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ペアリングを超えた唯一無二のマリアージュレストラン|JULIA シェフ naoさん・ソムリエ モトさん 【 #僕らの家族 】

マリアージュとは、ワインと料理が相互に高め合う口福体験である。

もう一つ、結婚という幸福な意味がある。


外苑前にあるレストラン、JULIAを知っているだろうか。

ワインから着想を得て月替わりで内容が変わる10皿前後のフルコース。
料理とワイン、息の合ったコンビ。

それもそのはず、夫がソムリエで妻がシェフだ。サービスの才能を遺憾なく発揮してもらうために、未経験ながらもシェフの道を選んだnaoさん。今はシェフを支えるモトさん。

今回の僕らの家族では、そんなふたりのお話をさせていただきたい。


覚悟と愛が尋常じゃない。
こんな愛され方、聞いたことない。
こんな人たちとの出会い、なかなかない。

明るく笑顔で、とにかく仲が良い。
ふたりが醸し出す空気に楽しまされる。

僕も色んな人から聞いていたし、ファンがたくさんいることも知っていた。

あるイベントで初めてお話をして、ようやく食べに行く機会を手に入れた。


JULIAのドアを開けると変わらない笑顔で出迎えてくれる。お洒落なカウンターレストランなのに、アットホームな雰囲気がある。2人でレストランを回すには非常に大変である。

ワインを注ぎペアリングの説明しながらキッチンの状況を確認し、料理が出来たら盛り付けを手伝い次々とお客様へサーブする。外国人のお客様にもしっかりと説明しながらそれでいてきっちり笑いを取る。

モトさんは、デキるサービスマンだ。

naoさんの料理は、フレンチの技法をベースにしながら他にはないアプローチがあり、独創的ながらまとまりがありおいしい。
さらにワインを重ねるとさらに変化する。
ここでしか食べられない、まさにレストラン。

となりのお客さんは常連だろう。安心しきった様子で、また好きそうなワイン入ったよ、と注がれるワインと次々と運ばれる料理を楽しんでいる。

かけ合いも随所に楽しませていただきながら、あぁこの感じがアットホームなのか、と気がつく。
料理とワイン、ふたりとお客さんの関係性が作る世界観。

唯一無二のマリアージュレストランだ。

信じる力は、道を照らしてくれる

JULIAのサービスであるモトさんこと、本橋さんは付かず離れずの距離感でどこまでも気持ちの良いサービスマンだ。

才能がある人は声が違う、と耳にしたことがある。
モトさんの声は脳に響く独特のトーンを持っている。

そんなモトさんの才能に惚れたのは、naoさん。

ふたりは、沖縄のリゾートホテルで出会った。バカンスではなく仕事。スタッフ同士、上司と部下だ。仕事のできる上司が故に社内で板挟みに合い窮屈そうに見えるモトさんの才能をもっと光らせたい。自由に動ける環境を作りたい。

私が料理をするから、あなたがサービスをして。


ふたりにしか出来ない空間はこの約束から生まれて、茨城、恵比寿と場所を移しながら外苑前にやってきた。今では予約が取れないレストランである。

そんなふたりも茨城から出るときにはこれからどうしていくか話し合いをした、という。

もっと、本格的に料理をしたい。


時に互いにぶつかりながらも毎日愚直に取り組むnaoさんを、モトさんは全力でサポートすることを決めた。

naoは、凄いんだよ!才能があるんだ。
とまた脳に響いた声はとにかく嬉しそうだった。

お客様との約束を守るために、作り続ける。

モトさんの話を聞きながら、忙しなく手を動かして仕込みを進めるnaoさんに目を移すと、スペシャリテのスライダー(ミニサイズのハンバーガー)のバンズが焼き上がっていた。

バンズを型から外しながら並べていく。これまで何千個と焼いてきた。実は移転を機にやめようとしたこともある。しかしお客様から『やめないでくれ、心が落ち着くんだよ。』と言われて以来、ずっと続けている。

JULIAのおふくろの味だ。


JULIAは、毎月1日にコースを変える″約束″をしている。メニューが決まらず朝を迎えた月も、営業前ギリギリまで試作し臨んだ日ある。だからこそ毎月来てくれるお客さまもいる。約束は、5年を超える。

元々は、独学のコンプレックスからだった。それは、毎日料理と真摯に向き合うことで揉み消すしかなかった。毎月のコース替えは自分たちへ課した課題であり、期待してくれるお客さまとの約束だ。


積み重ねる日々の中、さらなる進化のために恵比寿から外苑前への移転の合間でアメリカに渡った。


現地のレストランでキッチン研修する中で、火入れ、盛り付け、調味の高い技術が認められて、3日後はスーシェフのポジションになった。

naoさんはシェフから

”Where did you practice?(どこで修行してきたんだ)”

と尋ねられ、こう答えた。

「Myself.」

キッチン内は称賛の声で溢れた。独学のコンプレックスは確かな自信に変わった。やってきたことは無駄じゃない。私たちは着実に進んでいる。


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そんな2人が目指していることは何かを聞いた。ミシュランで星を取りたいという。
たしかにTwitterでも投稿を見かける。

何でそんなに星にこだわるのか?
理由は何なのか?

深掘りすると意外な一面が見えてきた。

偏見やアイコンを超えて

なんでそんなにミシュランの星が欲しいんですか?とズケズケと聞いてみた。

「悔しいからだよ。」

とモトさんが答える。

夫婦経営だし、女性シェフだ。
それがJULIAだけど、アイコンとして見られていることが多い、という。


まっすぐにレストランとして見てもらえるために、やらないといけないことがあり、やり続けている。


残念ながら、まだまだ女性料理人の偏見があるようで、

「この子、コックじゃないから。」

なんてことを言われたらしい。

聞いた僕すら物凄い悔しさだ。naoさんは歯を食いしばりながらも今は実直に料理に向き合っている。


シェフのnaoさんは、5年前に星を取ると決めた。

独学でミシュランを取るという決断を笑う人もいるだろう。

それでも、だ。
アイコンとして見られるのはこりごり。解決するには星を取りたい。もちろん難しいことはわかっている。

次はnaoちゃんだよ、と言ってくれるお客様や仲間の声がある。まだまだやれることはある。だからモトさんはいろいろ手を出すことをやめた。ふたりには、やりたいことがたくさんある。しかし今は星を取るために目の前のお客様に集中する選択をした。

結果を出す人は、続けられる人だ。


JULIAは、まだまだ道の途中なんだ。結果を出すには、周りにも流されず愚直にやるしかない。


「鳥羽くんが星を取る前も取った後も外から見ているからこそ、その先の世界があるってことを教えてくれたよ。」

そう話すモトさんからは静かな覚悟が見えた。

かっこいいオトナの、かっこ悪いところ。

「俺は才能がないから。」

と、モトさんは言う。

でも、僕はモトさんの才能を知っている。
naoさんは、モトさんのサービスに惚れ込み料理人になった。
僕の友人は、今まであった中でいちばん好きなサービスマンだと言った。

naoさんだって、そうだ。
料理人になって8年、毎月コースを変えるようになって5年。ざっと見積もっても600種類の皿を生んできた。

ただただ、すげぇなぁって思う。


僕にできることはなんだろう。

レストランで働く人は、自己研鑽し続け毎日頭も体もフル回転させながら、自分の哲学やスタンスを器に乗せてお客さまとの真剣勝負に望む。

本当に、かっこいい人たちだ。

アイコンではなく、本質的な魅力を。

どこかで見つけてきたようなキャッチーさではなく、僕にしかできないことばを、つなごう。

かっこいい人たちのかっこいい部分ではなく、かっこ悪い部分も含めてさらけ出すからこそかっこいい、って必ずある。

JULIAは、キラキラした夫婦が運営する料理もワインも空間も素敵なレストラン、これまではそこしか見えていなかった。

でも、違う。


コンプレックスのない人間なんて、いないのではないか。笑顔の奥、綺麗なお皿の裏側には、血の滲むような悔しい想いがあるのではない。

唯一無二のマリアージュレストランは、星を渇望する。
やりたいことを押し殺して、叶えたい夢を追う途中なんだ。


さぁ、外苑前のある扉を開ければ、カウンターに笑顔のふたりが待っている。あなたの名前を入れた特製のメニューがお出迎え。気分がパーっと上がる。

お洒落な空間、独創的な料理。
それでいてさらに心地よいサービス。
おいしいワインと料理。
すべてが溶けこみマリアージュする。

僕は帰りの駅に向かう中、足取りを早めた。
早く、もっと、愚直に。書かなきゃ。
続けている人がそこにいた。
僕も星が取れるように書かなきゃ。

またいつか大切な人と、外苑前のカウンターに腰掛けてスライダーを頬ばりたい。

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