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超短編小説:うみ〜ドラマ光る君へより〜
空が見える。
怒号の間から、まひろの叫ぶような声が聞こえる。
自分の体が瞬時に冷たくなって行くのがわかった。
ああ、俺は死ぬのか。
死ぬと思ったのは、これで何度目だろう。
1番最初は親に海に捨てられた時、最後は、越前の海に飲み込まれようとした時。
どれも海だった。
今回も海辺で、どうも俺は死を感じる時は海がつきものらしい。
そうか、俺自身『うみ』だからな。
まひろに俺の日本人の名を知ってもらいたかったな。
そんな話をゆっくりしたかった。
そう思ったら、涙が溢れてきた。
ああ、俺は死ぬのが怖いんだ。
死にたくないんだ。
まひろ
まひろがいたから、対馬に渡って、自分のことを知るものが誰もいない現実を受け止めることができた。
日本人でも、宋人でも、周明は周明でしょ。
そう伝えてくれたから、俺は生きることができた。
まひろに出会うまでは、俺にとって生きることは『生き残るため』だった。
親に捨てられないように息を殺して生活した少年時代。
宋に渡ってからも、日本人とバレないように息を潜めて生きる日々。
だからこそ、いつだって死ぬことが怖くなかったし、むしろ、死ぬことに意味を見出そうとしていた。
だけど、まひろに出会って俺は、俺でいいんだと思えた。
それがどんなに大きな事か、お前はわかっていないだろうな。
でもそれでいい。
まひろ
お前はいつまでも、興味のあるものに貪欲で、珍しいものに物怖じせず目を丸くして飛び込む、そんな女でいてくれ。
まひろ
俺に生きる意味を教えてくれてありがとう。
おかげでこんなに死ぬのが怖い。
怖くて怖くて、笑えてくる。
体はどんどん冷たくなるが、まひろと繋いだ右手だけは、温かいままだった。
俺は、まひろの温かさを感じていられる。
怖いけど、嫌だけど、ありがとう。
空が目の前に広がる、まひろの声はもう遠くて聞こえない。
うみの音だけが、俺を包んでいった。
あとがき
光る君へ46話で、越前で別れたはずの周明とまひろが再開して、交流を深めました。
お互いの人生のターニングポイントに影響を与え合っていました。本人たちは、そんな事ちっとも知りませんが。
46話の最後で2人の関係性が繋がると思った瞬間、周明の体に矢が突き刺さりました。
その後どうなるかはまだわかりません。ですが、絶体絶命です。
そんな絶体絶命の瞬間の周明の心の中を私なりに想像して短いお話を書いてみました。
いろんな願いを込めて……
なお、このお話は完全に私の妄想なので、本編とは全く関係ありません。う
また、このお話に出てくる『うみ』と言う名前は、私の妄想です。
それについてのお話がありますので、それも読んでいただけると嬉しいです