セミの死

運河沿いをぶらぶら。太陽は少し西に傾いた。8月、日差しは、7月の若さがなくて、熟れている。それでも暑くて、熱風のなか、とぼとぼ歩く。
セミは、今を生きるように鳴いている。草は蒸されたようになって濃い緑。
煮詰まったような午後、運河はかまわず流れている。
セミが一匹、斜めにすーっと急降下。川に落ちた。あがくセミ。
それをみながらなすすべもない自分。死ぬところを見ている自分。
不慮の事故。
やがて静かになった。そして、もう一あがきして、ほんとうに静かになった。
とぼとぼ歩き続けながら、自分もいつか、あきらめたように静かになる日がくるのだと、それは皆、同じなのだと。
入道雲のその先のその先の少し秋が見えたような空を見ながら、セミの時間と自分の時間は、大きな流れでは変わらぬものなのだろう、とうすうす感じ始めたこのごろに。

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