【ニュースレター 第3号】 グローバルノースとグローバルサウスの隔たり G20エネルギー会合
地球沸騰化の時代で、グローバルノースとグローバルサウスの隔たりがあらわになる。
7月21日から22日にかけて、G20エネルギー移行大臣会合が行われ、日本を含む先進国に新興国とくわえた主要20カ国がインド南部ゴア州に集った。会議後に発表された成果文書の言葉を借りると、会議の目的は「安全で持続可能で公正で共有された包摂的な成長を可能にする手段として、多様な道筋を通じて、クリーンで持続可能で公正で低廉で包摂的なエネルギー移行を加速するため」だった。
しかし成果物はあったのだろうか。
エネルギー安全保障の重要性を強調。クリーンなエネルギーシステムに向けた投資の必要性を強調。エネルギー移行へ向けた鉱物、材料、技術の不可欠さを認識。効率性を高めることの大切さを支持。エネルギーインフラや電力系統統合の重要さを認識。万人のエネルギーアクセスを支持。
「強調」「認識」「支持」「留意」の連発。成果文書はSDGsと区別がつかない漠然とした観念に満ちていて、具体的な目標の合意がこれといって見当たらない。
事前に期待されていた化石燃料の低減も、再エネの導入量を2030年までに世界で3倍に高めることも一致できなかった。国際再生可能エネルギー(IRENA)が1.5度の気温上昇に制御するには、2030年までにG20全体の電源構成の50%が再エネでなければならない (p. 65)と警告したにも関わらずだ。
なぜだ?
その答えは簡潔で、長年気候変動の国際交渉のボトルネックになった問題である。一言で言えば、グローバルノース vs グローバルサウスである。あえて一つ付け加えるとすると、化石燃料を手放さない国 vs 脱化石燃料へと取り組んでいる国だ。
成果文書の25パラグフラフにある、一見緩やかな一文が不一致をあからさまにする。
サウジアラビアをはじめとする数カ国(おそらく中国、南アフリカ、ロシア、インドネシア)が自国が目指すのは排出削減であり、化石燃料フェーズアウトではないと主張した結果だ。
その二つの選択肢の差は大きい。フェーズアウトのシナリオなら当然化石燃料は徐々に廃止し、代わりに再エネ・グリーン水素などのクリーンエネルギーの割合を引き上げていく。一方、排出削減を重点を置いたシナリオは火力発電を維持し、排出されるCO2の回収(CCS)などの技術開発に資本注入することになる。
日本代表として西村経済産業大臣が参加し、気候変動対策、エネルギー安全保障確保、経済成長の同時達成に向け、
多様な道筋によるエネルギー移行
イノベーションの促進
世界全体での脱炭素化が重要性
について発言した。外見は中立的だが、「多様な道筋」は実は婉曲語法だ。産業競争力強化よ経済成長の同時実現のため、火力発電の大幅削減は望ましくないという日本のポジションは今では周知で、サウジアラビアの位置と同調する。
だがCCSには深刻な課題が残る。現在稼働中のCCSの中で最も多いのは、火力発電からの排出ではなく、天然ガス精製で発生するCO2を回収するものだ。地層に永久貯蔵されるはずのCO2は漏出する例も多く、回収後に使用される(CCUS)CO2の大半は原油の回収率を上げるため、つまり化石燃料の生産を増やすために使われている。
有意義な気候変動対策に合意できないのであれば、国際交渉は無意味なのだろうか? 多国間主義など捨ててしまったほうが良いのか?
著者は断じてそう思わない。
確かに排出削減インパクトが最も高い化石燃料フェーズアウトの数値的目標の合意は困難かもしれない。それでも脱炭素実現の必要性、再エネのイノベーションや水素普及に向けた制度の重要さなどの価値観を確認し合うことに意義はある。それに、国民が「パリ協定」や「1.5度以下」などの基準を掲げ、権力者に圧力をかけられるのも、150カ国が2030年までにメタン排出を2020年比で30%削減することに合意したのも、国際合意のおかげではないか。
とはいえ、今回のG20はアラブ首長国連邦(UAE)が11月に主催するCOP28の前兆と考えざるを得ない。UAEは原油・天然ガス輸出国であり、化石燃料生産の可否についてではなく、化石燃料の使用に伴う排出量の段階的削減で合意すべきだと主張している。気候変動の影響が激化する中、COP議長国による危機意識の無さに懸念が高まる。