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【悪魔の果実】 毎週ショートショートnote
茹だるような暑さの中、友人と並んで縁側でスイカを食べていた。
頭上に吊るされた安いガラスの風鈴の音と、背後の部屋から流れてくる扇風機のぬるい風を感じて、次第に少年時代へと返っていく気がした。
「中世ヨーロッパだとスイカは悪魔の果実って言われてたらしいよ」
突然、友人がそう言った。
「で、ほとんどの場合は人が食べる前に悪魔が持ち帰っちゃうみたい」
「急になんの話しだよ」
「でも、稀に人の口に入ることもあるんだって」
「だからなんだって」
俺の問いに、友人は勢いよく顔を近付けてきた。
「これ、本物の悪魔の果実」
額から流れる汗が、冷や汗に変わり鼻先を撫でる。
「食べた人はどうなるんだよ」
「知らない。体のほんの一部がスイカにでもなるんじゃない」
友人の気の抜けた返事に呆れてしまった。
「最後は無粋だな」
「無粋かぁ。でも涼しくなっただろ」
ちりりん、と話しにオチを付けるように風鈴が鳴る。
拭った鼻先の汗はなぜか淡いピンク色をしていた。
(了)