ターミナル相関(terminal correlation)と瞬間相関(instantaneous correlation)
デリバティブ取引の中には原資産間の相関関係を考慮してプライシングしたい商品が存在します:
これらの商品をプライシングする際に、原資産間の相関が価格に影響しそうですが、本稿では瞬間相関(instantaneous correlation)とターミナル相関(terminal correlation)を取り上げて、オプションのプライシングではターミナル相関が重要であるということを見ていこうと思います。また、瞬間相関とターミナル相関は結構違う値を取りえるということを数値実験で見てみようと思います。
満期における分布が重要
相関を考える前に、1資産のヨーロピアンオプションを題材に、オプションプライシングにおいては、満期時点の分布が重要であることを確認したいと思います。
ここでは原資産価格$${x}$$、満期$${T}$$のヨーロピアンオプションに関して、満期$${T}$$における原資産価格$${x(T)}$$をどのように算出するかを考えます。
原資産価格$${x}$$は対数正規分布に従う以下の確率微分方程式で記述することにします。
$$
\dfrac{dx(t)}{x(t)} = \mu (t) dt + \sigma (t) dW(t)
$$
$${\log x(t)}$$に伊藤の公式を適用すると、
$$
d \log x(t) = \left( \mu(t) + \dfrac{1}{2} \sigma^2(t) \right) dt + \sigma(t) dW(t)
$$
従って以下を得ます。
$$
x(T) = x(t) \exp \left( \int_{t}^{T} \left( \mu(u) - \dfrac{1}{2} \sigma^2(u) \right) du + \int_{t}^{T} \sigma(u) dW(u) \right)
$$
さて、以下では満期時点での分布が重要であるということを概念的にみるために、$${x(T)}$$をモンテカルロシミュレーションすることを考えます。Expの中の第一項はただの数値積分なので問題なく計算できますが、第二項に確率積分があるためこのままではシミュレーションできませんので、伊藤積分の性質を使って書き換えることを考えます。
伊藤積分は平均が0、分散が被積分関数の二乗の期待値を時間積分したもの、の正規分布に従うことが知られています(伊藤積分の性質に関しては別途勉強したいと思いますの今のところは文末に参考文献を載せておきます)。特に、被積分関数が上記例のように確定的である場合、期待値は外れます。
$$
\int_{t}^{T} \sigma(u) dW(u) \sim {\cal N}\left( 0, \int_{t}^{T} \sigma^2(u) du \right)
$$
ここで、
$$
\bar{\sigma}^2 (T-t) := \int_{t}^{T} \sigma^2(u) du
$$
と定義すると、$${x(T)}$$は標準正規分布に従う乱数$${Z}$$を用いて、以下のように書くことができ、モンテカルロシミュレーションできる形にすることができました。
$$
x(T) = x(t) \exp \left( \int_{t}^{T} \left( \mu(u) - \dfrac{1}{2} \sigma^2(u) \right) du + \bar{\sigma} \sqrt{T - t} Z \right)
$$
ここで、標準正規分布に従う乱数$${Z}$$は一組でよく、expの中の第二項は満期における分布を表現するため、$${x(T)}$$の価格は、満期$${T}$$における分布が重要であることが分かるかと思います。もちろん、$${x(t)}$$を最初に与えた確率微分方程式に従って時間発展させても$${x(T)}$$を得ることはできますが、オプションプライシングにおいては、$${x(T)}$$が得られれば良いので、時刻$${t}$$から時刻$${T}$$の間の時刻$${u}$$に対する$${x(u)}$$の値・分布が分かる必要は必ずしもなく、$${x(T)}$$の分布のみでオプション価格が決まるという点が重要です。
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?