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猛暑の日々 改めて考える気候変動の原理

世界が煮えたぎる。

今年7月現時点で世界の平均気温は過去最高を更新し、至る国が熱波、熱波や水害などの異常気象に見舞われている。日本も例外ではない。さいたま市で38度、群馬県で37.9度、東京で37.8度、茨城県で37.3度と、とんでもない気温に突入している。

さすがにこの猛暑の原因を解説する報道は多くある。しかしその原因を最終的に地球温暖化や気候変動に結びつけているのかというと、案外マチマチだ。

本ブログを読んでいる方ならすでによくご存知かもしれないが、「何となく」の程度で気候変動の原理を捉えている方も多いはずだ。残念ながら、気候変動はこれから悪化していき、これからの僕らの生活をどんどん影響していくのが事実だ。それを踏まえ、温暖化や気候変動の原因、メカニズムと効果をあらためて説明したい。



工業化と地球温暖化

18世紀末を初めに、いくつかの国が工業化によってことごとく姿を変えていった。短い間に大勢の農民が工業へと移り、工場のある町に向かい、人間の移住は都市化につながった。工業化に伴い、製造・輸送・通信の能率を上げるため、人間は機械に頼り始めた。その機械を動かすため、鉄道や自動車を運転するため、建物の冷暖房のために工業社会は燃料とエネルギーを貪欲に欲しはじめた。

19世紀半ば、イギリスのガラス工場
出典:Encyclopedia Britannica

現代社会の中心となるエネルギーのほとんどは、地中に埋蔵されていた資源を掘り出して燃やすことによって力を発揮する。何億年もの間に植物や生物の死骸が堆積し、圧力が加わることによって化石化され、濃度の高いエネルギー資源になった。産業のために初めて加工されたのは石炭で、後に石油と天然ガスと共に3大化石燃料の王座に就いた。化石燃料のおかげで先進国は劇的な経済成長を遂げて、人々の生活水準の向上を達成することができた。
ただ、そこに問題があった。化石燃料を燃やすことによって、徐々に地球の大気に目にみえない変化が起きていた。木材でも紙でも、燃やせば二酸化炭素が出てくる。ここ200年の間、そして特にここ70年間、化石燃料を燃やすことが二酸化炭素の排出を飛躍的に増加させた。

出典:Our World in Data 
図はCO2のみではなく、温室効果ガス全てを含め、世界中の排出量をトン単位で示す

温暖化の原因

地球を暖める複数のガスを全部含めて温室効果ガスと呼ぶが、そこに気候変動が他の環境問題とは異なる根本的な理由がある。たいていの環境問題は問題が発生した場所にとどまる。しかし温室効果ガスは国境を越え、世界中に漂い、最終的に引き起こす温暖化は地球全体に影響を及ぼす。そのグローバルな性質と影響が長い年月を隔ててしか現れないという事実が気候変動対策へ向けた国際協力に歯止めをかけてきた。

ちなみに、話をシンプルにするために、ここでは温室効果ガスや二酸化炭素、CO2のことを同じ意味で話す。もちろん、他にも温室効果ガスはあって、二酸化炭素よりもはるかに強力に温暖化に加わるタチの悪いガスも紛れ込んでる。

だが気候変動対策の議論のほとんどは、どうやって二酸化炭素排出を削減するかが重視されてきた。それは二酸化炭素が最も深刻な温室効果ガスだからだ。これには2つの理由がある:

  1. 地球に存在する温室効果ガスの中でCO2がもっとも大きい部分を占めているガスだということ。CO2は何を燃やしても必然的に生じる副産物で、工業化以来のCO2排出率は自然界が吸収できる量を劇的に上回っている。

  2. CO2が大気に漂う平均時間が、自然界が吸収するスピードに比べてはるかに長いということ。空気に浮いている二酸化炭素が分解されるまでに約100年かかる。海や森林が二酸化炭素を大幅に吸収するには数百年。CO2を大幅に確保できる森林は長い月日をかけて育つし、海の水面はCO2を吸収するがすぐに大気に戻してしまう。深海まで吸収するには長い時間がかかる。

温室効果ガスというのはどんな働きで地球を暖めるのだろうか?ビル・ゲイツの著書「地球の未来のために僕が決断したこと」で簡潔に説明してるので引用させてもらう。分子というものは全て振動する。振動が早ければ早いほど、分子は熱を発する。ある種の分子がある波長の放射にさらされると、放射を阻止して、熱を吸収し、より早く振動する。それが温室効果ガスが太陽からの放射を受けた時に起こる現象。つまり、太陽の光が大気中のガスに当たることによって、さらに熱を発する、というわけだ。太陽の光が地球の大気へと入ってくると、地表と大気が光の一部を反射し、宇宙へはねかえす。しかし跳ね返されていく光の一部は大気に浮いている温室効果ガスに吸収される。こういった原理で温室効果ガスの分子の振動は加速し、大気を暖めていくわけだ。

出典:東京新聞

現時点では、世界の平均気温が上がっているという証拠はありふれている。1988年に気候科学の研究を分析して、各国の政府向けに指摘するためにある国際機関が創立された。通称IPCCと呼ばれている。そのIPCCが2021年に1万4000以上もの気候に関する論文を分析した第6次評価報告書(和訳)を公表した。報告の序章によると、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪や氷で覆われた地域や生物圏において、広範囲かつ急激な変化が現れている。」そしてまた「1750年頃以降に観察された、よく混合された温室効果ガスの濃度増加は、人間活動によって引き起こされたことに疑う余地がない」と述べている。

IPCCのような学術的な機関が「疑う余地がない」など踏み切った言葉を使うのは正直言って衝撃的だ。科学者は普段、研究について話すときに絶対的な表現を避ける。IPC C自体も過去の報告書では予測内容のことを「ほぼ確実」や「確信度が非常に高い」という慎重な表現を使っていた。2021年の第6報告書がこれほど明確に断言しているのは、気候変動は人為起源の結果で、前代未聞の影響をもたらすことにもはや議論の余地はない、ということだ。

さてここまでは、比較的に数少ない先進国が工業化していく過程で、大量のCO2を副産物として排出してきたこと、温室効果ガスの中でもCO2が最も厄介だということ、そして人間活動で排出される温室効果ガスが地球温暖化、さらに気候変動へとつながっていることを話してきた。

ではIPCCが警告する気候変動が世界にどんな影響を及ぼしているのか、その現象を見ていきたい。

温暖化の影響

1850年以来の世界平均気温上昇は1.07°Cらしい。1.07℃と言われると、ほんのわずかに聞こえるが、氷河期の平均気温は今と比べて6℃低かったに過ぎない。恐竜がいた時代には、平均気温は今より約4℃高く、北極圏にワニがいたという。この事実を念頭におけば、1.07℃の上昇はかなりの差だということがわかってくる。

出典:IPCC第6次評価報告書(和訳)
左パネルは古気候の記録から復元された世界平均気温の変化(灰色の実線、西暦 1~2000 年)及び直接観測による世界平均気温の 変化(黒色の実線、1850~2020 年)。
右パネルは過去 170 年間の世界平均気温の変化(黒色の線)

そして、もし人類が今のペースで二酸化炭素を排出し続ければ、地球は2050年ごろには今と比べ2℃暑くなるという見込みだ。

今までの1.07℃の温暖化はもうすでに陸や海、そして気候に大きな変化をもたらし始めている。最もよく知られている現象は「解ける氷河」だろう。今起きている北極と南極の氷河の縮小はここ数千年間、前例がない。それだけではなく、世界中の氷が溶け始めている。永久凍土と呼ばれる凍った土、雪、氷床、凍った海・湖・池・川の表面積は全て小さくなっている。

溶けた氷は海に流れ込む。水量の増加はもちろん、水温が上がるせいで水は膨張するという現象と合わせて、海面水準も上昇している。それと同時に海水中のCO2濃度が高まり、海水の酸性化につながって、珊瑚礁や珊瑚礁に頼る生態系も脅かされてる。

海の上や陸上ではさらに別の連鎖反応が起きている。東アジアを含む湿度が高い地域での温暖化は、空気の湿度をさらに上げ、より強力な熱帯低気圧や台風、降雨などをひんぱんに引き起こす。こういった自然現象はもちろん農業、インフラ、経済といった、社会のありとあらゆる面にダメージを与える。

その一方、雨の少なく乾燥している地域での温暖化は空気をさらに乾燥させ、森林火災のリスクを上げたり、干ばつの原因になったりして、農作物の被害が起きている。ちなみに、昨年インドとパキスタンは記録的熱波に襲われた。インドのデリーでは5月に観測史上最高の49.2℃を記録した。極端な気象の要因分析を行う民間団体 World Weather Attribution によると、南アジアでの熱波は人為的気候変動により発生する可能性が30倍高くなっているという。

もちろん、猛暑や熱波は人命にも影響を及ぼす。ある調査によると、2019年には世界で熱中症による死亡数が35万人を超えたと結論づけている。

湿度の高い地域ではさらに湿度が増し、乾燥した地域はさらに乾燥していく。地域と季節によっては、気候変動は大雨や洪水、そして干ばつと旱害の可能性を高めている。

ここまで触れてきたのは2050年までに気温が2℃上昇すればの話だ。いうまでもなく、今のまま温暖化ガスを排出し続ければ、それから先はもっと暑くなる。今世紀末には世界平均気温は2.5℃〜5.7℃まで上がるという想定だ。

出典:全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)

気温が少しずつ上昇するたびにあらゆる気候変動の影響が悪化してしまう。
ゾッとする可能性がもう一つある。それはI PCCが「複合イベント」と呼ばれる、2つ以上の壊滅的な異常気象が同時に起きてしまうことだ。もしある町が大洪水に見舞われ、立て続けに台風と熱波に襲われるハメになってしまったら、たいていの応急対策はきっと不十分だろう。複合イベントがどれだけ絶望的かが見えてくる。気温が上がるにつれて、こういう可能性も共に増加する。

IPCCや科学界の警告を突きつけられ、今では「気候変動」ではなく、「気候危機」という言葉を使い始めている人も多い。正直いって、その絶望感も分からなくもない。


さて、これまでは世界的規模での気候変動の話だったが、次の投稿では日本政府の報告書を参考に日本の状況を見ていく。



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