家族茶碗エピローグ
武志は、体調を見ながら家族茶碗を完成させた。
不思議とその間は体調も安定していた。
自分が申し出たことで体調を崩しては、八郎や喜美子が責任を感じてしまう。それだけは避けたかった。それが体調管理に繋がっていた。
武志をはじめ、それぞれの茶碗ができ、食卓で使われるようになった。
使うたびに、この色はどうやって考えたのか、どのくらいの温度で焼いたのかなど、色々八郎が聞いてきて、そんな会話が楽しかった。喜美子は何も言わなかったが、毎日当然のようにその茶碗を使った。
夫婦茶碗は作業場の棚に飾っておいてある。八郎はためらったが、喜美子が「ここでええねん」と満足気に置いていた。
作業場
武志と真奈はお茶を飲んでいた。武志が、これな…と机の下から青い茶碗を出した。
「家族茶碗でな、お父ちゃんたちに作った。でな、もし良かったら、これ、使ってくれへんか?
もちろん、俺には未来がないから、重かったら受け取ってもらわんでもええんやで。ただ、うん。今度この茶碗でうちで一緒にご飯食べらたらな、と思ってな」
ためらいがちに差し出された茶碗を、真奈は「使うに決まってるやん。綺麗な色やなあ〜」と笑顔で手に取った。
真奈はとっくに武志の病気のことは受け止めていた。将来のことを考えたら、辛くなる気持ちはあるが、人間いつ突然いなくなるかわからない。突然いなくなるのは自分なのかもしれない。
そう考えると、それよりも、その日1日を自分の気持ちに正直に生きること。そう考えるようになり、武志のそばで生きて行こう、そう決めた。
それからは武志に対して遠慮するのをやめていた。会いたい時には会いに行く。製作に没頭していればその姿を目に焼き付ける。それが自分なりの愛し方だと思っている。
「じゃあ、早速おばさんとこ行って夕食手伝ってこよう」
真奈は作業場を飛び出していった。
「さて、もう少しできそうかな」
飛び出した真奈を見送った後、笑顔で自分の体に問いかけながら、武志は製作に入っていった。