35.【怖い話】夜行バスでつくった話
神戸発から東京行きの夜行バスに乗ってる時の話です。
その日は手が届きそうなほど雲が低く重そうで、出発する頃には今にも降り出しそうな空模様です。
まだ夕方でしたが早々にバスに乗り込みました。1番後ろの5列シートの左窓側に座れたのでちょっとガッツポーズ。東京への帰路出発。アプリで漫画を読むと酔うので、友達と話したり音楽聴いたりラジオ聞いたりしながらドナドナされていきました。
土山SAに休憩のため入った時にはもう雨は降り始めていて、濡れながらお手洗いへ。ただでさえ湿度でペタついていた肌は100%を超え不快感MAX。
こういう夜行バス移動はさっさと寝るに限るので睡眠臨戦態勢へ移行。暖かい飲み物を買いバスへ戻りネックピローとアイマスク準備!
運転手さんの心地よいバリトンアナウンスを境に車内は消灯、私もアイマスクを装着ししっくりくるポジションをもぞもぞ探します。
程なくしてバスの揺れとまどろみが混ざり合い落ちてゆきます。
コンコンコンコン
ふと目が覚めました。相変わらず雨がバスの屋根を叩いています。
眠りが浅かったのか名古屋を過ぎたあたりで起きてしまったようです。山の中なのか外は真っ暗、道路脇のオレンジの光が後ろへ後ろへ動く残像しか見えません。窓についた水滴が照らされて雑なイルミネーションのみたい。寝ぼけた頭でぼんやり考えていると、
コンコンコンコン
また変な音が聞こえたような。
その頃には雨は一層激しくなっていて、屋根を叩く雨音とエンジン、タイヤから伝わる振動、しか聞こえません。なにやら違和感を感じていた拍子にトンネルに入り、雨の音が止みました。
コンコンコンコン
今度は聞こえました。雨の音ではありません。
ガラスをノックするような音。4回です。
聞こえずらかったのは雨の音に紛れていただけではなく、単純に遠いかったのもありました。音はちょうど真横、バスの右側から鳴っていました。誰かが叩いているのでしょうか。ただ5列シートの人は全員寝ているようで、その前の席の人もどうやら寝ています。
そんな事を考えているとトンネルを抜け、また雨が屋根を叩きます。
これ以上気にしても仕方ないのと何より眠かったので、薄っすら感じる違和感を押し殺し、アイマスクを再装着して眠りにつきます。
……。
……。
コンコンコンコン
聞こえました。
雨の音に紛れていますが、さっきより近くなっています。
音の方向を探るとどうやらバスの後ろの方でした。
後ろ?
私は一番後ろの5列シートに座っています。これ以上後ろに席はありません。
しかし確かに後ろから聞こえます。
ここでこれは、”よくない”ものだと悟ります。
焦りましたが走行中のバスの中逃げ場はありません。
コンコンコンコン
次は後ろは後ろでも、真後ろです。どんどん近づいて来ています。
ちょうどバスの左側へ回り込もうとしているかのように。
窓から見えないようにカーテンをサッと閉めました。オレンジ色に照らされて水滴の影がカーテンへ落ちています。
その時またトンネルへ入りました。
雨の音が止み、走行音が鳴っていますが不思議と静かに感じます。
コンコンコンコン
左後方。もちろん後方はありませんが、左もありません。
なんせここは一番後ろで一番左の席です。
恐る恐るカーテンへ目をやると、影が落ちています。
手のひらくらいのサイズ、というか人の手首から上のシルエット。
コンコンコンコン
窓の水滴に混じりまだら模様の影が音と一緒に動きます。
前へ前へ徐々に動いているようでした。
ゆっくり車内を探している、そんな風に思えてなりません。
息をひそめているとふとカーテンに隙間があるのに気が付きました。
このままでは"影"が見えます。
ここで私の限界を迎えアイマスクを急いで装着しイヤホンで音楽を聴き、外界からの情報は全てシャットアウト。現実逃避で夢の世界へ。
気が付いたら無事バスは東京へ到着しておりました。
あれから夜行バスに乗ってはいませんが、名古屋あたりのトンネルを通るときはどうか皆さんもお気をつけて。
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