RPA業界の先駆者!~フリーランスエンジニアの育成とテクノロジーの大衆化~藤澤専之介さんインタビュー
いち早くRPA業界に着目し、「RPA・ローコードの専門家集団」と呼ばれるまでのクリエイティブな組織を作り上げた藤澤さん。当時新しい分野だったRPAにどう人材を呼びこんで育成し、どうやってRPA業界を盛り上げてきたかについてお聞きしました。今後のDX業界でのビジネスヒントになる内容でお届けします!
3つの仮説をビジネス展開
――いち早くRPAに着目し、RPAのビジネスをやってみようと思われたのはなぜでしょうか?
実は、最初は子育ての事業をやろうとしてたんです。準備していたんですけど、なかなか立ち上がる雰囲気もないというか、自分も気持ちが入りきってないところがあって。そんな時に友人から「採用で困っている会社があるから手伝ってくれないか」と誘われて、それがUiPathの日本法人だったんです。当時、日本に進出して1年ぐらい経ったタイミングで数十人の組織だったんですけど、そこから半年後に200人超になったのを目の当たりにして「RPAという業界が確実に伸びる」というのを採用の目線で強く感じました。今まで手伝ってきたどんな会社よりも、採用力が高くて、大手企業のマネージャークラスがバンバンレジュメを送ってくるような状態でした。
Peaceful Morningという会社を作った時に、UiPathのようなRPAをビジネスとする会社が伸びることを前提にして、必要になるサービスを先回りして考えて、3つの仮説を立てました。1つ目は、RPAの導入が進むことによって、開発者のニーズが上がるだろうからフリーランスや副業のエンジニア集団を作っておくとよさそうだということ。2つ目は、RPAの特性上、導入後には内製化していく流れになってくると思ったので、研修サービスのニーズも強くなるだろうということ。3つ目は、当時、ツールが乱立してきたタイミングだったので、RPAの専門メディアがあれば、より差別化がしやすくなるだろうということ。これらの3つの仮説から、人材サービス、内製化支援の研修サービス、RPA Hackというオウンドメディアを作っていったという流れです。
フリーランスや副業のエンジニアにいち早く着目した理由
――どうしてフリーランスや副業のエンジニアに着目されたのですか?
RPA Hackの前身としてRPAについてのブログを発信していたときに、その中ですごくPVが伸びている記事があって、フリーランスのRPAエンジニアへの取材記事だったんです。こんなに読まれているのであれば、フリーランス募集のフォームを作ったら応募があるのではないかと実験的にやってみたところ、1日に2、3件エントリーが入ってきて。当時、情報があまりなかったとはいえ、自分たちの記事が見られて、人が登録してくる流れができあがりました。
――結果として、ネットワーク化したフリーランス(副業)の方は何人くらいになりますか。また戦力的に稼働していた方はどの程度でしたか?
トータルで1000人くらいフリーランスの登録があるんですが、フリーランスとなると常駐業務で稼働OKな人が3割いればいいかなという感触です。メルマガを週に1、2回送って仕事の募集をかけて、単価が高ければ手が挙がりますし、単価が低くて希望者が現れない場合は自分たちから電話やメールで個別にアプローチしていました。うまくマッチングすればマネタイズできる、けれどすぐに候補者が見つからないことも考慮して、常駐以外の選択肢としてリモートワークや副業的に働きたい人のための求人をどうつくり出していくかというのは常に考えながらやっていましたね。
ちなみに、2018年創業当初に登録いただいた方たちの多くが、その後RPA最前線で活躍しているんです。彼らの情報感度の高さに感心しています。
「新しい(マイナー)」ツールにエンジニアを呼びこむポイント
――新しいサービスを立ち上げるときにエンジニアを確保は難しいですよね。特に外資系のSaaS会社は苦戦しています。
そうですね。UiPathでさえ、初期はエンジニア獲得に苦戦していました。でも、それは良い状態だと思っています。良い状態というのは「ツールが新しく出て、そのツールを使いこなせる人が少ない状態」で、つまり「人材に価値がある状態」ですよね。その時にやるべきことは、新しいツールと相性がいいようなスキルセットを明確にすることです。RPAで言うと、当時はjavaやvba、あとCとか。そういうスキルを持つ人たちを集めに行っていました。一方で、「自分のスキルが枯れ始めたから新しいスキルもつけていかなきゃ」と認識するエンジニアも多くいた時期でした。なので、新しいツールを「扱ったことがある人」じゃなくて「これからやりたい人」を集めればいいんだと思います。
実際、エンジニアたちにヒアリングしてみると、彼らが使いこなせるツールの割合と、日本市場に導入されている製品の割合がほぼ一緒だったんです。当たり前といえば当たり前ですよね。そうなると、マイナーツールをこれからメジャーにしていきたい時に、マイナーツールをできる人を探していたら絶対無理。だから「どうメジャーツールからマイナーツールに乗り換えてもらうか」、エンジニアとしてメジャーツールの方が案件が多いのに「なぜマイナーの方に行くのか」っていうところの動機づけは重要になります。全く別のことをやっている人をマイナーツールの方にどう持っていくかを考えるのも個人的に面白かった経験です。
作りたいものを作って、わからないところをいつでも質問できる研修に
――RPAの研修プログラムではどんな工夫を? どうやって人を呼びこんだのでしょうか?
フリーランスや副業の方にとって都合のよい時間帯でできるようにしました。彼らは週に1時間からできるようなリモートワークを好む傾向があります。だから求人だけでなく研修についても、土日でも夜中でも1時間からできるようにしたら最高のサービスになるだろうという感覚がありました。最初はフリーランス(個人)向けにオンラインのプログラミングスクールを作り、1~3カ月かけて費用は30万円程度。ウェブメンタリングも含まれていて、それが平日の夜中や土日でもできるようにしました。フリーランスや副業の人が参加しやすいように、です。Googleでの広告やSNSでも募集をかけて集客していました。
まず個人向けのプログラムに絞ってサービスの形を作って、品質が安定してから、平日の日中の時間帯にも広げて、法人向けの研修案件も取るようにしていきました。「会社でRPAの担当にさせられちゃったから学びたい」という問い合わせも増えてきて、これなら法人側もいけるなという印象を持ちましたね。
それからプログラムの内容として、基礎テキストは最小限にしたんです。8週間のコースがあったとしたら、2週間ぐらいは基礎的なこと学んで、6週間ぐらいは自分の作りたいものを作るようなペース配分にしました。さらに、「Slackなどチャットで質問し放題」としたんです。自分の作りたいものを作る時に一番役に立つのが「いつでも質問できる」というところだと思ったので。週に1回オンラインでミーティングしながらわからないところを聞けるというところが研修のコアな価値になったと思っています。
コンテンツ制作で業界解像度を上げていく
――オウンドメディアRPA Hackを始めたきっかけは?
Peaceful Morningを創業した当時、RPA業界には人事採用としてちょっと潜り込んだだけだったんで、正直RPAについてはほとんど知らない状態で会社を作ったんです。なので、業界の解像度をいち早くあげる方法は何かを考えたときに、自分が情報発信して反応があった人たちにインタビューをして記事化していくことに着目しました。それを繰り返せば、短期間で業界解像度をマックスまで上げられるだろうと。最初は自分で記事を書いて、自分でアップして、途中から社員に入ってもらって、100本以上の記事を書きました。一時期は外部の会社のコンテンツ制作を受けることもありました。でも結局、外部の会社のコンテンツを作ってお金にはなるんですけど、会社の資産にはならないことに気づいて、業界メディアからオウンドメディアへシフトしました。
――RPAカオスマップはかなりのダウンロード数があったと思います。
作った年によるんですけど、かなりありましたね。1000件以上ダウンロードされたものもあって、スピード獲得にはすごく寄与しました。実は最初にカオスマップを作ったのは、Peaceful Morningを始めて3週間後ぐらいでした。いろんな会社のRPAのイベントについて自分のブログで告知すると、その会社の人が確実に反応してくれたんです。「取り上げてくれてありがとうございます」→「じゃあインタビューさせてください」という流れになるわけです。これをもっと効率的にやりたいなと思って、いろんな会社のロゴを載せて出したら、いろんな会社の人からありがとうございます、と連絡が来て、一気にいろんな会社にインタビュー行けるかもしれないな、と思いました。これがカオスマップをやり始めたきっかけです。ベンダーの広告媒体になりきらないように中立性は保つようにしていました。メディアの記事内容では各ベンダーの色を消すようにして、人材バンクの部分で各ベンダーとビジネス的に絡めたらいいかなと考えていました。
テクノロジーの大衆化=ワーディングの重要性
――横文字、特にデジタル用語に抵抗がある人も多い中、「RPAって何それ?」「RPAってよくわからない」という声は多くなかったですか?
RPAではあまり苦労しなかったですね。面白かったなと思ってるのがRPAという言葉の表現の仕方です。RPAは「ロボティック・プロセス・オートメーション」の略で、さらに「デジタルレイバー」という言葉もあるんですけど、人間っぽく見せているじゃないですか。ただのソフトウェアだけど、人間とかロボットみたいな雰囲気になってくると、途端にエンジニア以外の層にも言葉として入ってきやすくなるんじゃないかなって、仮説として思っています。例えば経営者は「RPAはデジタルレイバーだよ」って言われると部下っぽく感じる。もしかしたら、RPAはそういう親しみが湧きやすいのかもしれません。わりと異業界から入ってくるとか、エンジニア以外から触ってみたくなるような言葉作りがうまかったなと思います。
――SaaSはまだしも、iPaaSやiDaaSという言葉がなかなか日本で浸透しない現状があります。
1つのヒントになりそうなのは、テクノロジーの言葉の大衆化じゃないでしょうか。これってすごく重要でUiPathはめちゃくちゃうまかったなと思います。当時の社長はUiPathによって「あなたに100人の部下がつくんです」ということをよく言っていたんですよね。「1人の人間に対して100人の部下がつく世界観を自分たちは目指しています」と伝えると、聞いている側はどんな職種の人でも自分ごとにできます。
だから、iPaaSやiDaaSをどう「自分ごと化させる」かというのは、メッセージングの視点から考えてみても面白いかもしれません。
それから、デモ動画もすごく重要ですよね。RPAでもクライアントの役員に導入に向けたデモを見せたりしますが、わざとゆっくり動かすようにしてたんですよ。人がやっているっぽく見えるように、人よりもちょっと速いぐらいの動かし方をしていると「おおっ!」となるんです。見えないところで動くよりも、画面遷移して、マウスを押して動かしている感じくらいのものがウケていましたね。「一見にしかずだな…」と役員の方々に感じてもらっていました。
――イメージ重視でなくて、今のことがどう変わるのかがきちんと伝わるようなデモ動画は大切ですよね。
メディアとしてデモ動画を集めたコンテンツを作っていくのもいいかもしれないですね。テクノロジーにおけるデモンストレーションの重要性は大きいと思っています。
“社長が1人、社員ゼロ”の会社が増える未来
――今後、藤澤さんが注目しているDXやSaaSのトレンド、動きはありますか?
やっぱり生成AIですね。結局RPAもそうだったんですけど、情報システム部の中だけのテクノロジーだと思っていたものが現場でも使えるようになってきて、それがRPAの大きなインパクトでした。同じように今の生成AIもそういう方向性だと思うんです。現場のユーザーが使えて、業務を効率化・自動化できる世界なので、すごく面白いなと思っています。
つい昨日お会いした人は1人で会社をやられていて、オウンドメディアに毎日記事を上げているんですよ。それをなんと毎日2時間ぐらいでやっているらしくて。構成作成ロボットとか、文章作成ロボットとか、検索ロボットとか、いろんな役割のロボットを作って、それらを流して効率的に行っているという話でした。
そんな話を聞いて、今後、法人のあり方が変わってきそうだなと思いましたね。今までは社員をたくさん抱えて大きなビジネスを作っていく形だったのが、これからは社長が1人でデジタル的な労働力を使って、ビジネスを作って、売り上げが1~2億円ぐらいで、経常利益が2000万円出るような会社を作れるようになってしまうと思います。
自分がM&Aに興味を持って、新しい会社を起ち上げた理由もそこにあります。今後日本において、そんな会社が増えていって、もっと法人側、つまり会社を買う側、特に上場企業が「買いたい会社を自分たちでハンティングする」時代になるんじゃないかなと予想しています。
藤澤専之介
M&Aドットコム株式会社 代表取締役
大手化学繊維メーカーで経理を担当後、ベンチャー系人材会社に転職。その後、人材大手のインテリジェンス(現パーソルキャリア)に移り、法人営業のマネージャーや、SaaSの新規事業開発を担当。2018年にPeaceful Morning株式会社を創業し、「RPA・ローコードの専門家集団」と呼ばれるまでの成長企業へと躍進。2022年にPeaceful MorningをクラウドワークスへM&Aし、2024年にM&Aドットコム株式会社を創業。千葉大学dri DXデザイン研究室客員研究員。