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衝動に身を任せ、この夏にやり残したことを。(高知日帰り旅行記) 2024.10.13

朝4時に目が覚めた。心の中に、高知に行きたい気持ちが積もっていた。一番の宿題はメジカの新子で今年こそ食べようと思っていたが、気づけばシーズンが終わろうとしている。夏に訪れたときも入れなかったお店がある。
調べてみると、朝6時台の電車に乗れば10時頃には高知に着くらしい。10時なら日曜市にも行けるな、と思ってリュックに最低限の荷物と、もしものために一泊分の着替えを詰めて家を出た。日はまだ昇りきっておらず、肌寒い。

衝動的な旅だ。天王寺駅のみどりの窓口で切符を買い、新大阪から新幹線で岡山へ。そこから急行で坂出まで出る。電車の中でホテルの値段と夜行バスの値段を見比べて、今日は日帰りにしようと決めた。坂出に向かう途中、瀬戸内海を電車が走り抜けた。海がきらきらと輝いていて、乗客が皆、海に視線を奪われているのが良い光景だった。

特急しまんとに乗り換えて、そこから2時間ほど乗車をしたら高知に着いた。電車の中ではハン・ガン『菜食主義者』を読んでいた。
高知駅から降り立つと、日差しはまだ夏の成分が多く含まれていた。とりあえず日曜市に行く。土佐久礼に向かう特急が1時間も経たずに出るのであまり長居もできない。
前回は出店していなかったMASACASA TACOSが出店されていたのでタコスを食べる。スペシャルとイリアス(豚ホルモン)の二種類。それと特製のハラペーニョピクルスも購入。このハラペーニョピクルスが結果として今回の旅で一番のお土産になった。

高知の日差しを浴びながらかぶりつくタコスは絶品。タコスには酒じゃなくてコーラが飲みたくなる。ああ美味い。
高知駅に引き返して、中村行の特急に乗って土佐久礼を目指す。カーテンを閉めても日差しが暑くじんわりと汗をかいてくる。隣の席には強面のお兄さんが座っていて落ち着かなかった。
12時半頃に土佐久礼で下車。早足で久礼大正町市場を目指す。というのも目当てにしているメジカの新子は足が早い上に、完全にシーズンは過ぎているので数も見込めない、それに三連休中日ということで客足も多いだろう。
予想通り、久礼大正町市場はすごい活気だった。メジカの新子を出しているのは、市場の中でもメジカ横丁と言われる一角の小屋だ。船の名前ごとに小屋があって、そこでメジカの新子が提供されるのだ。

しかも注文をうけてから一匹ずつ捌くので提供までに時間がかかる。最初に並んでいた小屋は途中で売り切れ、別の列に並んだ。食べられなかったらどうしようという不安で落ち着かない。目の前の団体が大量の注文を入れてさらに焦る。結局1時間並んで自分の番がやってきた。よかった、食べられる。メジカの新子を二匹分捌いていただく。これで1200円。お母さんたちが慣れた手つきで三枚におろしていく。最後にぶしゅかんの皮を削ってタレをかけ、そこにぶしゅかんを添えて提供される。

ビールを買っていざ食べると、モチモチとした食感がかつて食べたことのない味わいで本当に土佐久礼まで来て食べることができて良かったと感動した。丁寧に血合いも除かれていてまったく癖もない。二匹のメジカはあっという間になくなってしまった。
食べ終わると13:40頃だった。次の電車が14:00過ぎにあって、そこを逃すと次は16時台の電車になってしまう。土佐久礼をもう少し見て回るか、高知市に戻るかを悩んで、おそらく16時台の電車は混雑する上に市場もほとんど閉まるだろうと見越して惜しいが高知市に戻る決断をした。

15時過ぎに高知駅に戻り、やり残していた自分のZINEに駅スタンプを押すという目標を達成。これからこの本にどんどん高知のスタンプを押していきたいな。
それから高知駅にはおそらく戻らないと踏んで、リュックに入る量だけの土産を買って、それからは市内を散策。残念ながらいつも日本酒を買う安岡酒店Bluesは定休日。他の酒屋を覗くが目ぼしい日本酒はなく、今回は酒を買うのを諦めた。
金高堂で本を買う。朴沙羅『ヘルシンキ 生活の練習はつづく』と、村上春樹『遠い太鼓』を買ってオリジナルのカバーをかけてもらう。金高堂で本を買うのも恒例だ。
なんだかんだで17時になったので飲みに行く。まずは「四万十」へ。ここの刺身はいつも品揃えがユニークで面白い。残念ながらカツオの仕入れはなかったが、大将おすすめのハマチを食べる。それから南蛮漬けと、初物のギンナンを食べて、瓶ビールを2本飲んだ。初物のギンナンがかなり秋の味がした。

前回もそうだったが、四万十でビールを飲んでしまって腹が膨れてしまった。反省が生きていない。しばらく商店街を歩いて、大丸近くの「純酒場 ナブラ」へ。前回は予約でいっぱいで入れなかったが、今日は入ることができた。

ナブラさんは新進気鋭の酒場で、高知の地の柑橘類を使ったキンミヤハイボールが飲めるのが魅力的なのだ。今日は仏手柑から始めて直七チューハイへ。突き出しが四方竹の煮物で嬉しい。ここ数日急に四方竹の入荷が始まったらしい。先ほど食べられなかったカツオの刺身もおすすめということで注文すると、分厚く食べ応えのある味のしっかり詰まった良いカツオを食べさせて頂いた。

常連という年配の女性とお話をしながら飲む。その方がメヒカリの天ぷらをお裾分けしてくださったので、僕も四万十川のすじのりの天ぷらを分けてお渡しした。すじのりの天ぷらは、海苔なのでパリパリを想像していたが、川海苔はねっとりとした餅のような食感で驚いた。それでいて海苔の風味が強い。

ナブラさんでだいぶお腹いっぱいになってしまった。しかしまだ20時台。バスまではまだ3時間以上ある。意を決して、腹ごなしがてら歩くことに決める。徒歩30分離れた先にある「スナック屋台おふくろ」を目指す。
「スナック屋台おふくろ」は11月末で閉店が決まっている。おそらく訪問できるのも最後になるだろう。なので絶対に行っておきたかった。
この人気のない、暗い道を歩くのも最後かもしれないと思うと寂しい。途中、公園の公衆トイレを借りてからお店に伺う。おふくろの灯はともっていた。

最後かもしれないからたくさん食べようという気持ちもあったが、腹が膨れてしまっている。いつも食べていたラーメンとハイボールで最後を迎えることとする。
女将さんが慣れた手つきでラーメンを作ってくださっているのを、サントリーオールドで作られたハイボールを飲みながら眺める。この優しい味のラーメンが食べられるのも最後かと思うとしんみりとした気持ちになる。夢中ですすった。
テレビでは歌番組が流れていて、スガシカオのProgressが流れた。本当のプロフェッショナルがここにいる、と思うとぐっと込み上げてくるものがあった。
この場所に別れを告げるのが寂しくて、ハイボールをもう一杯だけ飲んでからあとにした。ごちそうさまでした。ありがとうございます。女将さん、どうかお元気で。

30分ほど歩いて市内に戻った。バスまであと1時間。だいぶ酔ってしまったがまだあと一軒いける。「とさ」と迷ったが、まだ日本酒をしっかりと飲めていなかったので「凪」を覗くと23時ラストオーダーということで入れて頂けた。
本当は料理をたくさん食べたかったけれど、もう入らないのが申し訳ない。突き出しの筑前煮(これがめちゃくちゃ美味いのだ)をアテに、文佳人と亀泉の秋あがりを飲ませて頂いた。秋酒を飲むという目当ても達成できてよかった。

もう一杯行きたかったが、さすがに酔いの周りが限界だ。お会計をさせてもらうと、「去年、阪神が日本一になったときに泣いていた大阪の方ですよね?白央さんのお友達の」と声をかけてくださった。てっきり僕のことは覚えてないだろうと思っていたのでびっくり。また来ますと約束をして凪さんをあとにした。
酔い覚ましにコンビニでアイスクリンを買ってから23:15はりまや橋発のバスに乗った。疲れていたのか、リクライニングをするとすぐに眠りに落ちてしまった。

今回もありがとう高知。また来ます。

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