未来予想図
「わはは、だーれも聴いてなかったね」
「こーへー、お前、それわかっててやったんだろ?」
それは深夜のクラブのイベントで演奏を終えた後の話だった。
俺たちはあの場所で未来予想図を堂々と弾き語った。
結果、誰も聞いていないという散々なものだったが、その場を出た俺たちは笑っていた。
「だって、ああ言う場だからこそ、ポップを入れたくなるじゃん」
あいつは屈託のない笑顔でそう言った。
「あのイベントに二度と呼んでもらえなくなるかなあ。まあ良いか」
あいつがものすごく研究しまくっているのを知っていた。でも、コアに寄りすぎず、その中心には絶対ポップがあるんだと、よく話していた。
それを、どんな場所でも突き通した。
俺はあいつの、そう言う頑固なところが好きだった。
あいつは曲を作るのに、ギターやピアノを覚える気がない。覚えなくてもメロディが浮かぶのだ。そんなあいつに引っ張られるように自分もメロディを一緒に紡ぎ出していた。
「いつか、絶対アリーナとかドームでライブをするんだ」
そんな夢みたいな事をあいつは、いとも当たり前のように、簡単に口にしていた。
それが眩しくて眩しくて、じゃあ、その時の照明はこんな感じな、などと近い未来の話として一晩中でも話をしていた。
そんな中、あいつだけが一足先に音楽チューンに飛び込んでいった。
「やっぱ、分かる人には分かるんだな」
正直にそう思った。
あいつが頑張ってるから自分も刺激になった。
いつしか疎遠になっていったが、あいつの名前は折に触れ、俺の耳に飛び込んできた。
あいつの活躍が、自分を鼓舞する材料になったことは、間違いがなかった。
それから時間が経ち、自分がアリーナでライブをする時、いつか誰かと約束したなあ、誰だか忘れたけど、そいつに見せてやりたい。アリーナの景色はこんな感じなんだぜ!
早く来いよ!!
誰に向けてか、わからないけど、おれは必死に叫んでいた。叫ばなくちゃいけない、叫ばなくちゃいけない。そう強く思った。
そんな時、あいつから連絡が来た。
「いつの間にそんなに有名になって、アリーナでライブなんてしてるの!おめでとう!すごいね!でも羨ましい!!ジェラスー!!!先越されたわー!!」
そうだ、こいつと約束したんだった。こいつがいとも簡単に、当たり前のようにドームの話をしたから、自分もいつかは!と当たり前のように考えるようになったんだ。
「ねえ、今度、音楽活動をしっかり復活させることになったんだ」
「一緒にやってくれない?」
「一緒にやろうよ」
ほぼ同時に申し出ていた。
そんなあいつが再デビューを果たした。
自分はもう、メジャーデビューして久しい。デビューが決まった時はうれしかった。
でも、今回も自分の事のように嬉しかった。
だって、あいつは変わっていない。
今も、相変わらず物凄く研究をしている。でも、中心にはやっぱりポップがあった。
そして、それを譲らない。
ニコニコしながら、押し通す。
俺たちは、20歳の頃に戻ったように音を重ねた。
だから、もう一度デビューし直してる。そんな感覚だった。
「ドームでライブをするんだ」
そしてあいつは今も、いとも当たり前のように、簡単にそう言った。
「当たり前じゃん。俺はギターな」
俺は当然のように答える。
あいつと同じ景色を見るんだ。
そう信じている。
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