幕が閉じても
はじめに
これは、私の妄想小説です。
今回は、シークレットラブソングという曲から、インスパイアされたお話です。
その人を思う物差しがあればいいのに。
そうすれば、どれだけ大切に思ってるか、大きさで伝えられる。
あの人にも、自分にも。
世間にも。
大きな声で言いたい。
私の存在を、大きな声で伝えたい。
私たちはお互いを必要だと、会うたびに確認している。
愛し愛されていることを理解しているし、一生手を離さない覚悟もあるし、自信もある。
なのに、周りの恋人達のように、街中を手を繋いで歩いたり、肩を寄せ合って座ることさえも出来ない。
やっと出会えた相手なのに。
自分が周りの人と違うことは幼い頃から薄々気づいていた。
だか、「周りと違う」「普通じゃない」ことが、どれほど怖かったか。
認めたくなかった。
私は自分を呪った。自分が怖かった。
自分の立ち位置など見つけられるわけがなく、私はずっと自分を誤魔化して生きてきた。
本当の自分が自分でもわからなくなるほどに。
そんな時、あなたに出会った。
私の好きな人が、私を好きになるなんて、こんな奇跡が起きるとは思わなかった。
だけど、
私たちはお互いの事を誰にも言えていなかった。
だから、街中で手を繋ぐこともできないし、肩を寄せ合うこともできない。
あなたの事を好きだと思えば思うほど、私の何かは壊れていった。
愛しているのに、少しずつ自分が壊れていた。
ある日、行きつけのバーでいつも一緒になる人がいた。お互い存在は分かっていたが、「今日もいるな」と思うくらいのそんな存在だった。
カウンターに座り、何気に一言「隣の人と同じやつ」と私は注文した。
その人と目が合って、いつもはしない世間話を私達はし出した。
その人は、周りから見たら、ただ遊ばれてる。そう思うような恋をしていた。
自分でも分かっているのだと。でも、相手が戻ってくればまた、同じ繰り返しをしてしまう。
だって好きだから。
周りからは馬鹿だなって言われる。幸せになれないよ?って言われる。
それも分かってる、分かった上で愛しているのに、誰も理解してくれない。
「ねえ、ちょっと付き合わない?」
私は、その人の手を引っ張り店を後にし、屋上に出た。
「ここからさ、自分の思いを叫ぼうよ!誰も聞いてないけど、大声で宣言しよう!」
私は金網に捕まり、大きく息を吸って、思いの丈を叫んだ。
「どうして、周りの恋人達のように手を繋げないの?自分たちが堂々と付き合ってるって世間に言いたい!」
私の思いもやらない叫びにその人はびっくりしたが、つられるように隣に並んで叫んだ。
「どうせ遊ばれてるって分かってる!分かってるけど、仕方ないじゃん!好きなんだから!!」
色々思いの丈を叫んだ後、私たちはお互いの顔を見つめ、笑い転げた。何がおかしいのか、何も面白いことはないのに、笑っていた。
街中で手を繋げなくても、そんな恋をしている人は沢山いる。
自分を特別視していたのは、自分自身だった。
それに気づいたら、ただ、ただ、笑えた。
その後、私たちは抱き合って泣いた。
お互いを慰めるように、認め合うように、泣いた。
でも、それは悲しい涙ではなかった。
現実は何一つ変わりはないが、自分に相手のことをどれだけ思っているのか伝えることができた。
物差しがなくても。
私は、あの人を自信を持って愛していると言える。
その言葉を手に入れた。
あとがき
松下洸平さんのデビュー曲に触発されて作った「つよがり」という話を見てくれた友人が、この曲の世界観を思い出させる。と教えてくれたのが、このシークレットラブソングでした。
ちぇるさん、ありがとうございました。
今回も、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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