いまの職場で起きていること~DXと効率化~
DXデザイン研究室を始めるにあたり、いまの日本のDX事情をおさらいしてみました。実際、日本の職場ではDXに関して何が起こっているのでしょう? 現場のリアルについて、それを示唆するデータとともにご紹介します。
1. DXに着手している企業数は?
――わずか16%? それとも84%?
コロナ禍以降、リモートワークが広がり、さまざまな業務がアナログからデジタルへシフトしていったのではないでしょうか。昨今ではどれだけの企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みを進めているかをみてみると、ある調査では16%[※1]、またある調査では84%[※2]と、大きな乖離があります。
もちろん、数字の開きは調査対象が異なることによりますが、大きな差です。この違いの要因は「DXとはなんぞや?」というところにあると思われます。一般に企業におけるデジタル化は大きく3つの段階に分かれます。
紙やディスクなどで保存していたデータのデジタルデータ化:デジタイゼーション
個別の業務やプロセスのデジタル化:デジタライゼーション
組織全体のデジタル化、ビジネスモデルに影響を及ぼす組織的イノベーションの創出:ビジネス変革
どこから「DX」と認識しているのか、①~③をDXと総称しているのか、③のみがDXなのか、その違いによってデータに大きな違いがみられるのだと推測できます。
一般的にデジタル化が遅れているとされる中小企業においては、未だペーパーレス化が進んでいない場合や、データのデジタル化にとどまっている企業が多いようです。本格的なDX推進に一歩踏み出している中小企業は1割に届きません(図1)。
中小企業に限らず、ビジネス変革まで到達している日本の企業はまだ少ないのではないでしょうか。
2. デジタル化≒効率化のナゾ
現場のリアル。アプリが散乱、プロジェクト管理がバラバラ?!
日本の多くの企業がデジタル化の段階でとどまっている一例を挙げましょう。
ある企業では、新型コロナウィルスの感染拡大によって一気にデジタル化が進みました。
Microsoft Teams(以下:Teams)が導入され、チャットが使われるようになりました。ミーティングもオンラインで行われるようになり、リモートワークができるようになりました。ところがメールとTeamsでやりとりが分散してしまいます。客先からのメールを引用したいときなどはメールをそのまま転送してインラインでコメントをつけたほうがラクだったり、やっぱりメールが好きでチャットに移れない高齢層がいたり…。オンラインミーティングも客先の環境に合わせてZoomとTeamsを併用しています。
顧客管理にはSalesforceを導入し、顧客とのやりとりの進捗、見積書や請求書等の承認や発行をいつでも&どこからでもできるようになりました。ところがこちらもSalesforce内のチャット機能とTeamsのチャットで情報が分散。そもそも旧経理システムをSalesforceに急いで移管したのがよくなかったのですが「どっちで顧客情報を共有したらいいの?」という状況です。
これはファイル保存においても起きる問題です。社内の共有サーバーがありつつ、TeamsやSalesforceのクラウド上にもファイルが保存してあって「どこにどれを保存したらいい?」という事態が発生します。ちょくちょく「あのファイル、どこに保存しました?」というやりとりがあります。
そしてチーム全体のスケジュールやタスク管理に至っては、プロジェクトのスタート時にはりきってエクセルをつくるんです。が、やがて入力しなくなり、終いにメールやチャット、あるいは口頭で共有するようになって、せっかく時間をかけてつくったエクセルはほったらかしに…。
結局打ち合わせの場で進捗状況を共有するようになって、1時間のミーティングの大半がそれで終わってしまいます。議論すべき話題にたどりつけない…なんてよくあること。見逃しているタスクが発見されるのも、打ち合わせの場だったりします。
コロナ禍を経てリモートワークができるようになって、クラウド上で情報共有やプロジェクト管理をするようになったけれど、業務が効率化されたとは言い切れない――こんな職場は多いのではないでしょうか?
3. DX推進のほんとうの障壁
ちゃんとした社内ルールがあって、それが厳格に守られるのであれば、上記のような事態を避けることができるのかもしれません。プロジェクト管理に便利なソフトウェアを利用したら、もっと生産性を上げて効率的に働けるのかもしれません。
しかし、その職場には
DX(またはデジタル化)を推進し、現場を先導する人間がいない
と同時に、
今ある課題と目的が明確化されておらず、推進に向けた確固たる組織全体の意志がたりていない
という状況があります。
「システムのことはシステム部」という日本企業の慣例
さらに、一般的な日本の企業におけるシステムへの対応の仕方も、DX推進が滞ってしまう要因のひとつと考えられます。
たとえば「このデータを直したい」とか「このエクセルにボタンを追加したい」となったとき、”システム部”に相談に行き、対応を依頼していませんか?
――「システムをいじるのはボクたちじゃない、システム部です」
という文化がジャマをして、システム周りの動きが遅くなっていませんか?
日ごろから使っているエクセルやソフトを改善したくても、システム部に修正をお願いするので、対応までに時間がかかってしまうなんてことはありませんか? DX推進も「システム部」のみで動こうとすると、彼らは現場にいるわけではないため、現場がいちばんほしいシステムをつくりきれないという声をよく耳にします。
4. データからみえる日本のDX事情
なんといっても人材不足
総務省の調査によると、デジタル化を進める上での課題・障壁として、「人材不足(67.6%)」の回答が米国・中国・ドイツの3か国に比べて非常に多く、次いで「デジタル技術の知識・リテラシー不足(44.8%)」と、人材に関する課題・障壁が多いことが明白です(図2)。
経営課題とのコラボレーションを一丸になってやる
もう一点、図2について注目したいのは「明確な目的・目標が定まっていない」と約4分の1が回答していることです。上記例の企業においても「リモートワークができるように、”とりあえず”デジタル化をしてみた」ことで止まってしまい、明確な目的や目標がないためにDX推進が滞ってしまっています。
図3においてもDXの効果を十分に得られるようになるには経営の連動と全社的な取り組みが不可欠だということがみえてきます。DXに対して十分な成果をあげた企業は1割程度ですが、その約9割が経営戦略に基づいた全社的なDXを推進しています[※3]。
一方で、DX推進が道半ばの企業は約9割存在し、そのうち約4割におけるDX推進は一部部門や部署に限られています。
いかにして部署ごとの断片的なDXへの取り組みを逸脱し、経営と連動した全社的なDXの取り組みへと変化を遂げるかが重要であることがわかります。
日vs米:エンジニアの在籍場所
前項で書いた「システムはシステム部が対応するもの」という日本の企業文化が及ぼす影響はこちらのデータでもみてとれます。
アメリカと比較してみると、IT技術者の数が圧倒的に違うのはさておき、彼らがどこに配属されているかに注目してください(図4)。多くのアメリカの企業ではエンジニアたちが非IT部門にいます。いわゆる「システム部」やベンダーだけでなく、多くのエンジニアが現場で働いています。
日本のエンジニアたちはシステム部としてシステムを担当したり、ベンダーとして働いているため、DXの進め方も「Fit to Business」でカスタムコード開発が主流になりがちです。
逆にアメリカでは現場にもエンジニアがいるため、アジャイルにSaaSなどのサービスを組み合わせてシステムを展開していく=「Fit to Standard」が主流です。
アメリカ社会においてソリューションサービスが続々と発展し、テクノロジーが加速度的に進化を遂げているのも必然なのでしょう。
4. これでいいのか?DX!
”2025年の崖”はすぐそこに
今後深刻さを増す労働力不足、生成系AIの急速な進歩、止まらない物価上昇、と企業をとりまく環境には課題が山積しています。生き残りをかけて持続的に成長していくためには、DXに取り組んでいく必要があり、2025年の崖[※4]はすぐそこです。(この話題については別途触れる予定です)
こちらのサイトではDXの最新事例やDX人材育成にまつわるトピックについて、さまざまな情報をお伝えしていきます。
● DXで解決・改善できる場面は?
● DX人材をどう育てたらいいの?
● 新しいDX事情を知りたい!
など、乞うご期待ください。
DXデザイン研究室として、日本のDX推進に役立つような情報発信やDXをデザインしていける人材育成について考えていきたいと思います。
※1 帝国データバンク[企業の DX への取り組みに関する動向調査(2023)]
※2 電通デジタル[日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2022年度)]
※3 PwCコンサルティング合同会社[日本企業のDX推進実態調査2023~未来を創る全社DXへの挑戦~]
※4 経済産業省が2018年に発表したDXレポートで提示したキーワードで2025年以降に予想されている膨大な経済損失に関する問題のこと。多くの日本企業におけるレガシーシステムが業務改善やDX推進の妨げになり、重大なリソース不足や競争力の低下に陥る恐れがあります。