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星空との約束(エランビタール)

国道309号線沿いの、オレンジ色の、古びた角の取れた看板のガソリンスタンドを東に入って、そこから約15分くらい車でガタガタと揺れながら走らせた遠い町のはずれに、辺りがシンと静まりかえる真夜中にはキラキラと星空が美しく広がり、鈴虫の声と清流の流れる美しい音色が交差する、心が洗われるような場所があり、そこには、ぽつんと佇む古びた喫茶店があり、さらさらとした丘の上に位置していることもあって、非常に入りやすく見え、足取りが軽やかに感じられるような風景だ。

そこでは、はるか遠い昔に置き忘れてきた、心温まる夢がいっぱいの談話が盛んに聞こえてくる。


温かい店内の蛍光灯が窓の外からも頻繁に見え隠れし、さまざまな人々が笑顔でその店を訪れる。

マスターやその日に出会うすべての偶然を、まるで以前から知っていたかのように、時には長い間待ちわびていたかのように振る舞う風景は、このカフェ・ミームの出会いのメニューの多さと多様性の暖かさを物語っている。


「ここでは、世の中の働く人たちが、ほんの少しでも楽になれば、それでいいんだよ。」


そう語るのは、古びた喫茶店”カフェ・ミーム”の店主、佐藤匠馬(しょうま)だ。

彼はかつて、大企業の人事部長として長年働いていた。


しかし、昨今の”絆や誇り”を感じることのなくなった労働環境に疑問を抱き、自分の理想とするコミュニケーションの場を作るために、この喫茶店を始めたのだ。


そのため、この”カフェ・ミーム”には、一風変わった常連客が集まっていた。


例えば、田中直樹(なおき)はIT企業のエンジニア。


普段は画面と向き合い、無言でキーボードを叩く日々を送っているが、週末には必ず”カフェ・ミーム”に足を運び、マスターの佐藤と短い会話を交わすことを楽しみにしていた。


「今日はどんなだった?」と佐藤が尋ねると、田中は微笑んで答える。


「まぁ、いつもと変わらず。でも、ここに来るとホッとするんですよ。」


一方、羽鳥玲子(れいこ)は大手広告代理店の営業部に勤めていた。


華やかな職場とは裏腹に、玲子は厳しい競争の中で疲れ果てていた。


彼女もまた、”カフェ・ミーム”でのひとときに救われていたのだ。


「マスター、いつもありがとう。ここに来ると、なんだか元気が出るんです。」


佐藤は笑顔で「それは良かった」と返し、玲子のために特製のハーブティーを淹れた。


そんなある日、見覚えのない新しい客が”カフェ・ミーム”にやってきた。

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Photo by Maria Orlova on Pexels.com[/caption]

彼の名前は国富健太(けんた)、大手ファッション業界の注目のデザイナーだ。


彼は約半年後に行われる国際ファッションのコンペティションへ出場の為の、最新のデザインの制作の為に日々のプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。


「ここ、いい感じですね。初めて来たんですが、居心地がいいです。」と健太が言うと、佐藤はにっこりと笑った。


「そう言ってもらえると嬉しいです。何か飲み物は?」


「コーヒー、ブラックでお願いします。」


「いや、ていいますか、実は、僕は、マスターの例の最新のブレンドを飲みたくて、来ました。」


健太は続けて、


「巷の噂で聞いていたのですが、何でも”夢が叶う”マスターの
最新ブレンド”エランビタール”を、探して、探して、やっとここに辿り着いたんです。」


「それに例の条件も、前もって、ちゃんとクリアーしてきましたので、よろしくお願いします。」


すると、マスターは、少々、わざとらしい表情を作って、断ろうといったんはしたのだが、”例の条件”の”星空との約束”を健太につっこまれることになったので、仕方なく、


「今は、新しいブレンドの創作をしているところなので、3週間後にもう一度いらっしゃい。その時に、新しいブレンドの”エランビタール”を、お出ししますので、今回は、普通の注文通りのブラックでいいですか?」


という、いつもの新参者へのわざとらしい、少々冷淡な接客のはずであったが・・・


「今飲めないならもういいや!」という声の中に、時たま、このおとぎ話を馬鹿正直に、楽しみにしてくる人もたまにはいるように、その日から、デザイナー健太も何故かカフェ・ミームの特有の何か”ねっとりした常連”となっていた。


当分の間、お目当てのブレンドにありつけなくても、その日から実は健太も、毎日、カフェに訪れるようになり、彼は次第に、他の常連客とも打ち解け、仕事の悩みや愚痴を共有するようになっていたのだ。


ある日、健太は、玲子にデザインのアドバイスを求められた。


新しいプロジェクトのために斬新なアイデアを探していた玲子は、正直なところ、行き詰まっていた。

「健ちゃん、ちょっと相談に乗ってもらえますか?」


健太は快く応じ、二人はカフェの片隅で頭を突き合わせた。


その光景を見ていた佐藤は、微笑みながらコーヒーを淹れ続けた。

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Photo by Andrea Piacquadio on Pexels.com[/caption]

「人と人とのつながりって、ほんの些細なことから始まって、時には、気がつくととんでもない面白いことや、世間を楽しく騒がせることに繋がるんだよな。」


逆に、そのような人と人のリアルな繋がりが、奇跡を起こすことを信じない奴には、決して奇跡は起こせないというのが、佐藤の”いつもの実感”だった。



佐藤は、自分が目指していたものが少しずつ形になっていることを感じていた。


すると、もう長いこと常連なのに、なかなか運悪く”エランビタール”にお目にかかったことのなかった、エンジニアの田中が、不安そうな表情で、何かおびえたようにも見える瞳で、佐藤に話しかけるのであった。


「ほっ本当に、あの”エランビタール”を、今回は僕にも味合わせてくれるんでしょうね?」

「ああー」

「本当ですよね?マスター」

「本当ですよ、本当だって 笑」

普段はあの堅物のエンジニアでさえ、子供におもちゃを与える時のような表情を見せるのは、佐藤にとっても決して悪い気はしない。


「夢みたいだー」

と、そのさっきまで不安でおびえた瞳で、不安を体いっぱいにまとっていた田中が、徐々に表情を変え始めた。

さっきまでおもちゃをねだる子供のようだった彼が、今ではお腹をすかせた子犬が久しぶりに大好きなジャーキーを目の前にしたときのような、ガツガツとした様相を見せてきた。


すると、佐藤は、デザイナーの田中にゆっくりと、静かな口調で語りかけながら、もうすぐ、その時を告げるであろう”夜空の星”を確認するかのように、窓の外をのぞき込んだ。


「この店は、単なる喫茶店ではなく、皆が互いに支え合い、励まし合う場となってほしいと思っている。」



「そして、それが、本当に不思議なくらいの奇跡を起こすこともあるんだよ。」


「1人1人の真剣な繋がりは、誰と繋がるかだけではなく、どのように繋がるかが重要なんだ。」


「もちろん友達の多さや、頻度なんかも関係ない。」


「人脈という名の商品にも、生ゆるい惰性に満ちた、妥協に繋がる友人にも」

実は、佐藤は、人事の仕事をしているときに、あるプロジェクトを巡って、当時のマーケティングプロデューサーと取締役の間の仲介に入って、大変な思いをしたことがあった。

当時のマーケティングプロデューサーが、長年、暖めて計画してきた新商品のプロモーションを担当させるはずであった若い才能のあるクリエイターが、当時、取締役の、実績も信用も全く無い、古くからの友人の息子に、交代させるという事件が起きたのだ。

その結果、マーケティングプロデューサーは、辞表を出すことを決意して、その才能ある若いクリエイターと一緒に、佐藤の所に相談をしにきたということだ。

そこで、そのマーケティングプロデューサーは、自らの辞表を提出し、その代わりに、若いクリエイターの将来を佐藤に託すように願い出た。

結局、そのプロモーションは、取締役の友人の息子が主軸となったのであるが、やはり上手くいかずに途中分解してしまう。

そして、なんとその失敗の原因を、佐藤とその若いクリエイターのせいにして、彼らを会社から事実上追放してしまったのだ。


そのようなつらい過去が、佐藤の今のカフェ・ミームへの思いの強さに繋がっているのである。

そして、現在は、そのマーケティングプロデューサーは、独自のマーケティング活動にいそしみ、彼の世界観を世界中に広めることになり、たまに、佐藤もこの仕事を興味本位で手伝ったりしていた。

そんな時に、佐藤は、このカフェ・ミームの仕事を考案したのだ。

そして、現在でも、佐藤やここのメンバーがピンチになったり、何かの大きなプロジェクトがあると、ニューヨークのマンハッタンから、”佐藤のブレンド”を味わいに大きな荷物(ギター)を背負って帰ってくるのだ。


そして、いつのもやりとりが始まり、

「そらそうと、あのガソリンスタンドの看板がボロボロすぎて、速く直さないと、永久にこの”田舎くさいブレンド”が飲めなくなるから、速く直した方がいいよ。」

「そんなこと、俺に言うなよ!ガソリンスタンドに言えよ!」

「ってか、いい加減この場所覚えろよ! 前澤」

そして、最後は決まって、このログハウス系のおっとりとした雰囲気の店に、ハードロックの王様”マイケルシェンカー”のギターをわざわざ響かせるのだが、何故か、いくら佐藤のイメージには合わなくても、鈴虫や清流の交差する音色は、久しぶりの友とも語らいを待っていたかのように、いつもよりもまして、その時は決まって盛り上がるのだ。



「本当に、心の底から相手を思いやり、皆が、誰かの為に、何かの為に役立てれるように思える繋がりや、そのための触れあいを私は、大切にしたい。」


「だから、人とのコミュニティーは、消費してはいけないと思うんだ。」


「漁るようにできた人の繋がりなんて、うわべだけの優しさにくるまれることなんて、俺はごめんだ。」


少しずつマスターの声が大きくなるにつれて、知らず知らずのうちにマスターのテーブルの前には、”マスターの奇跡”が今か今かと始まるのを待ちわびる常連客が集まってきた。


この”マスターの奇跡”の瞬間を感じる為に、その偶然を見逃さないように、周りに集まってきた常連客は、その偶然を必死で探すかのような表情でじっとまっている。


しかしながら、これらの偶然は、実は単なる偶然だけではなかったようで、それは、ここに来た人しか知ることができないある秘密があるということだ。


それが、どうやらこのカフェの最大の”不思議”であり、”運命を超えた大きな力”の体感できる瞬間、正に”エランビタール”の瞬間であった。


それが、さっきから我々の意識をちらちら引き込む”星空との約束”にヒントがあるということである。


このカフェ・ミームには、実は、重要な”星空との約束”が存在していて、それを守ることで、”エランビタール”を感じることができるということであった。


そして、もし、その”星空との約束”が守られないと、この奇跡の瞬間に出会うことができないということでもある。


それが証拠に、


事実、田中直樹などは、当初、自分の仲の良い親友と3人で一緒に、この”カフェ・ミーム”にやって来て、皆と仲良くやっていた時があったのだが、たまたま、その中の1人が、田中が新しいアイデアを出したときに、その道のスペシャリストがここの常連だったことで、田中の友達に対して、ビジネスの話で厳しい意見を正直に言ったそうだ。


それに気を悪くした、田中の友達は、そのことをこの店に関係ない人に話してしまったことが、不運な出来事の始まりらしい。



このカフェでの不思議な噂話を他人に気軽に話してしまい、さらに他の常連客の話までしてしまったのであった。

それからしばらくの間、田中を含めた3人は、このカフェに何度も行こうとしても辿り着けなかったそうだ。


実は、この”星空との約束”には、秘密厳守についての約束事があったのである。


そのことを、田中も、その友達も知っていながら、少しの魔が差したのか、気が緩んだのか、半分冗談だと思っていたのだろう。


自分の意見をわがままに通し、正直になれなかった結果が・・・・


いくら、このカフェの看板を探しても、このカフェの近くにあるガソリンスタンドの古びたオレンジの看板を探そうにも見当たらないことが続いたということらしい。


そして、いつも、気づけば国道309号線の入り口付近にいる自分に気づくのだそうだ。


そんなことが続き、田中直樹の友達2人は諦めたのだが、田中だけが、どうしても、”エランビタール”の存在を知りたいが為に、そして、自分たちの起こした問題に真摯に向き合いながら、決して諦めたくはなかった。


その話をマスターにするたびに、皆が疲れてぼんやりしていたのではないかと、そのようなときには事故に遭わないように家に帰って、少しでも早く休むようにと、微妙な笑みを浮かべて話すだけで、それ以上のことは話そうとしなかった。


田中にとって、時には生きる意味を見失いそうになることもあるが、そのような時に彼を引き寄せるのがこのカフェの暖かさであり、不思議な魅力である。

そして、その答えがマスターの新しいブレンドにあり、彼にとって初めての経験となるその一杯が、彼の求める光だと信じているのだ。


それでは、カフェ・ミームのマスターの佐藤が密かに守っていて、そこにくる常連客に対する約束事とは、秘密厳守以外に、いったいどんな約束だったのか?


それは、この「カフェ・ミーム」にくる常連客同士のコミュニケーションが上手くいくための「進化の法則」のようなものだった。


佐藤はこの法則をカフェの暗黙の了解として常連客に共有していたのである。

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MEME49の源泉[/caption]

その約束とは、次のようなものだった。

「星空との約束」

  1. 現在何に対して興味を持ち、何に向かって進化しているのかを表明すること。

  2. 全ての人の進化に尊厳を持ち、全ての成功を皆で共有共感すること。

  3. 身分や繋がりがどのようなものでも、嘘偽りや差別があってはいけないということ。

  4. この中で交わされた秘密は守り、良いことや利益は必ず等分すること。

  5. 星空が綺麗に見える夜の時間、9時から12時の間に飲むこと。

  6. マスターの新作を必ず1度はオーダーすること。



実は、この”星空との約束”を守ったご褒美として、この最新のマスターのブレンドだけは、1度だけ、最初に味わった瞬間から、3日間だけは、その時の自分と、その時にあなたが触れることができる人全ての心の奥底を同時に覗くことができる不思議な体験ができるのである。


そのために、ここに来る客の胸の周りには、車のハンドルのような輪の陰を皆が持ち、それぞれの気持ちが、その輪の中で鏡のように映し出されるのである。


だから、ここの常連客は、このマスターの最新のブレンドを味わいたくてここにくるのであるが、実は、この心を覗くことができる不思議な鏡も皆が望んでいるのである。


佐藤はこの法則を、自然にカフェ・ミームの空気の中に溶け込ませるようにしていた。


そして、常連客たちは、いつの間にかこの法則を守り、お互いに支え合うようになっていった。


そして、ちょうど最新のブレンドの発表までの5日前になり、マスターも準備をしながら当日の天気を気にしていると、玲子が突然やってきて、忙しそうにしているマスターのエプロンの後ろをつまんで、次のように言った。


「マスター、今飲ませてくれる?」


「玲子さん、今なら、自分だけでなく誰の気持ちも見えないよ。」


すると、「そんなことなど、わかっているわ」というような表情を見せながら、


「でもいいの、私が知りたいのは、私自身の気持ちだけで、マスターのブレンドを飲む前から、私の気持ちはもうわかっているから。」


それでもマスターは、「せっかくのエランビタールがもったいないよ!」とでも言いたげな表情をしていると、


「私が、自分の進化をしたいという気持ちと、自信と勇気を大切にしたいだけなの。」


「他の人の本当の気持ちなんて、私は知らない方が、私には向いているかもしれないわ。」


「だって、怖いし、知ったところでしょうがないじゃない。」


マスターの持つグラスに移る店内の表情が、ぴくりともせずにいる一方で、当初の驚きから何かを悟ったかのように、より暖かな、優しいまなざしで玲子を見つめながら、小さい呼吸をゆっくりしているマスターに向かって玲子は続ける。


「ただ、この店のように、皆の為に、色々なことのために、頑張ることの方が性に合っているの。」


「イヤなら、その人は私の前に近づかないし、私は、何も気にせずに、皆に近づけるから。」


ここまで聞くと、さすがのマスターも、玲子の次の言葉を自分が代わりにいってしまいそうになるが、それでも玲子の自信と勇気の前に少々気後れしてしまうくらい立派に玲子は続けた。


「そして、勇気と自信は、この店のマスターや、田中ちゃん、健ちゃんにもらったしね。」


実は、いつも、思いの外かなりの衝撃を感じて、そのブレンドを味わうことになるのは、実はマスターだったのである。


次の日、田中は、新しいSNSのコンテンツを作り上げて、そして、その試作品を持ってマスターの店に来たのである。


それを聞いた玲子は感心し、「田中ちゃん、すごいね。私も何か新しいことに挑戦してみようかな」と言った。


「玲子さんも、きっと素晴らしいアイデアが出てくると思いますよ。」


「お互いに、励まし合いましょう」と田中は笑顔で応えた。


その次の日、玲子は、以前に健太から教わったデザインの技術を取り入れ、プロジェクトに新しい風を吹き込んだ。


その成果は上司にも高く評価され、彼女は更なる自信を得たのであった。


ここで起こったことはもちろん、このカフェの秘密も玲子も、人一倍気を遣っている様子で、同棲している彼氏にも、少々変な勘ぐりを入れられることもしばしばらしいが、そんなこと全く気にもせずに、いつもの玲子であった。


「健ちゃん、あなたのアドバイスが本当に役立ちました。ありがとう。」


すると健太は照れくさそうに笑った。


「いや、玲子さんの努力の結果ですよ。でも、僕も刺激を受けました。お互いに進化していきましょう。」


「カフェ・ミーム」の常連客たちは、互いに進化し続けることで、日々の生活や仕事に新たなエネルギーを得ていた。


そのために、実は、常連客のほとんどが、マスターのブレンドの”星空との約束”の日になるまでに、既に、”星空との約束”を済ましていたのである。


彼らは佐藤の”進化の法則”の”新しいブレンド”を自然に受け入れ、前もって勝手にそれを楽しむようになっていた。


彼らの”エランビタール”は、もう既に、彼らの体の中に生まれていたのである。


”星空との約束”の日を迎えるまでに、ほとんどの常連客が、自分自身の”エランビタール”を探し出し、自分で作り上げていたのである。



それから数日後、佐藤は次の新しいメニューを考案していた。


彼は常連客たちの話を聞いていると、自分もまた何か新しいことに挑戦しようと決意していたのである。


「僕も負けていられないな」

と呟きながら、毎日新しいコーヒーブレンドの試作に取り組んでいた。


その日、少し遅れて田中がカフェにやってきた。


「マスター、新しいコーヒーの香りがしますね。」


佐藤は微笑んで答えた。

「そうなんだ。今度の新しいブレンドの試作品を試してみたんだ。君も一杯どう?」


いつものルーティーンのように、田中は興味津々で、香りに体全体が引き寄せられるように、コーヒーを受け取った。


「今回も本当に楽しみです。」


田中がコーヒーに顔を近づけると、その豊かな味わいに驚いた。


もちろん今回も、いつもの”エランビタール”を感じることもないのだが、それでも、”エランビタール”よりも、このマスターのブレンドを心から楽しめるようになってきたのである。


今までと予想していた物とは少し違った、甘みと、酸味のバランスが非常に良く、あたかも、様々な角度から、様々な思考を持って表現される人の気持ちを、冷静にその環境や状況を判断して、その相手の本当の心の奥底にある深い気持ちをとらえるような・・・・


そんな感覚を覚えることができるような、味に仕上がっていた。



「マスター、これ本当に美味しいです。こんなに豊かな味わいは初めてです。」


佐藤は少し照れながら、何度も首を縦に振って、普段なかなか見せないような満面の笑みを浮かべた。


「ありがとう。君たちのおかげで僕もまた、進化できたよ。」


数日が経って、新しいブレンドができて、常連客の玲子や健太もこの新しいブレンドを試してみた。


そして、それぞれが驚きと感動を隠せなかった。


「マスター、これからも新しい挑戦を楽しみにしています」

と玲子が言うと、健太も

「本当に、マスターの進化も僕たちの励みになります」と続けた。


”カフェ・ミーム”は、進化の法則に基づいて、新しいアイデアや挑戦を歓迎する場所となっていた。


常連客たちは、それぞれが進化し、互いに刺激し合うことで、日々の生活や仕事に新たなエネルギーを得ていた。


そして、佐藤もまた、その進化の輪の中で自分自身を成長させ続けていたのである。


”カフェ・ミーム”は、単なる喫茶店ではなく、人々が互いに支え合い、進化し合う場となっていたのだ。


「ここでの時間が、少しでも誰かの力になれば、それでいい。」



そう呟きながら、佐藤はまた新しい一杯を淹れ始めた。

それでも進化の法則を守りながら、”カフェ・ミーム”は今日も静かに、人々の心に寄り添っている。


これが、”カフェ・ミーム”に集まる人々の物語だ。

それぞれが自分の進化を楽しみ、周りの進化を歓迎し、その進化を仕事や日常生活に取り入れることで、新たなコミュニケーションの形を築いていた。

佐藤が作り上げたこの場所は、まさにその法則の象徴であり、人々が互いに支え合い、成長し合うための大切な場所となっていた。

そして、それぞれが自身で身につけた”エランビタール”は、それぞれのオリジナルな、独自性を持ったとても強い自信や勇気を作り続けるのである。

「さっ 僕たちも早く、マスターのブレンドをいただきに行きましょう。」

「はい!でも、何か今日はいつもと違う雰囲気ですね~」

「あっ、あれは前澤さんだ~」

「久しぶり~、いつも僕のデザイナーとしての才能を褒めることはしないけど、作品は、自分の子供のようにかわいがってくれんですよ~」

「ってことは~ 当分、僕んちのベットを”エレキギター”に占領されてしまいます~笑」

今日の鈴虫の音色は、いつのよりも、少々ハードロックのように聞こえるのであった。


終わり

POSSVI 東野

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pene
今、日本の社会にある様々な歪を改善するための事業や活動をしています。具体的には、あらゆるクリエイターや基礎研究者の支援や起業家が生まれやすくなる社会システムの準備をしています。どうか御支援よろしくお願いいたします。