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シンガポールで感じた僕らのレガシー 【現役高校教員のエッセイ】

高校生に向けたエッセイです。実際に、教室に掲示しています。


 シンガポールに行ってきた。東南アジア、マレー半島の最南端に位置する国であり、その国土は極めて小さい。東京23区ほどの広さである。東京23区の広さと言われてもピンとこないが、とにかく小さい。
 そして、その歴史は極めて浅く、1965年に建国。なんと、シンガポールという国ができてから、わずか58年しか経っていない。ちなみに、日本は紀元前660年に建国らしい(諸説あり)。なんと、2683年もの月日が経っている。日本から見れば、シンガポールなんて短パン小僧じゃないか。
 比較してみると、シンガポールの歴史の浅さがはっきりと分かる。歴史のテスト簡単そう。

 その他の特徴としては、多民族国家であることが挙げられる。アジアの国々からの移民が多く、街中でも様々な言語が飛び交っていた。
 具体的には、英語、中国語、マレー語、ヒンディー語、などなど。そのため、駅の表示や看板には、上記4種類の文字が並んでいた。ただ、残念ながら日本語の表記はなく、上記4種の言語をいずれも扱えない僕は本当に困った。
 そして、面白いことに各移民の方のルーツに合わせたエリア(居住区)も存在した。具体的には「チャイナタウン」「リトルインディア」「アラブストリート」である。それぞれのエリアに足を運んでみた(地下鉄)。
 駅を降りた瞬間、国境を越えたのではないかと錯覚してしまった。建物のデザイン、流れてくる音楽、漂ってくるスパイスの香り、接客の態度、全然違うじゃないか。それらは、強引に僕の五感をグイグイと刺激してきた。どうやら、シンガポールはアジアの全てを詰め込んでしまったらしい。

 あの有名なマーライオン、マリーナベイサンズにも行ってみた。先ほどの東南アジア全部乗せマシマシエリアとは打って変わって、高層ビル群が出現した。もう東京なんて目じゃない。
 3つの高層ビルの上にドでかい船がどーんと乗っかっている。これが、マリーナベイサンズか。ご存知の方も多いのでは?下から見上げると、もはや空中に浮いているようにも見える。宇宙戦艦ヤマトのように。
 それだけではない。周りを見渡すと、これでもか、と言わんばかりに高層ビルが立ち並んでいた。ウルトラマン戦いにくそう。さっきまでの東南アジア感は一体どこへ…。

 おやおや、もしかしたら僕は、大きな勘違いをしていたのかもしれない。彼は短パン小僧ではなかった。若いことに変わりはないが、全身オーダーメイドスーツの新進気鋭お兄さんだったのだ。いや、なんのこっちゃ!

 要するに、シンガポールは、わずか58年でアジアの全てを手中に収め、東京をも超えるスーパー都市国家を完成させてしまったのだ。
 戦後日本の経済成長もすごいと思っていたが、彼らの成長スピードは我々を遥かにしのぐ。高層ビル群に見下ろされながら、感心を通り越して、恐怖にも似た感情で街を歩くことになってしまった。

 そのまま街を歩いていると、あることに気づいた。街がキレイすぎる。都心部はもちろんキレイ。高層ビル群だから。
 特筆すべきは、チャイナ・インディア・アラブ各エリアがキレイだということだ。東南アジアっぽい雰囲気は感じるが、彼ら独特の雑さというか、はっきり言えば汚さを感じない(失礼)。
 ホテルのWi-Fiを用いて調べたところ、その理由がはっきりと分かった。シンガポールは環境や美観に関する罰則が非常に厳しいのだ。

 具体的には、こんな感じ。

・ごみのポイ捨て、罰金約25,000円。
・地下鉄内での飲食、罰金約50,000円。
・横段歩道以外を横断、罰金約5,000円。
・トイレ流し忘れ、罰金約15,000円。
・ガムの持ち込み、罰金約100,000円。

 といったように、かなり厳しい。お口の恋人ことロッテさん、シンガポール進出は絶望的です(僕はキシリトールガム好き)。
 
 いやぁ、それにしても、ちょっと厳しすぎやしないかい。なぜ、こんなに厳しくする必要があるのか。

  僕の個人的見解です。もしかしたら、多種多様な民族をひとつにまとめ上げ、都市国家へと成長を遂げるには、罰則による制限が必要不可欠だったのではないか。
 一口に「地下鉄内での飲食」と言っても、お水をちょろっと飲むのと、
コーラ一気飲みは全然違う。フリスクをパクっと、ハンバーガーをガブっは全然違う。
 「お水とフリスクはいいでしょ、罰則反対!」と正直思ってしまうが、国民全員が似たような感覚を持っていないと、コーラやハンバーガーが地下鉄内を占拠してしまうのだろう。

 このマナーというか、モラルというか、もはや文化とも伝統ともいえる国民の感覚を、なんとか急ピッチで合わせようと模索した結果、この罰則たちに頼るしかなかったのではないか。
 トイレ流し忘れ、ガム持ち込み、なんてその最たるものだ。罰則がないと、流さない人もいたのだろう。ガムを平気で吐き捨てる人もいたのだろう。そんなことされるくらいなら、罰則じゃい!なんか学校にも似てる気が。

 そう考えると、日本は長い時間をかけて独自の文化を築いてきたことが分かる。おかげさまで、地下鉄でガムを嚙むなんて贅沢もできる。
決して、シンガポールが間違っているわけではない。むしろ正解だと思う。


 ただ、日本の長い歴史が育んできた感覚が僕にも備わっていると思うと、少しだけ嬉しかった。


読んでいただき、ありがとうございました。


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