未来から
【未来から】
ガリナの黒い飴は沢山の人を救いました。
しかし、スーさんの宇宙人開発も、ベラールが別の惑星に移り住む計画も、執行されてしまいました。
ベラールが地球の一部を抉り取って、有毒ガスを出すと、ベラールが作り始めていた惑星が計算通り地球にぶつかってきました。そして、接触した縁に触れて、新しい生命活動をはじめました。
ベラールが言いました。「計画通りだ。出発だ」
更地になった地球に、スーさんが残りました。地下で宇宙人と人間の混血を作っていたスーさんは、残された地球で主権を握り、宇宙人と人間の混血たちがスーさんに支えました。
ベラールが新しい惑星で永遠に続くと計算されていた資源は、ある日別の惑星が衝突し、打撃を受けたことで計算が狂い、資源不足となりました。
ベラールがスーさんを訪れ地球の資源を分けてほしいというと、その昔ベラールの部下だったスーさんは、地球を出て行ったベラールに与えるものはないと言いました。
ベラールは交換条件として何が欲しいかとスーさんに訊きました。するとスーさんは「人間がほしい」と言いました。
AIと人間の混血で惑星の稼働率をコントロールしてきたベラールが「人間はもうわずかしか残っていないからそれはできない」というと、「それならあきらめて帰ってくれ。他のものは全てここに残っている」と言いました。
地球はスーさんの王国になっていることを知ると、ベラールは他には手がないと思いこう言いました。
「分かった。すこし待ってくれ。人間の子供を養殖して連れてくる。」
3ヶ月後、養殖した人間の子供がスーさんの元に訪れると、スーさんはベラールに地球の資源を5年分渡しました。
ベラールは5年先の交渉のために人間を増やし始めました。
養殖した人間のこどもを受け取ったスーさんは、そのこどもを、宇宙人と人間の混血に育てさせました。
宇宙人と人間の混血は、具体的には心臓だけが人間です。
しかしその心臓は人間の心の記憶しているようでした。
外はぬめぬめとしており、細かいギザギザの歯が何重にも口の中で重なっています。生暖かい呼吸をするたびにゴロゴロと液体が器官に絡む音がし、よだれが垂れています。
このようなバケモノに育てられた人間のこどもは、ヌメヌメとした父親とも母親とも判断のつかないソレの腕にうづくまり眠り、ソレの手から、食べ物を与えられました。
ソレの心臓が走馬灯のように人間の記憶を走り抜ける瞬間がありました。その時ソレの体は体温を持ち、人間のこどもを強く抱きしめるのでした。
人間のこどもはその瞬間を永遠と捉え、自分の記憶に刻み、その世界を深く広く創造し、その世界に生きている自分、愛されている自分を確保し、たくましく成長しました。
5年後が近づくとベラールが再び交渉に訪れました。今度は養殖した人間は百倍に増えていました。スーさんは人間を百倍に増やす方法をベラールに訊きました。ベラールはそれを教えると次の資源供給はなくなるだろうと思い、教える人が死んだのであるだけだと嘘をつきました。スーさんはベラールが嘘をついていることが分かったので、次の交渉の時までに、百倍になってやってきた人間たちに彼らが見聞きしたものを調べようと思いました。
しかしこの思い出させる方法をスーさんは半ば強引に行ったので、これらの人間の半分は死んでしまいました。
その次の5年後、ベラールは前回のさらに二倍の養殖した人間を連れてやってきました。スーさんは後継者を育てていないために、これらの人間を受け取って何になるのかと考えはじめ、地球の資源はこれ以上与えないとベラールに告げました。スーさんは自分が有限であることを分かっていても、地球の資源を独り占めしたいと思いました。そして、地球の一部をえぐりとって出ていったベラールを恨み続けました。
もはやこの欲望だけがスーさんを生かしていました。
ある日、地球の様子を見にきたベラールの乗った飛行物体をベラールが打つと、戦争が始まりました。
地球は再び焼け野原になりました。
この時の瓦礫の処理はもやし続けても片付くことはありませんでした。瓦礫を燃やす炎は、遠い遠い惑星からも光ってみえます。
この戦争で一番始めに交換条件としてやってきた養殖された人間の子供は、自分を育てた宇宙人と人間の混血が目の前で射たれた時、泣きました。宇宙人と人間の混血がこどもの涙を見ると、
心臓はすでに止まっていました。
(つづく)