地球儀とルーペ

ある気持ちのいい秋晴れの休日、テレビニュースをみていると、玄関のベルが鳴った。
ドアを開けるとそこには大きなダンボール箱を抱えた配達員がいた。はて、こんな荷物とどく予定があっただろうか。と思いながらも受け取る。部屋に戻り、その箱を観察する。

差出人の名前は、にじんでいて読めない。

開けてみれば誰からの荷物かわかるだろうと思い、開けると地球儀とルーペが入っていた。

箱の中には、さらに「神様セット」と、書かれただけの紙が入っていた。

そういえば息子が地球儀を欲しがっていた。
きっとうちの母が孫のために。と送ってきたのだろう。たしかに、地球儀をルーペで見ると、なんだか神様のような気になれそうだ。
真面目な母にしては、ジョークの効いたものを買うなと思った。

つけっぱなしにしているテレビでは、国際情勢が不安定であることを、キャスターが真面目な顔をして伝えている。

よく地球儀を見てみると、いろんなところで爆発が起こったり、煙が上がっている。おもちゃにしてはよくできているな。と思って、一緒に送られてきたルーペで地球儀をよく観察することにした。

ルーペを覗き込むと、小さな点がうごめいている。1つの点に意識を集中すると、不思議なことに、その点がさらにズームされ、点だと思っていたものが、人だったことがわかった。

さらに地球儀を観察して、5分くらい経った頃。この地球儀の世界では戦争が起きているらしいことがわかった。

ふと地球儀の台座を見ると、8桁のダイヤルが付いていた。それぞれ数字の上にはアルファベットが付いていて「mmddyyyy」と書いてあった。どうやらこのダイヤルで観察する時代を選べるみたいだ。

ダイヤルは今からだいたい20年後を示していた。どれどれ、20年後は我が家はどうなっているだろうか。と、気になり我が家があるはずのところにルーペをかざす。

そこは、一面の更地だった。
冗談じゃない。いくらおもちゃだって、我が家がなくなることにされるのは気持ちがいいものではない。ローンだってあと30年残っている。
それに戦争が起こっていることにされるなんて、作ったやつの趣味を疑う。

地球儀から顔を上げ、テレビを見ると、ニュースでは隣国が新型のミサイルが開発され、新たな国際不安の種になっていくと、解説員が難しい単語を並べて伝えている。

私は焼け野原になっていた我が家を忘れようとしたが、頭に焼き付いてしまった。ああ。くそ。と、思いながらも気になってしまった私は、一年、また一年とダイヤルを現在に近づけてみる。
ダイヤルを回すたびに地球儀の柄は目まぐるしくうごめき、ピタッと止まることを繰り返す。
だが、おかしなことに我が家はいつまでたっても焼け野原。と、いうより辺り一帯が焼け野原なのだ。

ついに、ダイヤルが示す日付が今日になった。
うごめいていた柄が、ピタッと止まる。
地球儀の我が家があるべきところに、ルーペを近づける。

やはり、ただの焼け野原だった。

私はバカバカしくなり、地球儀を見るのをやめた。こんな悪趣味なもの送ってくるなと、あとで母に伝えなければ。

せっかくの気持ちのいい秋晴れの日だ。
そろそろ日も暮れるし、気分転換に
息子を連れて夕飯前の散歩にでも行くか。
そう思って、窓の外を見る。
夕焼けの空に一番星にしては大きな何かが光った。

#ショートショート #はじめて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?