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ワタクシ流☆絵解き館その238 フェルメール「水差しを持つ女」


ヨハネス・フェルメール「水差しを持つ女」1664~65年頃  メトロポリタン美術館蔵

🔳 ひかりを導き入れる行為、それを描いた絵である

道具立てはさまざまにあり、そこに何かの寓意が込められていることは確かであろうと見なした上で、この絵からもっとも率直に、シンプルに感じ取れるのは、スイング窓を開き、日差しを自ら部屋内に誘い込んで、その日差しを浴びた女の心に芽生えている思いを描いたということであろう。
その視点でこの絵を解釈したい。
たとえば、この部屋の外側の風景を想像する上で手助けになるのが、下の図版に挙げたフォスマールの絵であろう。

フォスマール Daniel Vosmaer (1622-1669) の描いたデルフトの町 ( 部分 )

また、「水差しを持つ女」より、もう少し外の風景が見えていて、想像のよすがになるのは、ヤン・ステーンの下の図版 ( 部分 ) である。

ヤン・ステーン Jan Steen  ( 1629-1679 ) の室内風俗画 部分

🔳 女は、開いた窓の外から聞こえる音に心をつかまれている

女にとって今日はひとつの決心を告げにゆく、その期限の日である。
外出前の時間、宝石函から真珠を取り出してみたものの、それで装う気にはなれなかった。
手指や足先を清める用の水盤に、水を溜めようと水差しを持つ。左手を使っていることに眼を止めなければならないだろう。一般的に言って、利き手ではない方の手を使っている。そこに、もどかしさ、頼りなさを暗示しているはずだ。女の決心は、過去を引きずっていて重い。

ふとそのとき窓の外にかすかに、鳥のさえずりを聞いた。そのさえずりをもっと聞きたい。女は水差しは離さないまま、少しだけ開けていたスイング窓に右手を掛けた。
さえずりは、音を増して耳に届く。それは天の啓示と言うべき声なのか。同時に、部屋の中に、一段と豊かな日差しが、さあっと入り込む。女の被るフードにひときわ強い日差しが入り込んで、影の窪みが生まれている。
女は目を細め「ああ」と吐息をこぼす。
( やはり、私の決心は間違っている )
女の心に、水面に風を乗せて下る、一条の流れが生まれていた。
                
                令和5年8月   瀬戸風   凪
                                                                                        setokaze nagi 

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