一流の編集者が持つ「気にしい力」「やりきり力」「普通力」ともう一つの力。
言葉は、誰が言うかによって、より重力がかかります。
編集者はもっと、自分自身がおもしろがっているかどうかに敏感になるべきではないでしょうか。
ー 世の編集者へ。自分が読みたい記事を作っているか?|株式会社WORDS竹村俊助氏による編集相談室
そのコンテンツ、誰がおもしろがるの?の章より
前田裕二さんの『メモの魔力』、佐藤可士和さんの『佐藤可士和の打ち合わせ』の編集者で株式会社WORDSの代表である竹村さんは、編集者について、そう言いました。
ある人曰く、耐久性・柔軟性を備えた素材のような人。
何にでもなれる。そして、風雪に耐える強さがある。言わばゴアテックス。
そして、『嫌われる勇気』『ゼロ』『漫画 君たちはどう生きるか』の編集者である柿内さんは、編集者の仕事について、こう言いました。
やっぱり編集者の仕事って、著者のいちばん言いたいことが何かというのを、著者自身が気づいてない可能性も含めて適切に見極め、それが最適な形でアウトプットできればよいわけです。
ー やりたいことなんてなくていい。プロの編集者とは「機能」にすぎない
「企て、画く」よりも、「拾う」の章より
ある人曰く、博識な永遠の小学生。
圧倒的な知識と探究心がありながら、無邪気さとピュアな感性で世の中と向き合っている。まさかあの名探偵の類?
ある人とは、WORDS竹村さんの下で働くとよふくさん。
とよふくさんと話す中で形づいた、一流の編集者が持つ4つの力について。今回が取材記事の後編になります。前編はこちら↓
編集者とは、編集者的視点とは何か?
取材を通して、編集者とは何たるものか、が「こうなんじゃないかな」と形づきました。
辞書を調べると、編集とはこのように定義されています。
新聞,出版,放送,通信など一般にジャーナリズムの世界において,一定の志向性をもって情報を収集,整理,構成し,一定の形態にまとめあげる過程,またその行動や技術をいう。
志向性…。聞き馴染みのないことばです。
調べてみると、『現象学で、すべての意識は常にある何ものかについての意識であるという、意識の特性をいう。 指向性。』と書いてあります。…まだよく分かりません。
こちらのサイトにようやく分かりやすく書いてありました。
志向性とは、個人が持っている(向かっている)意識ということです。個人個人が大切にしているスタンスや考え方などの価値観を総称して志向性と呼んでいます。
編集者独自の視点を持って、情報を収集,整理,構成し,一定の形態にまとめあげる過程,またその行動や技術を編集というのです。
さて、それでは編集者はどういった視点を持つと良いのでしょうか?
視点とは、物事を見たり考えたりする立場や観点のことを言います。
では、編集者的視点とは、何か。
クライアントワークなのかなぁ、とよふくさんはそう言いました。
実は、シェフもクライアントワークという単語を良く使うため耳によく馴染みます。ことばの意味そのままだと、顧客から依頼された仕事です。
しかし、僕らはもう一歩踏み込んでこの言葉を使っていきたいと思います。
シェフはクライアントワークということばを紹介するときに、アーティストとクリエイターの違いについて説明します。
シェフの話を聞く中で、僕はこのように捉えています。
アーティストは、自分の内側にあるものを表現する人。
一方、クリエイターは、クライアントの内側にあるものを表現する人。
クライアントワークとは、クリエイターとして、クライアントの内側にある願望を形にすることではないでしょうか。
そして、クライアントがイメージしているアウトプットを形にするだけでは不十分です。
クライアントが想像し得なかった"願望が叶う未来"を形にすることが本物のクライアントワークだと思うのです。
つまり、編集者的視点とは、クライアントの本当に達成すべき未来を形にするための視点が重要ではないか、と思います。
そのためには、どんな力が必要になるのでしょうか?
取材力?文章力?デザイン力?なんてものもあると思います。
しかし、今回の取材を通して、自分の中では新しく4つの力にまとめることができました。
①これまでの短所が長所になった『気にしい力』
とよふくさんは「商社でゴリゴリやってる人すごいな」とコミュ力が高い友だちと比較しては、落ち込んでいたことがあったそうです。たしかに、僕も人の活躍を見ると、羨ましく思うことがあります。しかし、周りの目を気にしたり、比較しても、得になることはほとんどありません。
とよふくさんがそんな自分の個性を竹村さんに打ち明けると一言。
「編集者は、それが強みになるよ。」
そうなのか。もしそうなのであれば、編集者は天職なのかもしれない。
と、とよふくさんは思えたと言います。
気にしいは、何でも気にしすぎてしまう人です。
ものごとに、アンテナがつい立ってしまうと言えます。
アンテナが立っていることを一個ずつ向き合うことができれば、何度も自分の中で問いを立てることができます。
この取材でクライアントの魅力を引き出すことは出来ているのか?準備は足りているのか?
クライント視点、顧客視点、編集者視点の3つを行き来する中で、本当にこれで間違っていないと言い切れるのか?
この言葉、この言い回し、このストーリーでクライアントが伝えたいことを最大限に届けきることができるのか?
そういった問いを心のなかで、ずっと唱えられる人なのではないかと思います。
『気にしい力』とは、目盛りが細かい人なのです。
②すべてを詰め込むための『やりきり力』
「竹村さんは『やりきり力』があるんです」と、とよふくさんは言います。
①にもつながりますが、気になったことが多ければ多いほど、問いが生まれます。すると、一つの原稿を作るまでに、チェックポイントがものすごく多くあるのです。それを一つ一つ丁寧に対応していくには根気も体力も要ります。
気にするだけではダメなのです。放っておくのが気持ち悪いと思うレベルまで達成するには、目盛りを細かく、さらに視座を上げておく必要があるでしょう。
そこには少しの頑固さが必要です。圧倒的な巧さと速さでピッチ上を切り裂くメッシのような、自分でも他人でも邪魔するものは許さない気概を持った「ナイト(騎士)」を飼っていなければいけないのです。
③面白いのど真ん中を知る『普通力』
「編集者はプロの″普通″であれ」と柿内さんからとよふくさんは言われるそうです。
さらに続けて、
「何にも知らずに偏差値50なのか、色々知って偏差値50に留まるのかは違う。」
と言います。
突然ですが、good design companyの水野学さんの著書『センスは知識からはじまる』ではこう書かれています。
センスとは、数値化できない事象を最適化することである
そして、普通についてはこう書かれているのです。
普通とは、「いいもの」がわかるということ。
普通とは、「悪いもの」もわかるということ。
その両方を知った上で、
「一番真ん中」がわかるということ。
「センスがよくなりたいのなら、まず普通を知るほうがいい」
と僕は思います。
普通を選択してこそプロの″ふつう″、という先程の話にリンクしました。
面白いのど真ん中を知っていて、つまりお客様に刺さるものを知っている、『普通力』がなければ、たくさんの人に届けることはできません。
大切なのは、自分の面白いがズレていないこと。
「柿内さんは何千本も映画を観ている映画マニアだけど、アベンジャーズを素直に面白いって思える人なんです!」と、とよふくさんがそう言っていた意味とそのすごさが少し分かりました。
世の中の普通を理解した上で、狙った普通を作り出すのが、編集者の仕事なのかもしれません。
④実は1番大事かもしれない『併走力』
編集者はアーティストではいけません。
自分の中の内側を表現したいと思ったその瞬間、編集者ではなくなってしまいます。
クライアントが(客観的に見ると)どのポジションにいて、どうして悩んでいて、これからどうしたら良いのか、を一緒に考えていくのが編集者の仕事なのです。
まさにこれをやっているのがWORDSさんで、顧問編集者という仕事をしています。
WORDSの代表である竹村さんは、”経営者は「未来をつくるクリエイター」”と定義しています。
未来に向かって走るクリエイターに対する顧問編集者の役割は3つあると書いています。
※note『社長の隣に「編集者」を』より抜粋
どんなビジネスも最終的には人同士がやることですので、いかに人に見つけてもらうか・人に興味持ってもらうか・人に理解してもらえるかが重要で、そのためにはコンテンツや情報へのデザイン力が必要不可欠です。
しかし、多くの人は自意識が捨てられないものなのでしょう。自分のことばで伝えてしまいがちです。だから、そこには編集者的視点が必要なのです。
経営者自身が本当に進みたい方向を見定めながら、ことばをもって、道を作っていくことが編集者の仕事だ、と思いました。
決して、こちら側のエゴでは進めず、あくまでクライアントである経営者のゴールイメージがあってこそ。ないなら作る事から始める必要があるかもしれません。そこに向かって一緒に走っていく『併走力』が必要になります。
とよふくさんは、前職の出版社で営業の後に、編集者になりました。
自分が取ってきた本の編集に携わることになったのです。しかし、まだ新米だったため、先輩たちの方針には逆らえず、自分が思い描いた企画には辿りつけませんでした。自分の不甲斐なさを痛感し、その時の悔しさを晴らすために、今、顧問編集者をやっているように思います。
『伴走力』を持っていなければ、クライアントワークができません。
つまり、編集者にはなれないのではないでしょうか。
とよふくさんが持つ "誰が為に頑張れる"という価値観は持って生まれた才能のように思います。
…おや?と思いました。いつもシェフが言っていることと同じく、編集者も「愛」が必要なのではないでしょうか。
そして、編集者における愛とは?
困った時は、辞典を開きます。長くなりましたが、この章で終わりです。
世界名言大辞典を開き、愛について紐解いていきます。
まずは、大正から昭和にかけて旧制高校生の間でベストセラーになった「愛と認識との出発」。著者である倉田百三は愛について、こう言っています。
愛とは他人の運命を自己の興味とすることである。他人の運命を傷つけることを畏れる心である。
また、社会学の祖と呼ばれるフランスの哲学者 コントが「実証政治体系」の中で説いた愛とは、こう書かれています。
愛の本質は個人を普遍化することである。
普遍化するとは、普及すること。
つまり、いつでもどこでも誰にでも当てはまるということ。
誰かの当たりまえを作ることとも言えるのではないでしょうか。
そして、「三大幸福論」
の一つを著したヒルティは、「眠られぬ夜のために」の一節で、愛についてこう述べています。
愛はすべてに打ち克つ。
つまり、「気にしい力」「やりきり力」「普通力」「併走力」はすべて愛と同義です。
愛という言葉は曖昧です。
きちんと紐解いてみると、編集者も「愛」に立ち帰るのでした。