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【追悼】コービー・ブライアント 〜なぜ彼はあれほど強靭なメンタルを持ち得たのか〜

「夢とは結果じゃない。旅路なんだ」

この言葉は元NBAのスーパースター コービー・ブライアントが2017年に自身の永久欠番セレモニーで語ったときのものだ。

そんな彼が1月26日、ヘリコプター墜落事故でこの世を去った。

41歳での早すぎる死に、NBAファンのみならず世界中のたくさんの人々が驚き、悲しみに暮れている。他ならぬ私自身も。

実力・功績ともに、“バスケの神様”と呼ばれたマイケル・ジョーダンに肩を並べられる数少ない存在であり、間違いなくバスケットボール史上最高の選手のひとりだった。

そしてジョーダン同様、他の追随を許さない鋼鉄のメンタルの持ち主だった。


キャリアを通じて信じられないようなプレーを見せ続けてくれたが、そんな彼の凄さが凝縮されているのが、2016年4月13日に行われた現役最後の試合、残り3分での逆転劇だと思う。


この試合、彼は最終的にひとりで60得点というハイスコアを挙げた。
(彼のキャリア平均得点は25.0点)

引退試合で、37歳で、ケガと疲労で満身創痍という状態でそれをやってのけたのだから、やはりただものではない。


しかし、この試合で注目すべきはそこだけではない

残り3分、84点vs94点で10点のビハインドを背負った状況。
チームはすでにプレイオフ出場を逃し、もう無理して勝ちにこだわる必要はない。

だけど、この日をもって現役生活に別れを告げる、ピークを過ぎケガでボロボロのレジェンドは、最後まで諦めなかった。

精神が肉体を超越したかのような圧倒的パフォーマンスを見せてチームを大逆転勝利に導き、後輩選手やファンたちに勝利への執念を見せつけてくれた。

この試合のあと、彼は自分の車まで歩くことすらできなかったと後に語っている。



ただでさえ才能あふれる選手が世界中から集まるバスケの最高峰NBAにあって、最高の選手として君臨しつづけた彼の根底にあったのは、勝利にとことんこだわる強靭な、あまりに強靭なメンタリティだった。

コービーと同じく96年にプロデビューしたゴルファーのタイガー・ウッズは当時自宅が近所だったこともあり親交が深く、間近でコービーと接してきたそうだ。

ウッズいわく、

「コービーはいつも闘志を燃やしていた。常に向上心を持ち、動画を眺めては研究し、最善の戦い方を見つけようとしていた」

以前の記事(メンタルが強い人には“これ”がある) で、「自分が目指すべき目的地」を明確にすることが強いメンタルにつながると書いた。

コービーこそまさに、「自分が目指すべき目的地」を見失うことなく、ブレずにひたすらそこを目指し続けてた代表例であり、「自分が目指すべき目的地」を持つ人間というのがいかに強く在れるかを、その背中でもって証明してくれた。


目的地を見失わず、ぶれない軸を持ち続けることは本当に難しい。

世界最高峰のバスケの舞台であるNBAは、商業面でももっとも成功しているスポーツリーグである。

2019年に日本人として初めてドラフト1巡目指名を受けた八村塁が初年度から約5億円の年俸を得たことが話題になったように、選手に支払われる報酬もプロスポーツの世界で群を抜いている。(ちなみにコービーの最終年俸は2500万ドル

しかし、将来を嘱望されてプロ入りした若手選手が、大金を持ったがために身を持ち崩し、選手生命はおろか人生そのものを狂わせてしまうケースはあとを絶たない。

プロとなり金や名声の波に飲み込まれ、さまざまな方向から雑音が聞こえてくるようになっても、自分の軸がブレることなくいつづけるには想像を絶する克己心や自律心が必要になるのだろう。

「勝ちたい!もっとうまくなりたい!」

コービーの場合、子どものころから向上心の源としてきたこの思いを、NBAに入ってからも忘れずにいたからこそ、鋼のメンタルを持ちえたのだろう。

偉大な選手とは、ただ才能に恵まれて努力を重ねるだけでなれるものではない。それだけでなく、ほとばしる初心を少年のころのまま持ち続けた者のことを言うのかもしれない。

だからわれわれもせめて「自分が目指すべき目的地」を見失わなずにいるためには、若かったころの混ざり気のない想いを懐かしく振り返るのではなく、現在進行系で持ち続けるべきなんだろう。


コービー・ブライアントは、その強靭なメンタリティに裏打ちされた強すぎる闘争心と自信ゆえに、まわりとの軋轢も多く毀誉褒貶も激しい選手だった。

そんな彼のあだ名は、「Black Manba」(猛毒蛇)

自らそう呼び始めたという説もあるが、要所で確実にシュートを決める勝負強さと、その一方で必ずしも万人には受け入れられにくいパーソナリティが、このあだ名に象徴されていて妙にフィットしていたように思う。

2016年4月13日、大逆転劇を演じた引退試合のインタビューの最後に、彼は次のように言ってコートをあとにした。

「Mamba out!(マンバは去るよ!)」


まさかあれから数年で、この世からも去ってしまうなんて。



最後に、あらためて冒頭で引用したコービーの言葉を前後の文も一緒に紹介しよう。

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Those times when you get up early and you work hard,

those times when you stay up late and you work hard,

those times when don’t feel like working.
— you’re too tired, you don’t want to push yourself —
but you do it anyway.

That is actually the dream.

That’s the dream.
 It’s not the destination, it’s the journey.

And if you guys can understand that, what you’ll see happen is that you won’t accomplish your dreams,

your dreams won’t come true, something greater will.


朝早く起きて努力している時、

夜遅くまで起きて努力している時、

「ヘトヘトだ。もうやりたくない」。
そう思っていても努力する時。

それこそが夢なんだ。

夢は目的地(結果)じゃない。旅路なんだ。

それを理解できれば、夢は叶うものではないということがわかると思う。

夢は叶わない。しかし、もっと素晴らしいものを手に入れることができるだろう。
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夢への旅路で、結果としての夢以上に素晴らしい何かを手に入れられるのは、強い心をもって挑み続けた者だけなんだろうね。


真に偉大なバスケットボール選手であり、強い心で生きることの尊さ・美しさを示しつづけてくれた存在、コービー・ブライアントさんのご冥福を心よりお祈りします。

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