ウォルター ジェームズ

日本の気候変動対策・エネルギートランジションに関する分析や見解、つぶやきを発信。 沖縄…

ウォルター ジェームズ

日本の気候変動対策・エネルギートランジションに関する分析や見解、つぶやきを発信。 沖縄県出身。両親は日本人とアメリカ人。米国テンプル大学政治学部 博士号取得。 発言は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。

最近の記事

再エネ80%のための処方箋〜自然エネルギー財団 高瀬香絵インタビュー

今年度は日本のエネルギー政策と気候変動対策にとって極めて重要な年だ。政府は今後10年以上のエネルギー方針を形成する「エネルギー基本計画」を改訂し、国連の気候変動枠組みに基づく気候目標も見直す真っ最中だ。 そんな中で、野心的な再生可能エネルギー普及を求める声が多く上がっいる。最も専門性を有する屈指の声の一つが、自然エネルギー財団だ。自然エネルギー財団は日本を代表するエネルギーシンクタンクで、実質的に温室効果ガス排出を削減できるエネルギーシステムに向け、高度な分析や政策提言を数多

    • エネルギー外交の舞台裏〜日独エネルギーパートナーシップに関するadelphiとの対話

      今となっては、気候変動と脱炭素化がグローバルな課題であるというのは、もはやありふれた表現だ。しかし、その重要性は今でも変わらない。グローバルな課題には、グローバルな解決策が必要なのだ。 各国政府もこれを理解している。政策や技術に関する知見を共有し、サプライチェーンの合意を形成し、国境を越えた産業パートナーシップを導入するために、積極的に外交的な対話を模索している。これらの政府間協議はメディアにあまり注目さないが、クリーンエネルギー技術の普及において非常に重要な要素である。

      • 世界の脱炭素化を妨げる日本のエネルギー外交

        日本のエネルギー政策は世界規模のエネルギートランジションを促す力と妨げる力が並立している。しかし現状の日本エネルギー政策はそのトランジションを妨げる役割を果たしている。 世界全体の温室効果ガス排出量に占める日本の割合はわずか3%で、減少の傾向にある。アメリカやヨーロッパ、中国、インドなどの経済・エネルギー大国の動きに比べると、日本のエネルギー政策の影響力は極めて小さいと思われがちだ。 しかし日本のエネルギー政策は世界のエネルギートランジションおよび気候変動への対応を左右す

        • 平田仁子のセオリー・オブ・チェンジ (第二部)

          (この記事の英語版はこちら) クライメート・インテグレートの設立 日本の気候変動対策の最前線で20年以上活動を続けてきた平田は、日本がより積極的な気候変動対策に取り組めない根本的な原因として、3つのギャップがあることを確信した。 まず一つ目は、平田がエコシステム・ギャップと呼ぶものだ。これは、気候変動NGOのエコシステムを意味するもので、「気候政策を前に進めるコミュニティ、広い意味でのコミュニティが脆弱」な状態を指す。 第二に、インフォメーション・ギャップ。「やんなき

        再エネ80%のための処方箋〜自然エネルギー財団 高瀬香絵インタビュー

          平田仁子のセオリー・オブ・チェンジ (第一部)

          (この記事の英語版はこちら) 気候ネットワークと共に石炭火力発電への対抗僕が平田仁子と対談した日に繰り返し出てきた概念が、「セオリー・オブ・チェンジ」だった。セオリー・オブ・チェンジとは、どうすれば望まれる社会変革を起こせるのか、つまり変化の理論だ。 平田は草の根環境活動家に対し授与されるゴールドマン環境賞を受賞し、英BBCが選出する世界で最も影響力を発揮する女性100人の一人に選出され、さらに日本の気候変動政策への発言で海外メディアから引っ張りだこである。にもかかわらず

          平田仁子のセオリー・オブ・チェンジ (第一部)

          岸田首相のCOP28演説〜明かされる日本の化石燃料依存

          (この記事を英語で読みたい方はこちらへ) また今年も気候変動を話し合う国連の会議「COP28」が幕を閉じた。 その最終結果は評価する者の立場によってガラリと異なるだろう。気候アドボカシーに尽くす人や、気候変動の悪影響に晒される島国の住民なら、化石燃料「フェーズアウト」という言葉の記入が見送られたことは国際交渉の致命的な失態に思えるだろう。 その反面、「化石燃料からの転換」、「損失と損害」基金の成立、世界での再エネ発電キャパシティを3倍増加、エネルギー効率化を2倍増加などの

          岸田首相のCOP28演説〜明かされる日本の化石燃料依存

          100%再エネの未来を描く ~ 大野 輝之氏との対談

          この記事の英語版を読みたい方はこちら。あとLinkedinでニュースレター形式で配信しているので、そちらもどうぞ。 東京都知事から一本の電話が入った。小池都知事は、2030年までに温室効果ガス排出量を半減するという都の目標を実現するための最善の方法について、有識者の意見を求めていた。 受話器を取ったのは、自然エネルギー財団の常務理事である大野 輝之氏だった。 彼は東京都のことを熟知しており、政策の立案方法もよく知っている人物だ。それもそのはずだ。自然エネルギー財団に就任す

          100%再エネの未来を描く ~ 大野 輝之氏との対談

          福島のグリーン水素への飛躍:希望とリスク

          時は2020年3月。大勢の聴衆が集まり、カメラが回る中、故安倍晋三首相は水素で駆動する新型トヨタMIRAIから降り立った。そして、彼はすぐさま壇上へと向かった。 「再生可能エネルギーから水素を生み出す、世界最大の施設がいよいよ稼働します。」と彼は語った。この施設では、日本の燃料電池車の半分以上を1年間駆動するのに十分な200トンのカーボンフリー水素が製造されるのだ。 その前年、安倍元首相はスイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムに出席し、日本は2050年までに水素の製造コ

          福島のグリーン水素への飛躍:希望とリスク

          分子の追求 〜 水素をめぐる産業政策

          ある分子の追求が始まろうとしている。それは国々のエネルギーの未来を左右する分子である。水素原子2個からなる分子だ。 欧米では、太陽光、風力、電気自動車(EV)などが期待を背負う一方、日本では水素が大きな注目を集めている。東芝と東レは、再エネ由来の水素の製造コストを削減するための新たな技術を開発しているところだ。パナソニックも同様である。そして、関西電力はカナダからの水素購入を検討している。日本とオーストラリアの合弁企業は、水素サプライチェーンへの最初の一歩を踏み出した。岸田

          分子の追求 〜 水素をめぐる産業政策

          3.11前の鉄の三角形

          2011年の東日本大震災と福島第一原発事故は日本のエネルギー政策にとって、一種の転換点だった。 もちろん、変化の度合いについては議論がある。だが原子炉の停止、再生可能エネルギーを促進する政策の導入、そして同時に、日本のエネルギーミックスでの化石燃料の割合の増加は、すべて3.11によって引き起こされた。変化度は大きかったと言って間違いない。 大きく変わった環境で、3.11以前の時代は忘れ去られてしまうのではないか。今回の投稿ではまさにその前時代を振り返ってみたい。特に焦点を

          【ニュースレター 第4号】 次世代太陽光発電 ペロブスカイト太陽電池

          最近聞き慣れない言葉をちょくちょく見る。「ペロブスカイト」だ。 ペロブスカイト型太陽電池は、次世代のエネルギー技術として注目を浴びている。シリコンソーラーパネルのコストが低下している現状において、ペロブスカイトは太陽エネルギーをさらに効果的に利用するための新技術として登場している。うまくいけば、世界のエネルギー供給における太陽光発電を劇的に増加できるかもしれない。 今回はそのペロブスカイト太陽電池に注目する。そもそもペロブスカイトの技術はどんなものなのか。どんな公的支援を

          【ニュースレター 第4号】 次世代太陽光発電 ペロブスカイト太陽電池

          【ニュースレター  第3号】 グローバルノースとグローバルサウスの隔たり G20エネルギー会合

          地球沸騰化の時代で、グローバルノースとグローバルサウスの隔たりがあらわになる。 7月21日から22日にかけて、G20エネルギー移行大臣会合が行われ、日本を含む先進国に新興国とくわえた主要20カ国がインド南部ゴア州に集った。会議後に発表された成果文書の言葉を借りると、会議の目的は「安全で持続可能で公正で共有された包摂的な成長を可能にする手段として、多様な道筋を通じて、クリーンで持続可能で公正で低廉で包摂的なエネルギー移行を加速するため」だった。 しかし成果物はあったのだろう

          【ニュースレター  第3号】 グローバルノースとグローバルサウスの隔たり G20エネルギー会合

          日本の脱炭素もどき思想

          国家の思想は政策の血肉となり、誤信は誤った政策を産む。日本政府の脱炭素戦略はまさにそれだ。 去る4月、G7諸国の気候・エネルギー・環境大臣の会合が札幌で開催された。その会合の共同声明の注目すべき点をこの投稿の第一部でまとめ、参加国の間の揉め事に第2部で焦点を当てた。 政府間の亀裂をあらわにすることで、少なくとも一つの事実が自明になった。それは、日本の脱炭素に向けたアプローチみが浮き彫りになったことだ。このアプローチをどう表現すればいいのだろう?「独特」か?「奇抜」だろうか

          日本の脱炭素もどき思想

          New York Times誌が深堀:日本のアンモニア石炭混焼の誤差

          ちょっと前にニューヨーク・タイムス誌が日本のアンモニア石炭火力混焼について掘り下げた記事を出した。 愛知県碧南市にある国内最大の石炭火力発電所を中心に取材したものだが、去るG7会議も視野に入れた、読みがいのある記事だと思う。英語に自信がない方もブラウザーの翻訳機能を使ってぜひ読んでいただきたい。 と読む暇がない人のために、ここで要約しておこう。 他国は再生可能エネルギーを優先して石炭を廃止しようとする一方、日本は先進諸国の間で石炭火力を引き続き使用し、環境に対するインパ

          New York Times誌が深堀:日本のアンモニア石炭混焼の誤差

          猛暑の日々 気候危機に食われる日本

          #私の学び直し 日本も煮えたぎる。 熱帯夜(最低気温25°C以上)と猛暑日(最高気温35°C以上)の日数は1970年代以来、大幅に増えている。 昔よりも夏が暑くなってきているというのは、統計をみなくても大抵の人は肌で感じているはずだ。 先日の投稿でもこの切り口だったが、もう一度言ってもいいと思う。メディアにはこの猛暑の原因を解説する報道は多くある。しかしその原因を最終的に地球温暖化や気候変動に結びつけているのかというと、マチマチだ。 本投稿は日本ですでに起きている気

          猛暑の日々 気候危機に食われる日本

          猛暑の日々 改めて考える気候変動の原理

          世界が煮えたぎる。 今年7月現時点で世界の平均気温は過去最高を更新し、至る国が熱波、熱波や水害などの異常気象に見舞われている。日本も例外ではない。さいたま市で38度、群馬県で37.9度、東京で37.8度、茨城県で37.3度と、とんでもない気温に突入している。 さすがにこの猛暑の原因を解説する報道は多くある。しかしその原因を最終的に地球温暖化や気候変動に結びつけているのかというと、案外マチマチだ。 本ブログを読んでいる方ならすでによくご存知かもしれないが、「何となく」の程

          猛暑の日々 改めて考える気候変動の原理