。
最強の、真の料理人とは
技術を磨かないのは論外ではあるが、腕っぷしを鍛えるだけでは甘く、誰かを喜ばせるためにどこまでも疑い、これしかないと思えるところまで考え抜ける人こそが料理人。
面倒だから美味しいのに、もはや面倒ではないのが真の料理人なのかも知れない。
人間だから、ときには面倒くさいこともあるだろう。でも、めんどくさいという気持ちに毎日打ち勝つことができる人こそが、感動をつくる。
世の中の大事なことは、たいてい面倒くさいんだよ
宮崎駿さんもそんなことを言っていた。行き着く境地はシンプルなんだろう。
きょうも、胃袋を掴まれる
ぼくは、誰もが食べたことある料理をまだ食べたことない美味しさに仕上げることのむずかしさに、どこか慣れてしまっていた部分があるのかもしれない。
その奇跡はなかなか出会えるものではない。
でも、この会社に入ってもうすぐ丸6年の中で、出会う機会が多すぎた。
なんて不幸で、なんて幸せなんだと噛み締めたジェノベーゼ。
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熱く、綺麗で、美しい。見た目だけではなく、思考の過程を知りながら確かめるようにもう一口。
エレガントに纏う清涼感、抜群のキレを生むアルデンテ。
美味しいだけではない感動をつくるためにできることは、まだ見えてないだけで、そこら中にある。
そのすべての可能性を探る終わりなき旅を、続けるモチベーションがあるかどうか、がsioなのかもしれない。
それは、自分のやりたいことが、相手を喜ばせるということに重ならなければ、いつか源泉は枯れてしまうのだろう。
時には迷い悩みながらでも、それを続ける選択を。ぼくも感動をつくりたい。
僕はまた一つsioのことを、料理人という仕事の尊さを知った。
あの無邪気なガッツポーズを見て。