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【小説】終わらない夏休みのヒーロー

 今回も主人公は、前半苦悩し、後半、仲間と連携して派手に敵を倒していた。一応、名前付き。重要キャラと言ってもいいのかも、人望ないが。  横暴さを、二回前でも当然のごとく発揮していたので、やられてしまうとは思わなかった。諸行無常の響きあり。  自室に戻らなくては、いけないのかもしれない。だが、そういう気にならなかった。  一般的には進路を考え、決めていく時期だ。友人知人の話もそれ前提のものになっている。痛い程に刺さる。分かっているができはしない。  卒業制作をする。その参考に

    • 【小説】強風のバーサーカー1

       芝生の上で大の字に転がった。多少、疲れを感じていたのと、思いきったことも今ならできそうで。顔の側に濃いピンク、れんげ草の花があった。  空には雲……。明度の高い青色の中に浮いている。  誰も別れには来ない。ドラマであるような逆転もなさそうだ。  三月半ばまで誰にも秘密だった。父の、気難しくしている様子を見ていると、そうした方が良いと思ったから。でも、最終的には友達の皆に伝えたのだが。  遥か西の地方へ行くことを。  観光旅行の他では、初めての土地だった。  それなら、こ

      • トレーディングハッピーハロウィン その2

        一から四までは下記リンクの記事から. 五. 居間には、縁側と、そこから庭に出られるようになっている大きな窓がある。台所のちょうど反対側だ。僕はつい、今度はそちらに行ってしまう。何も考えることなしに。  だって、ごく普通の、明るい挨拶なのだから。そぐわない、だなんてはずがない。 「ちょっと待ってくださいね。今、開けます」  本当は、すぐに開けるとまで応える必要はなかった。せめて姿を確認してからでも良かっただろうに。でも、不用心な僕は自分から宣言してしまった。  お客さんの

        • トレーディングハッピーハロウィン その1

          一. おばあちゃんはこの時期になると、菓子を用意する。手作りのクッキー、飴や風船ガムなどの駄菓子。色とりどりを袋に詰める。  昔、まだ僕がここに住んでいた頃は、毎年十月に収穫祭をやっていた。子供みこしの行列が家の前を通っていくので、その際にお菓子を渡す。特にいたずらするぞと脅かされた覚えはないが、そうなっていた。神を模したという格好がちょっと仮装っぽいと言えなくもない。  勿論、僕にもくれる。後で余った分もくれる。楽しい秋の日。栗の木があり、落ちた実を持っていくと栗きんとんに

        【小説】終わらない夏休みのヒーロー

          大きな木

           園庭にも大きな木があった。それは自分達を見守っているかのようでもあり、同時に登っておいでと挑戦を促している堂々とした存在だった。  一本だけで立っている大木を見ると思い出す。葉が沢山茂り、幹も太くてどっしりと、安定感があった。こんな風に運動場の片隅で待っている。  中途で入園して初めの頃は、木登りなんてしたことがなくて、考えつきもしなかった。同級生はするすると登っていくのだけれど……。そして、え、できないの、と言って煽るのだ。  誰もいない時、木の幹を撫でた。ごわごわした

          大きな木

          幻の蝶

           外から声が聞こえてくる。それはいつものことだが、今は楽しそうな中にも密やかさがある。声量も控え目だ。  ここは学校。  何をしているのか、逆に気になる。中庭との通路の近くにいた人が、教えてくれた。 「蝶が来ているんですよ」  蝶?思わず、ウタは聞き返していた。まだ春ではない。 「アサギマダラっていう、珍しい蝶なんだって」  他の人が補足した。続けて、渡りをするのだとか説明があったが、それを聞く間もなく、女の子が通路の入り口に駆け寄って来た。 「見て!」  網戸越

          幻の蝶

          【小説】武勇伝、話の終わり(閣下の章37)

           久しぶりに会議に出かけた際、夏に手引の改訂案を全て蹴った、同じ班の人間が、わざわざ妙に震えた声で「こんにちは」と声をかけてきた。アリオールは、どすの利いた低い声で「こんにちは」と返した。どんなつもりで挨拶されたか、気持ちが分からなかったからだ。それきり相手は何も言わなかったが、大物悪役になりきったようで気分が良かった。  その会議では、配布文書の内容を変えないように指示がされているが、日付を変更して良いかとか、新しく導入されるプリンターの初期設定をモノクロにしてもらいたい

          【小説】武勇伝、話の終わり(閣下の章37)

          【小説】政治学(閣下の章36)

           次の戦いは、言論。差し当たって監査だ。  普通なら、自分は守る側。しかし何を守るというのだろう。よく考えてみたが、分からないのだった。利益であるにしても、何であるか、確かなところが見えない。それに、今までの扱いを思い返せば、そんなよく分からないもののために戦い守る気には、さらさらならなかった。  まずは、期日までに書類を作成する。予めあらかた入力してあったので、そこまで難儀はしなかった。期日ぎりぎりに、格納庫と電波装置を備品登録しろとの指示があったことを除いては。 「取

          【小説】政治学(閣下の章36)

          【小説】先例に則り(閣下の章35)

           地形は変わらず、風向きも良い。先例に則り。そればかりを考え、一心不乱に会場へ入っていったところ、 ―ん? 誰もいない。もしや、と思って確かめたところ、少し離れた別の場所が会場であった。  時間に余裕はある。気落ちすることもなく、正しい会場へ。仮設の建物は、新しくなっていた。  甲冑と呼ばれる武装を付け……乗り、の方が適切かもしれないが、気分である……場に立った。風が吹いている。教書通り、絶対に通用する。  相手の繰り出す手を見て、応じ、返す。ひらひらと木の葉が舞うよ

          【小説】先例に則り(閣下の章35)

          【小説】銀杏の葉(閣下の章34)

           彼なりの快進撃を続けていた矢先のこと。  発熱した。過去、十七歳くらいの時にもあった原因不明の高熱である。立てないくらいの状態で何とか、医院に出向き、数週間養生した。とにかく大変だった。胃腸にも来た。  アリオールは、秋に控えた模擬演習のことが心配だった。終わったら監査もある。どうなることかと、できる範囲のことを少しずつ進めてはいたが……。  しかし、熱が引いて症状が治まると、嘘のようにすっきりと冴えていた。美しい秋晴れ。立ち向かおうと思った。  練習に練習を重ねて、演

          【小説】銀杏の葉(閣下の章34)

          【小説】複雑で高度な意思疎通(閣下の章33)

           言論だけに限らない。彼にはもう一つ、もしかしたらと思うところがあった。  慣れた戦闘訓練の場。模擬剣のカッ、カン、と打ち合う音が響く。彼は防戦を主とするスタイルだ。カッ、相手の攻撃を受け止め、カン、と返す。決して下手な訳ではない。傷はつかないから。演習の限りにおいては、それでいいと思っている。  だが、もし仮定が正しいとしたら。 ―反撃してみるか。  アリオールは、一歩踏み込み、思ったところ……今回は脇腹……に差してみた。するとどうだろう。驚く程に相手は無防備なのであっ

          【小説】複雑で高度な意思疎通(閣下の章33)

          【小説】熱い夏(閣下の章32)

           不定愁訴で病院に通い始めたが、それで治るとは全く思っていなかった。日に日に熱くなっていく空気が体を蝕む気さえする。  会議には顔を出していなかった。でも、いつまでも通用するはずがない。あのひりつく場が許しておくわけがないのだ。それに、これからもある。先の見えない、何年も先も含めた今後が。  じりじり、苛々と。そうでなければ、鬱々と。仮眠室で寝転んでいることも多かった。  彼がそうでも世間は何も関係がなくて、テレビではスポーツの世界大会で盛り上がっていた。正直、見る気はなか

          【小説】熱い夏(閣下の章32)

          【小説】古い話(閣下の章31)

          https://ameblo.jp/neueweltreihenfolge/entry-12776073432.html からの続きです。 --  現状打破の目処が全く立たない。  そのアリオールの胸中を何度も、Mとした話が行ったり来たりした。 ―自分は大学には行けないんじゃないかって言われてさ……  二人きりになった更衣室で、手の指にある、訓練で失敗した時の古傷をアリオールが見せた時に、急にそうMが呟いた。  士官学校に来ているということは、実際にそうだったのかも

          【小説】古い話(閣下の章31)

          【小説】雨降る隠れ里 一

          ―ねちゃり、ぬちゅ。  奇妙な粘性の音を立てて、軟体質が絡み付く。 「早く、口を割ったらどうなのだ」  触手が少女の体を這い回る。いざとなれば、直に想念が読めるのだが。人ならざる者、雨月には。  そもそも先程、自分の四肢とは別の手足の先で、少女の口を塞いでいるのだった。  明らかな焦燥の色、怯え、そして潤んだ目。家に帰りたいと言っていた。 ―埒があかない。  むしろ、気に入らない。それだけのことで、少女の胸先をひねりあげた。驚いて少し開いた口の中へ足先をぐいと押し込

          【小説】雨降る隠れ里 一