M山木の*怪盗(3)
(註)本文に登場する地名、人名、団体は実在のものとは一切関係ありません。
M山木は度重なる飢饉の影響で人の往来も疎らになっていた。
張形警部はア怪の予告状に今更ながら面食らっていた。是迄に無い新展開。どうにも納得出来かねる自分がいる。一体全体どういう風の吹き回しなのか。模倣犯だろうか。それともア怪なりの営業活動だろうか。
張形警部が考え事をしていると目の前で鈴の音色がちりんとなった。
視界の前には深く制帽を被った郵便配達員が一人。自転車から降りると郵便配達員は封書を手にして近寄ってくる。張形警部宛の電報です。
封書を渡すとちりんと鈴の音を鳴らして郵便配達員は立ち去っていった。
封書を開くと例の如く草書体が現れた。
水栓後髪の滴を渇きたる
全身探り拭き取りながら *拝
「判ったぞ」一瞬の間を置いて張形警部が口を開いた。
「水栓というのは、showerのことだ」
張形警部の閃きは止まることを知らない。
「其れは一体どういうご了見で有りますかな」
穴掘警部は下手に出ることにした。
「showerのあとの髪のしずくを」まだ分からないのかね、と張形警部。
「なるほど、風呂場で男子学生の全身を弄るということだな」
勿体ぶらないで核心から言えよ此の分からず屋。
穴掘警部の心の声がいまにも聞こえてきそうだ。
張形警部は物凄く嫌そうな顔をした。
「いや自分が言いたいのは、乾いたtowelで拭き取りながら…」
穴掘警部には真意が伝わらない。
「だからメッセージは何の意図があるというのだい」
サビだよサビ。束の間の静寂が訪れた。
「わびさびの事か」穴掘警部が独りごちる。
「ah ah ah」静けさのなかで張形警部の悲鳴は際立った。助けを求めているんだ。張形警部は焦り出す。
「急がないと男子学生が毒牙に掛かってしまう」
いや待てよ。張形警部は落ち着きを取り戻す。
「あの郵便配達員」制帽で隠しきれないところに印象的なほくろがあった。
「彼奴、自分の名前を」声が違う、年が違う、夢が違う、ほくろが違う。
張形警部は口走らずにはいられない。
あの印象的なほくろは以前見たことがある。ア怪ではあるまいか。
郵便配達員の姿はとっくに消えていた。
「馬鹿にしないでよ」張形警部は悪態をついた。