台風が来ると思い出す話②
※LGBTについて若干触れているかもしれない部分があります。
クラス替えは、案の定シロちゃんと離れてしまった。マヤちゃんとは、また同じだった。
幸いにも、部活の友達がたくさん同じクラスにいたので安堵した。もう、1人ぼっちになることはない。
そこで初めて、自分が思いの外寂しかったことに気がついた。
「かな、お昼一緒に食べよっ」
2グループから同時に誘われ、私は何が何だか分からないまま適当な席についた、つこうとした。
マヤちゃんが私の腕をきゅっと掴んだ。
「ごめんね、私達食堂で食べてるから」
私は小さくえっ、と声を漏らした。
クラス替えのタイミングでシロちゃんと会った時
「今日からは私、教室で食べるね。初日はクラスで食べる子が多いと思うし、一緒に購買にパン買いに行かない?」と誘われて、パンを買っているマヤちゃんを見ていたからだ。
「そうなの?パン買って来てみんなで食べようよ〜」
「かなは行かないよね?」
クラスの女子の視線が集まる。
ここで食堂に行ったらまた1人になるかも…
「マヤちゃん。みんなと一緒に食べない?」
努めて笑顔で話したつもりだったけど、マヤちゃんは「もういい」と教室を出て行ってしまった。
「何あれ」「感じ悪っ」
周りの声が聞こえないふりをして、味のしないお弁当を口にした。
そこからのマヤちゃんは、様子がおかしくなる一方だった。
毎休み時間話しかけてくれたのは嬉しい。
でも、それは明らかに前までのマヤちゃんとは違っていた。
移動教室は誰よりも早く私を連れ出そうとするし、私が前の席のクラスメイトと話していると睨んできたこともあった。2人で話している時に別の子が話しかけてくると、まるっきし無視をして喧嘩になりそうなこともあった。そういう時、マヤちゃんはいつも下を向いて、わなわなと唇と拳を震わせていた。
大体、マヤちゃんの機嫌は毎休み時間にリセットされていたのだが、ある台風の日、放課後まで一歩も動かなかった時があった。
最初の数回の休み時間は、正直マヤちゃんが話しかけてこなかったことにホッとした。理由もなく友達のことを無視されることも、友達にマヤちゃんのことを悪く言われるのも嫌だった。
2時間目の終わりの休み時間、流石にマヤちゃんが怒っているのが分かったので、恐る恐る話しかける。
「マヤちゃん、今日は体調悪い?保健室行く?」
「楽しそうでいいね」
「………」
「今日、放課後ちょっと残れる?」
そう言って、その日は一日中口をきいてくれなかった。
放課後はテスト期間だったこともあって、みんなあっという間にいなくなった。雨の音と風の音が耳につく。
「私、かなちゃんの友達全員嫌い。なんで2人じゃダメなの?」
突然肩を掴まれた。マヤちゃんの汗ばんだ手のひらの熱が痛いほどに伝わった。
「去年もシロちゃんがいたし、2人じゃなくても私は他の人とも話したい」
「シロちゃんはかなちゃんのことは好きだけど、私のことは好きじゃないよ。私と話す時とかなちゃんと話す時、態度が全然違うもん」
「そんなことないよ、、!」
そう言いながら、なんとなくそうかもと思ってしまう自分がいた。シロちゃんが私たちとクラスが離れた時、少し嬉しそうにしていたことには私も気がついていた。シロちゃんも私みたいな気持ちになった日があったのだろうか。
「かなちゃんのことが好きなの…!」
突然抱きしめられた。
同じ女の子のはずで、同い年のクラスメイトのはずなのにびくともしない力強さに恐怖が勝つ。
中学校のトラウマもぶり返して頭が真っ白になった。
「もう嫌!!!!!!!!!!」
必死の力でマヤちゃんを突き飛ばす。
「ごめん。ごめん、…ごめん。去年、助けてくれて本当に嬉しかったし、仲良くしたくないとかそういうんじゃないけど、同じ気持ちをマヤちゃんには返せない」
マヤちゃんは目を見開いて、何か独り言を言いながら教室を出て行った。
翌日から、マヤちゃんは学校に来なくなった。
多分、私のせいだと思う。
しばらくして、マヤちゃんは退学した。
怒られてもいいからと、担任にマヤちゃんについて聞いてみると、少し困ったような顔をされて
「あの子のことは忘れなさい」と言われた。
当時のクラスメイトも母親も「何もかなみについて言及されなかったのであればそこまで罪悪感を持たなくてもいいと思う」と慰めてくれたけど、マヤちゃんには誰がどう声をかけられているのだろうと思った。