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ふたりのつよがり

はじめに
これは、推しの「つよがり」と言う曲に刺激を受けて書いた、私の妄想小説の第二弾です。

私とみゆきは、マンションが隣同士という縁で出会った。
性格も、服の趣味も、部屋の好みも、食の好みも違うのに、何故かいつも一緒にいた。ウマが合う、とはこう言うことを言うのだと思うくらい仲が良かった。
「姉妹みたいだね」
そう言われることもあったが、あながち間違っていなかった。私はみゆきにはなんでも話したし、相談した。お姉ちゃんのようだった。

みゆきは…私に相談すること、あったかな?
そう頭をかすめることもあったが、そんな事が気にならないくらい私たちは一緒にいた。

ある日、大学の先輩の紹介で知り合った男性がしつこく付き纏っていて、その日も、私のバイト先まで押しかけて来ていた。
私は怖くなって、わからないように裏口から出てそっと帰ることにした。
なのに、男性は、私のマンションの近くで待ち伏せしていた。
私は本当に怖くて、目を合わさずその人を避けようとした。
すると、男性は突然私に抱きつき、暗がりに連れて行かれ、押し倒された。
私は必死にもがき、ちょうど蹴り上げた足がクリーンヒットしたらしく、男がたじろいだ瞬間に私は逃げ出し、みゆきの家のチャイムを鳴らした。

「お願い、みゆきいて!」

私は藁にもすがる思いでみゆきの名前を呼んだ。
「はい」
みゆきの声だ。
「わたし!早く入れて!」
只事ではない様子を察知して、みゆきはすぐさま扉を開けてくれた。私は、家に飛び込み、そのままリビングで倒れ込んだ。

「カナ、どうしたの?」
私はまだしゃべられなかった。喋りたくても、震えて声が出なかった。
みゆきは、カーテンを少し開け、外の様子を伺う。男が外をうろうろしていた。
「まさか、あいつにやられたの?」
私は震えながら、やっと頷いた。しつこく付き纏われている男性がいる事は、みゆきに伝えてあった。

「倫太郎に連絡しよう。」
みゆきは、私の彼氏である倫太郎に連絡をしようとスマホを持ったが、私はスマホを取り上げ、拒否をした。
今は、男性全般が怖かった。たとえ彼氏でも、男性の大きな手で触られる事を考えただけで身体と心が拒否をした。

みゆきは私をゆっくり抱きしめて「大丈夫、大丈夫」と声をかけてくれた。
私は少し安心して、やっと少し声を出せるようにり、「怖かった」と言いながら、みゆきの胸で泣いていた。

「わかった。私が上書きしてあげる。」
そう言って、みゆきは私にキスをした。

みゆきと私がキスをするのは初めてではない。
以前も、何かの拍子にお互いの愛情を表現するために、キスをした事はある。
そのあと、「雰囲気ないねーー」と、大笑いをした事があった。

でも、今のキスは違った。
私を包み込むように、優しく、優しく重ねてきた。
「怖い?」
みゆきが聞く。
不思議と、震えが止まっていた。
「怖くない」
もう一度みゆきがキスをする。今度は、少し強く、求めるように。
「嫌な感じ?」
再びみゆきが聞く。
「……嫌じゃない。」
また、キスをする。
その度にみゆきはつらくないか、大丈夫か。そう質問をし、私は、大丈夫、と答える。
それを繰り返すうちに、お互い求め合うようなキスになっていった。
「ごめん、カナ。もう止まらない。」
そう言って私はみゆきに押し倒された。
私は、カナを受け入れた。


それから私たちは、友人、姉妹に加え、恋人としてお互いを認識するようになった。

あれだけ付き纏っていた男性は、警察を介入した事でパタリと姿を表さなくなった。
それと同時にみゆきは自分の部屋を引き払い、私の部屋に越してきた。

みゆきは、私のことがずっと好きだったのだと。そう教えてくれた。
でも、自分の気持ちを伝えたところで成就する事はないだろうから、と黙っていたらしい。
だから、私に相談したり頼ることがあまりできなかった。頼ってしまったら、気持ちを伝えてしまいそうで怖かったのだと。

「私は、カナって言うソウルメイトを手に入れた。」
そう言って笑ってくれた。

私は不思議な感覚だった。
私は男性のことをずっと恋愛対象にしてきた。
なのに、今はこうしてみゆきのことを愛おしいと思うし、恋人だと言う認識がある。こんな私でいいのだろうか。自分は人と違う。それが怖かった。

「いいじゃん。
贅沢な感覚だよ。性別関係なく、その人のことを愛せるんだから。」
そうみゆきに言われたことで私は救われ、なおさら、みゆきとの関係を深めていった。

なんでも話せる親友が、恋人になったのだ。
この上ない幸せと安心感だった。

同時に、私はぼんやりと、でもくっきりと将来のことも考えだした。

私はこのまま、みゆきについていくのか。
そうなると得られるはずの社会的立場、子供、そういったことを何かしら諦めなければならない。
みゆきのことは好きだが、それをしても良いのか?
そう言ったぼんやりとした不安を考えては、すぐにやめてしまう。を繰り返していた。

みゆきは全身を使って私を包み込み、愛してくれていた。
私が将来に対する不安を抱えてしまうことが、罪悪感と感じてしまうくらいに。

だからこそ、応えたい。応えなければならない、そう考えるようになっていた。

あんなに楽しかった私たちは、次第に会話が少なくなってしまった。
大切にしたい思いはあるが、自分の中の愛情のアンバランスさが、無邪気に話をすることをさせなかった。

みゆきも、キスの後に無自覚にため息をつくようになっていた。

「私の不安が伝わってしまったのかも」

そう考えて私は、彼女のため息を聴かないふりをした。それが私にできる優しさだと、思い込んでいた。

いつものように夕飯を食べて、愛し合い、2人で休んだ次の朝、私が目を覚ますと、みゆきがリビングで1人座っていた。

私が起きていくと、私の気配を感じたのか、後ろ向きのまま「おはよう」と、私に声をかけた。

「あのさ、私、これで出ていくね。」

「え?」

みると、みゆきの荷物がまとめられていた。

「え?なんで?どうして?昨日だっていつも通りだったじゃん」
私は立ち尽くしたまま、みゆきの背中に訴えた。

「うん。
昨日を最後にしよう、そう思ってたんだよね。」

「……ずるい。
どうしてそう言うこと、勝手に決めるの?なんで?」

「なんで?
じゃあ、聞くけど、カナはさ、私と一生一緒にいるつもりでいる?
私はさ、あるよ。そう言う覚悟でカナを抱いたんだよ。」

みゆきが振り返る。
すごく綺麗だった。
私に核心を突く、そんなみゆきが綺麗だった。
こんな時なのに、私は見とれてしまった。

「わかるよ?カナは元々男の人が恋愛対象だからね。当然のように手に入る奥さんという社会的立場、子供…それを失うのは怖いよね。
でも、怖いなら、前のようになんでも私にぶつけて欲しかった。
何も言わない、言ってくれないことが1番切なかった。」

私は、そこまで読まれていたことに驚愕し、同時に畏怖の念を覚えた。

覚悟を持って愛すると言うことは、これほどの事なのか。

私には、そこまでの覚悟がなかった。

それが、今はっきりと理解できた。
覚悟がないから、みゆきにも言えなかったのだ。相談できなかったのだ。

今の私には、みゆきを愛する資格がない。

私は、全てを飲み込んだ。
これから起こす自分の行動が、みゆきを愛した自分の集大成だ。そう考えた。

私は、にっこり笑った。
「そっかー、バレてたかあ。
そうだね、私、覚悟が足りなかった。本当にそう。みゆきを受け止められなかった。
正直さ、もっと自由を楽しみたいんだよね。
だって、私は性別関係なく人を愛せるんだもん。
ごめんね、みゆきには不似合いだ。」

必死に軽く、言葉を紡いだ。
窓の外で車のクラクションが鳴っていたが、その音が遥か遠くで鳴っているように感じるくらい、私は必死だった。

きっと、みゆきはそんな私の態度、真意にも気づいているだろう。
みゆき、お願い。私の思いを受け取って。
私のつよがりを無下にしないで。

「じゃあ、私いくね。」
みゆきは私の顔を見つめ、立ち上がった。
「うん。またね。」
「またはないでしょ。」
みゆきは言った。
私は答えなかった。

元々物に執着がなかったみゆきは、荷物が少なかった。

私たちの関係みたいだった。

私の抱えられる荷物が少なすぎたのだ。
ごめん、ごめん、みゆき。
ごめん。大好きだったよ。友達として、姉として、恋人として。
それだけは、本当だったよ。

夏の名残の日差しが、カーテンの隙間から溢れていた。

あとがき
推しの再デビュー曲、「つよがり」を聞いた後、いろんな人とこんなことも考えられるよねー、とワイワイやりとりをしました。
そんな中で、前回書いたバージョンとは違うバージョンも面白いねー、と2人で創作しあったのが、今回の始まりでした。
きっと、彼女の作品も発表されてますので、是非!私とは違う文体、素敵な言葉たちで、つよがりを紡いでいます。
聖さん、いつもありがとうございます。


今回も、最後まで読んで頂いてありがとうございました。なお、このお話はつよがりを元にしておりますが、原曲とは全く関係がありませんので、悪しからずです。
今回も、最後にみゆき側のエピソードを少し…

私の強い愛がカナをがんじがらめにしていることは、わかっていた。
真面目な彼女のことだから、私の愛情とバランスを取ろうと必死になってしまったんだろう。
このままでは、お互いダメになってしまう。
思いを告げる前に戻りたい。そう思わせてしまう。そうなってしまったら、恋人同士だった頃の自分たちが無かったことになってしまう。
それは、避けたかった。
彼女の中で、私たちの思い出を後悔だけにしてほしく無かった。
だから、今日はいつも通りにして、いつもよりも戯けてみせた。力一杯、カナを抱いた。
いつも通りにしたのは、私のつよがりだ。
「可愛い寝顔」
そう呟いて、隣で眠るカナに最後のキスをした。優しい、優しいキスをした。

「さて、荷物まとめるか」
どうせ眠れないのだ。私は立ち上がった。






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