【ニュースレーター 創刊号】 世界エネルギー投資、G7、原発延長、気候リーダーの村
読者の皆さん、日頃からパワージャパンを読んでくれてありがとう。
本ブログでは日本のエネルギー移行や脱炭素社会に向けた取り組みについて、深掘りした投稿を主に出しているが、このだだっ広いインターネットの世界には記事に入れきれないほどのニュース・情報が行き交っている。日本やアジアに関することだけでも、月1〜2度の投稿ペースじゃ全く追いつかない。
そこで皆さんに僕が日常で消化している記事やリサーチをもう少し気軽に共有する場として、ニュースレターを始めようと思う。ブログと同様に、日本におけるエネルギー移行・脱炭素化に関するニュースと分析を、グローバルおよびアジア地域の文脈も踏まえてシェアし、月2回の頻度で解説していく。
もしこういったニュースレターが気に入ったなら、スキと共有してもらえれると大きな支えになります。
では早速パワージャパン・ニュースレター創刊号をお届けしよう。
国際舞台では…
…IEAが『2023年エネルギー投資報告書』を公表し…
5月に国際エネルギー機関(IEA)は2023年の世界エネルギー投資に関する報告書を発表した。この報告書は、エネルギー部門の資本流動を分析し、投資家がエネルギー産業のあらゆる分野でリスクとチャンスをどのように評価しているかを調査するためのグローバルな基準を提供している。
先進国の立場から見ると、エネルギー投資の傾向は明るいという結論が目立つ。
クリーンエネルギーへの投資が過去最高の速度で増加。2020年移行、再エネ、省エネ、電力系統、電気自動車への投資は化石燃料に対する投資を大幅に上回った。クリーンエネルギーへの年間投資は、2021年から現在までに24%増加し、化石燃料に対する増加率は15%に留まった。
こういった低炭素エネルギーへの投資に拍車をかけている要因は四つ。1️⃣ ロシアによるウクライナ侵攻のせいで、化石燃料価格が高騰・変動し、その反面、再エネなどの経済性の改善。2️⃣ 政策支援の強力な推進(米国🇺🇸でのインフレ制御法などが事例)3️⃣ 気候とエネルギー安全保障の目標の一致。4️⃣ 脱炭素社会に向けた国家間の競争が始まり、産業戦略が注目を浴びている。
しかし、これらの成果は欧米と中国に偏っている。
ファイナンスが主なボトルネックとなっている。2022年度のサステナブルボンド発行とクリンエネルギー支出の大半(78%と52%)が先進国で行われた。新興・発展途上国への金融流入を拡大する必要があり、より広範なエネルギー転換を実現する必要がある。
クリーンエネルギーへの投資向上率に及ばなかったものの、化石燃料企業は2022年度の利益は高かった。化石燃料への投資の2021年〜2023年にかけた15%の増加の背景にウクライナ戦争による供給の制御、燃料価格の上昇があった。
しかし化石燃料の供給への再投資に割り当てられるのは化石燃料収益の半数以下。長期的な需要の不確実性、コストへの懸念、および株主や所有者からの利益重視の圧力が原因。
IEAによると、日本🇯🇵におけるエネルギー投資トレンドはまちまちだった。2019年〜2023年にかけての中国、EU、アメリカと比べ、日本におけるクリーンエネルギー支出の増加ははるかに少なかった。残念ながら、日本における支出増加は、他の先進国ではなくインド、アフリカ、ブラジルに近かった。
それでも、IEAは日本国内の政策動向のいくつかを挙げている。低炭素エネルギーや省エネに貢献する可能性がある事例としてだ。例えば:
国内でも話題の原発の運転期間の60年超への延長。しかしこの法律の成立はいまだに市民団体から批判を浴びている。
オーストラリアでのブルー水素(製造過程で石炭ガス化と炭素回収・貯蔵(CCS)を使用する水素)サプライチェーン開発への投資。私的な意見として、ブルー水素自体を疑わしく捉えているのだが、より詳細を知るまで批判は控えておこう。
新築される住宅の63%をゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)基準の水準の省エネ性能の確保を目指す目標。2021年時点で、新設の省エネ住宅の割合は2018年の19%から34%以上に増加した。
企業の情報開示、サステナブル投資、スチュワードシップ・コードの確定など、サステナブルファイナンス関連の規制。
…G7が閉幕。
4月中旬にG7気候・エネルギー・環境相会合が札幌で行われ、5月末にG7首脳サミットが広島で開催された。環境相会合の共同声明は、G7がパリ協定への総合的な取り組みを確認し、この重要な10年において1.5℃の温暖化に抑えるための手段を加速し、生物多様性の損失の停止に合意した。
エネルギートランジションに関して、G7はいくつか重要な項目で合意に達した:
洋上風力:2030年までに洋上風力の発電容量を150GW増加。
太陽光発電:2030年までに発電容量を1 TW以上増加。
電力部門:2035年までに電力部門の完全または大宗を脱炭素化。
排出削減対策の講じられていない石炭火力発電の段階的な廃止を加速するが、閣僚間では具体的な年限について合意できなかった。
天然ガスと液化天然ガス(LNG):ウクライナ戦争による供給制約を考慮し、この市場への新たな投資は「適切」とされた。
重要鉱物資源:重要鉱物資源の供給源と供給チェーンの多様化・強化。エネルギー転換には大量の重要鉱物資源が不可欠になるという事実の理解を示した合意だ。共同声明の付録である「重要鉱物資源の安全保障に関する5点方針」に具体的な内容が記載されている。
道路部門:2030年までの高度な脱炭素化を達成し、2050年までにネットゼロ排出を実現する。
原子力発電:原発を使用する国はエネルギー安全保障の向上、脱炭素エネルギー源、重要なベースロード電源として認識。
エネルギーに関する合意を全体的に見ると、最近の地政学的な不確実性に直面したエネルギー安全保障の確保と脱炭素化に向けた取り組みを両立させようとしているのがわかる。また、所々にG7諸国間の意見の相違も反映されている。パワー・ジャパン読者はご存知の通り、本ブログでもG7合意内容と会議中の国家間の攻防戦を分析している。
そして日本では…
重要鉱物資源のパートナーシップが形成され…
G7の重要鉱物資源に関する合意に基づき、日本は経済安全保障の一環として、G7および他の「同様の考えを持つ国々」との協力を通して重要鉱物資源の開発を支援することを発表した。
今年の初めにレアメタルなど重要鉱物資源の安定確保に向けた国の大規模支援が確定された。2022年度第2次補正予算でエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)による出資事業に1,100億円を確保。経済安全保障推進法の特定重要資産に指定された鉱物資源関連の助成事業でも1,058億円を準備する。
この支援は日本が2022年に米国、カナダ、オーストラリア、フィンランド、フランス、ドイツ、韓国、イギリス、EUと共に創設した鉱物資源安全保障パートナーシップへの参加に続く。
また、日本と米国は3月に鉱物資源のサプライチェーンを強化するための合意を発表した。これにより、日本は米国のインフレ制御法に夜税制優遇措置の恩恵を受ける可能性が高まる。
蓄電池、太陽光パネル、風力タービンなどの製造にレアアース(希土類)などの重要鉱物は欠かせない。エネルギー資源に乏しい国として、日本がクリーンエネルギー転換において必要な鉱物資源の供給源を確保するためにさまざまな制作に取り組んでいることは大歓迎だ。その反面、鉱物資源サプライチェーンの透明性を高め、鉱物の産出地での労働条件や環境への影響を考慮することも大きなポイントとなるだろう。
…原発の運転期間が延長され…
5月末に原子力発電所の運転期間の60年超への延長を盛り込んだGX脱炭素電源法が参院本会議で可決、成立した。既存の原発をできるだけ活用し、電力の安定供給と温室効果ガス削減を目指す政策だ。
3.11の福島第1原発事故後に日本は「原則40年、最長60年」という原発運転期間を定めた。それを原則維持しながら、安全審査や裁判所の命令などの理由による停止期間を覗くことで事実上、60年超の運転が可能となる。再エネ普及のための送電網の資金繰りを支援することもこの法律のポイント。
福島震災後、全ての原発が停止され、2023年5月末時点で、54基のうちわずか10基の原子炉が再稼働を許可されている。
政府は2030年までに電力ミックス中、原発が20〜22%を占めることを目指している。GX脱炭素電源法はその目標達成に向けた大きな一歩だ。
今年5月12日に成立したGX推進法と合わせ、GX脱炭素電源法により国内の「2050年カーボンニュートラル」実現に向けたエネルギー政策の大枠が固まった。GX推進法により、本格的なカーボンプライシングを導入したことが最大のポイント。
3.11以前、原発は日本の低炭素ベースロード電源として重要な役割を果たしていた。政府は事故後すべての原発を停止したが、自民党は長い間、原発の再稼働を目指していて、昨年の世界的なエネルギー危機、酷暑の夏、国内での高い暖房費用などがその取り組みの追風となった。岸田政権はまた、既存の原子炉を補完する次世代原発の開発と放射性廃棄物の処理に取り組むと発表している。
しかし国内の原発には未解決の課題だらけだ。今年2月に行われた朝日新聞の世論調査によると、今停止している原発の運転再開について「賛成」が51%で、3.11移行初めて過半数になったが、「反対」の回答者は42%でいまだに数多い。反対派が懸念するのは相変わらず地震大国での原発のリスク、廃棄物の保管および処理、原子力発電所の社員による不祥事の連発などがある。原発を2030年までに20〜22%までに拡大するには市民の理解を得ることが最大の課題になるだろう。
…小さな村が気候変動対策で日本をリードし始めた
2023年6月1日、長野県白馬村住民と事業者有志一同は、白馬村村長および白馬村役場に「2030年をターゲットとした白馬村ゼロカーボン行動計画提言」を提供した。IPCC第6次報告書の「この10年間に行う選択や実施する対策が、現在から数千年先まで影響を持つ」という警告を真摯に捉え、白馬村の住民や事業者が半年間かけて本行動計画を作成したのだ。
住民・事業者有志一同は提案書を作成したモチベーションとしてこう語っている
白馬村は長野県の北西部に位置する人口8,500人の村で、1998年の長野冬季オリンピックの会場になるほどの国際的スノーリゾート。しかしスキーの観光に頼る白馬村は、気候変動による融雪で苦しんでいる。
本行動計画は2016年度をベースラインに、2030年までにCO2排出を68%削減、再エネの発電容量を17.6MW増加し、建築、移動・輸送、事業活動、家庭部門で省エネ化・脱炭素化を進めるという明確な目標を示している。
また、これらの気候変動対策を人材育成と地域経済の活性化にも繋げていて、日本の市町村に共通する課題に真っ向から向き合っている。
白馬村のように、持続可能性を高め環境への負荷を減らすために努力し始める市町村が増えている。国内外の評論家は、日本政府の気候変動対策の遅さに対し批判的になりがちだが、このように地方の人々が一致団結で前向きに取り組む姿を見ると、心に希望が湧いてくる。
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次回もまた日本の気候変動対策・エネルギー政策のトレンドをグローバルな視点でお届けしよう。