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【連載】ちいたら散歩〜コロナ自粛下のジモトを歩く〜(第1回)
ポスト研究会では、これまでトークイベントの記録をテキストにして掲載してきましたが、今後はこの他にも、寄稿文や写真など、さまざまな形で情報発信していきたいと考えています。
今日から、高原太一さんによる連載シリーズ「ちいたら散歩」を始めます。
【連載】ちいたら散歩
第1回:コロナ自粛下のジモトを歩く
①遠出ができない
図書館にも行けない、資料館も空いてない。公共施設は、肝心なときに(もちろん事情はわかるが)開かれていないのだと思った。
それならば、人通りが少ない道を歩くしかない。散歩やジョギングをしている人は多くいる。けれども、ここでは誰も会わない。ただ静かな時間だけが、流れている。その場所については、おいおい記していこう。
神奈川県川崎市宮前区。私のジモトであり、いまなお住んでいる場所。しかし、一番嫌いな場所だった。なにも楽しいことが見つからない。ブラつきたくても、最寄り駅から家までは、チェーンの店が連なるばかり。ベランダから望めるのは、いわゆるラブホテルと東名高速道路。
地元に友だちもなく、行きつけの店もない。学校もバイトもなくなった「自粛期間」は、ただ博士論文を書くだけの苦行の日々かもしれない。病まないだろうか。そんな不安を心に抱えながら、3月下旬を過ごしていた。事実、つぎに電車に乗ったのは5月5日の「こどもの日」。そして今日は6月19日。約3ヶ月の「コロナ自粛」期間の回想記録である。
②遠くをみたい
高いところに登りたいと思った。ベランダから見える風景は、いつも同じ。見えるのは、ラブホテルと東名高速と斜面を造成しては次々と増える一戸建てやアパート。多摩丘陵の「谷」に住んでいる私は、遠くまで見渡すことが出来ない。視界はいつも建物によって遮られるからだ。
遠出ができないなら、せめて遠くまで眺めたい。昔から気になっていた「高射砲陣地」跡の公園まで歩いていった。
公園入口から長く急な坂を上っていくと、敷地は意外にひろい。サッカーのレプリカユニフォームを着たちびっ子がわんさか遊んでいる。たしかにB29を撃ち落とすには、視界がよく、都心全体が品川まで見渡せるパノラマ。パソコンの前に座っているだけでは、絶対に見えない景色。かつてはもっと遠望出来ただろう。心も少し軽くなる。
帰って調べれば、そこは高射砲の陣地ではなく、「探照灯陣地」だったと分かった。
※写真:家から見えるラブホテルの一つ、「モテル・オロ」。いまは取り壊され別のホテルが建っている(※オロはスペイン語で「金」を意味する)。
【執筆者プロフィール】
高原太一(たかはら・たいち)
東京外国語大学博士後期課程在籍。専門は砂川闘争を中心とする日本近現代史。基地やダム、高度経済成長期の開発によって「先祖伝来の土地」や生業を失った人びとの歴史を掘っている。「自粛」期間にジモトを歩いた記録を「ぽすけん」Noteで連載中(「ちいたら散歩 コロナ自粛下のジモトを歩く」)。論文に「『砂川問題』の同時代史―歴史教育家、高橋磌一の経験を中心に」(東京外国語大学海外事情研究所,Quadrante, No.21, 2019)。
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