生まれ変わったら、何になりたい?【エッセイ】
高校生に向けたエッセイです。実際に、教室に掲示しています。
「もし、生まれ変わったら何になりたい?」という超平和な話題について、これまで多くの人が聞いたり考えたりしてきたと思う。そして、何度もそんなことを考えては、その答えを更新してきているはずだ。生まれ変わったら…なんて非現実的な話だが、なぜかそんなことを考えてしまう。
ここで、生まれ変わったら何になりたいか。真剣に考えてみてほしい。人でも、動物でも、何でもいい。自分がなりたいものを真剣に考えてみる。これは人それぞれの答えがあると思うが、たとえばこんな感じだろうか。有名俳優、有名You Tuber、有名スポーツ選手、社長、鳥、ライオン、イルカ……などなど。他にもあったら、また教えて下さい。有名人とか社長には、そりゃなりたいよね。カッコいいし、可愛いし、モテるし、華やかだし、お金もあるし。動物にもなってみたいよね。自由だし、強いし、泳げるし。とまぁ、こんな感じの意見が多いのではないか。
では、もう少し真剣に考えてみたい。それは、本当になりたいものなのか。自分という人格を捨ててまでなりたいものなのかどうか。
菅田将暉なんて、最高だ。ドラマや映画で主演、歌もヒット、奥さんは小松菜奈。しかし、本当に菅田将暉になっていいのか。ドラマや映画の撮影は過酷を極める。朝早くからロケ、台本を覚え続ける日々。歌手活動も抜かりなく、リハを重ねる。家に帰っても小松菜奈。そう、可愛すぎて安らぐどころじゃない。この生活を続ける覚悟が果たしてあるのか。You Tuber。動画の企画、撮影、編集に追われる。炎上と隣り合わせの日々。スポーツ選手。汗と血のにじむような努力。過程より結果を求められ続ける日々。これらに耐えうるだけの覚悟が果たしてあるのか。
動物になって、自由を謳歌できたら最高だ。しかし、本当に動物になっていいのか。動物になるということは、人間社会からの離脱を意味する。カレー、ラーメン、ハンバーグとは、さよならだ。シーズンごとに3000kmもの距離を飛ぶように、食べ物を求めてゴミ箱をあさるように、百獣の王として君臨し続けるように、人間に芸を調教されるように、生きていくだけの覚悟があるだろうか。
というように、しっかり真剣に考えてみると、本当の意味でなりたいものを見つけるのは非常に難しい気がする。何に生まれ変わったとしても、大変なことはある。むしろ、今の自分よりも大変なことの方が多そうだ。それなら、やっぱり自分のままでいい。と仕方なく思う。思わざるを得ない。
「The grass is always greener on the other side of fence」という英語のことわざがある。日本語に訳すと、「隣の芝生は青い」となる。もしかしたら、聞いたことくらいはあるかもしれない。どちらも「何でも他人のものは良く見えるものである。」という意味で使われ、相手と比較する場面で用いられることが多い。「もし、生まれ変わったら何になりたい?」という問いは、無理やり自分と誰かを比較させて、あたかも自分よりも他人の方が良いと錯覚させる、そんな魔力を持っているのではないか。この問いをかけられると、隣の芝生どころか、学区内全ての芝生が青々として見えてしまう。自分の芝生が枯れ果てているように見えてしまう。
それでも、よくよく考えてみると、あれだけ青い芝生の手入れがいかに大変なのか、気がつくことができるはずだ。そして、隣の人から見たら自分の芝生は青いのかもしれない。僕は、生まれ変わっても、自分でありたい。のかもしれない。
そもそも庭が青い方がいいってなんだっ、枯山水を見てみろ。