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全米統一試験の自宅オンライン受験から何を学ぶか


 毎年、5月第1~2週目にかけて実施されていた全米規模の試験(AP試験)が、今年はコロナ禍の影響で2週間遅れ、さらに試験会場の閉鎖で、自宅オンライン受験に切り替わったが、その大きな試験も終了した。

 このAP試験に関して、私には二つの学びがあるように思う。

 一つが、前回のコラムでも書いたが、のべ240万人の高校生が受験する大規模な科目試験を中止にすることなく、大胆にも自宅オンラインで実施したことである。国際バカロレアやSATなど大学受験を左右する大規模な試験が軒並みキャンセルになる中、AP試験が実施されたことは、大学進学を目指す高校生にとって、かなりの刺激になったのではないか。突然の学校閉鎖に追い込まれる中、なんとかモチベーションを下げず、オンラインで学習し続けられたのは、試験がどんな形であれ実施されたからだと思う。

 もう一つの学びは、どの試験科目も、自宅によるオンライン受験に切り替わり、試験時間が3時間前後から45分と短縮されてもなお、論述問題のみの出題とされたことである。冷静に考えれば、コロナ禍以前も、四択問題やショートアンサー(数行程度の記述式)と並んで、論述問題(与えられた複数の資料を読んで分析する等)も課されていたので、すでに評価基準や採点方法が構築されている。しかし、四択やショートアンサーではなく、自分で論を張って分析し、説得力のある文章を仕上げる試験形式にすることから、試験で求められるものが、日米によって大きく異なることを知った。つまり、AP試験では、暗記力を問うのではなく、論理的思考能力を問うものであるということだ。

 理系分野も、例えばAP生物では、実験に関してまとめられたデータが提示され、それを分析する問題が出されている。AP物理の試験では、実験モデルとともに、その実験が表す数式が提示されているが、その数式が正しいか否か、理由づけて説明する問いが出されている。つまり”Explain why or why not?”という問いだ。

 日本だったら、それだけ多くの生徒が受験する大規模な試験で論述文(Thesis)を求める論述問題を出題するだろうか。アメリカでそうした出題を可能にする理由に、評価基準(Rubric)を明確に示していることが挙げられる。まるでフィギュアスケートの規定演技のようだ。これはAP試験だからではなく、通常授業からそうなのである。アメリカでは、レベルによる差異もあるが、英語のクラスでは、論述文(Thesis)を書く課題が出される。その際、採点基準表(Rubric)と、論述するための手引き(Organizer)が配布され、授業中に先生から説明を受けた上で、実際に書き、仕上げていく。つまり、英語の授業には、文学やシェイクスピアなど古典を学ぶだけでなく、説得力のある論述(Rhetorical Analysis)を書く力を養うという、科目を横断した役割もあるため、論述文のテーマは、社会科学系と自然科学系の双方にまたがる。その先に、科目を問わず論述から論理的思考能力を試すAP試験があるのだ。だから、今回、オンライン受験になっても、論述問題を出題できる体制が出来上がっているのだ。ちなみに、アメリカは、日本のような大学受験予備校が発達していない。でも、Youtubeで検索すると、どうやって説得力のある論述文を書くかが説明された10分程度の動画が沢山見つかり、10万回以上の再生数を持つものもある。

 今回のアメリカの全米統一試験から何を学ぶか。ICTの活用のあり方だけでなく、論理的思考能力を求める先にどのような試験があるのか、試験の実施方法と試験内容の双方から、大きな学びがあるように思える。

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