大人たちが集まって楽器をやること自体の豊さ/KSM インタビュー
(ZOOMを使った、リモートインタビュー)
ーー今日はよろしくお願いします。
寺田 (タバコをふかしている。)
黒木 一人だけ別の人が混じってる感じがして、いいね。
全員 (笑)
ーー先に、KSM(読み:きさま)というバンド名ですので、貴様貴様って何度も連呼すると思うのですが、予めご容赦いただければと思います(笑)
まず、KSMのこれまでの活動や創作での軸などを教えてください。
寺田 はい、えっと…
寺田の猫 にゃー
黒木 にゃー(笑)
寺田 KSMは、僕と井手くんが母体になるユニットを先にやっていて、そこに僕とバイトが一緒だった黒木さんが入りました。最初はいわゆるロックバンドというか、ガツガツライブハウスに出て、楽曲を制作して、という野心めいたものもあったんですけど、最近はコンセプトとして「持続可能な社会人バンド」みたいなところにむしろ重きをおいていて。
お客さんからお金を取るから、あんまりこう言うことを大々的に言うのはどうなんだろうと思うんだけど、日頃みんなはそれぞれ会社に勤めたり、仕事をしていて、その中で、でも当たり前に音楽を楽しむ団体になるといいかなと思ってやってるバンドです。
なので、プロフィールとかには「社会人のためのクリエイティブなバンド」ていう、わけわかんない素朴な紹介文を載せたりしています(笑)
ーー日常的に楽しんでいく、日常的に音楽があるってことでしょうか。
寺田 そうですね。そこを今は一番大切にしてるかな。
ーー満を辞して発表するぞ…!というよりは、ちょっと軽やかさを持って発表できるような…?
寺田 単純に発表もそうだけど、自分たちがバンドを始めた20代前半の頃って、ライブをバンバンして、お客さんをつけて、音源を作って…見たいなものを一つの目標として持っていて。もちろん、いまもあるんだけどね。
それよりも今、大人たちが集まって楽器をやること自体の豊さの方が、どっちかっていうと大切だよね、と自分の加齢とともに思うようになって。
仲間もそれに賛同してくれているという感じ、かなあ。
ーー今回のご出演はこの3人(寺田・井手・黒木)でしたが、他にお二人いるんですよね?
寺田 ベースのZigokuくんと、最近一緒にやり始めたバイオリンの福井さんがいます。
ーーメンバー編成はこれから柔軟に変わっていくんですか?今回の『ときわ座に本を持ち込むと、』での冒頭のMCで「誰でもメンバーになれます」とか「KSMと勝手に名乗ってもいいですよ」と言っていたのも印象的でした。
寺田 そうそう。コンセプトにも関わってくるんだけど、バンドっていう活動スタイル自体が、コスパが悪いという言い方が正しいかわからないけど、時間をいっぱい使わないといけない。同じメンバーで毎回集まってリハーサルを重ねて…と言うのは社会人バンドだと単純に予定が合わず難しくなってきちゃって。
だからバンドというよりはもうちょっとこう「音楽好きな仲間」みたいに裾野をひろげて、その中から選別メンバーが活動する、というか。変な話、僕がいなくてもいいかなと思ったりもするし。チームの中でやっていけたらいいな、みたいな。なので、どんどん仲間を増やしたいんですよね。
ーーチームの中で、メンバーの組み合わせを色々と変えていくんですね。
寺田 例えばジャズミュージシャンとかだと、リーダーがいて、ギャラを払って、メンバーを集めて、リーダーバンドを割りとフレキシブルに作って、その場その場のやりたいことでメンバーを選抜していくという仕組みがあるんだけど。パーマネントなバンドを作ってるのがあんまり主流じゃないと思っていて、そこをちょっとヒントにして、それのゆるい版みたいにしています。
ーー『ときわ座に本を持ち込むと、』について。今回、昭和建築である「ときわ座」と日常的な「本」、このふたつに関わっていただくパフォーマンスをしていただけますか?とお願いしたのですが、普段のライブとの違いや、感じたことなど、お聞かせ下さい。
寺田 まず、あの「ときわ座」っていう場所がすごくいい場所だな、と見学したときに思って。最初は見に行く前に「古民家を改装した」というのを聞いていて、(上演する内容は)もっとカッコつけたものを考えてたんですよ。サイト・スペシフィックというか、インスタレーションというか、音を色んなところに配置してみたいな。
そういうのをイメージしてたんですが、いざ行ってみてリハをしていたら、自分たちに合っていないなと思って。それで、ちょっとポップな、舞台っぽい、フックのある感じにしようかなと思いましたね。
ーー「舞台っぽい」感じとは?
寺田 僕の楽器がなかったんで(笑)
ーードラムセットが、ときわ座には置けなかったですもんね。
寺田 だから最初は一人芝居するか、とかも考えてたんですけど。
ーーははは(笑)
寺田 割と芝居っぽいというか、とっつきやすさのために自分をキャラクターっぽく見せる動きであったりとか。ストーリーをなんとなく作ってみたりとか、演出ですよね。
ーー今回の演出の中で、寺田さんが1階の会場内にいて、井手さんと黒木さんが上(2階)にいるというスタイルでしたが、そこに至った経緯と、やってみてどうだったのか聞かせていただけますか?
寺田 経緯はね、天井がいいね、っていうところと。最初、音を色んなところに配置してっていうアイデアがそもそもあったので、上にあげてみるか、というのは狙ったところですかね。
ーー曲を合わせるのはどうやっていたんですか?寺田さんが上を気にしてたんですか?それとも2階のお二人が寺田さんに合わせてたんですか?
井手 どっちかっていうと後者ですね。まあでも、見える位置で弾いてたんで。でも、どうなんだろ?
寺田 仕組みで言うと、即興というよりは、自分たちの持ち曲を繋いでいく感じであのショーを作っていて。曲によって主軸になるパートがあるので、この曲だとこのギターのこのフレーズがきたら次に行くよ、見たいなある程度タイミングは決まっているんですよね。展開が変わるときとかはね。
……あれ、違いますか?
井手 あってる。あってる。ありがとう、わかりやすい説明です(笑)
ーー普段の演奏との違いはありましたか?井手さん、黒木さん、お二人の視点から見てどうでしたか?
黒木 上からやってたので、寺田さんを上から見ている座敷童みたいな気分で。ちょっとBGMっぽいのを流したりとか、いじめたりとかしながら(笑)
井手 いじめたりとか
黒木 いつもの緊張とかがなく楽しみながらやれました。
ーー演者の寺田さんを俯瞰して見れたということですか?
井手 そうですね、あの感じは今までになかったですね確かに。
黒木 動いているのを見ているだけで面白い(笑)今もすごい笑ってるんですけど。こっちは楽しみながらやれました。
ーーいじめてるとは、どういったことなんですか?
黒木 基本は寺田さんの様子を見たり、音を聴きながらタイミングを図って音楽の展開をつけてたんですけど。最後の寺田さんのジャンプのところは私きっかけで曲が終わるんですが、あそこだけ見えない位置でバリトンサックスを演奏していて、見えない位置でスーッと聞こえてくる感じをやりたくて。寺田さんの様子を知らないまま耐久レースみたいな感じになっちゃったので(笑)いじめる感じになっちゃって。
井手 あのタイミングで上から見えているのは僕だけでした。
寺田 あれは、黒木さんが止めてくれないと俺は一生飛び続けなければいけないっていう。
それであえて僕を見なかったもんだから、僕がどれくらい疲れてるかを知らずに、長々とやってくれましたね。(笑)
井手 あれはずっと上から見てて、僕が一番楽しめたかもしれないですね。寺田くんはどんどんエネルギーを消費していくのと、黒木さんはいつ吹くのを止めるんだろうというのと、消費してるエネルギーを見ているお客さんがどんどん盛り上がっていくっていうのを1箇所で体験して。あれは贅沢な瞬間を頂いてしまったなと思いました。
寺田 ステージだとお互い目くばせして次行くか、とかってコミュニケーションがあるんですけど、あの場所だから見えなくするってことができたし、
こっちもいつ終わるかわからない、というコミュニケーションもときわ座ならでは、でしたね。
ーー寺田さんのあの汗だくのシーンはとても印象的でした。楽器をかき鳴らして体が動いて汗をかく…というのはあると思うんですが、体が先行して音を出すように動かれていたと思うのですが、あのシーンについてお聞かせください。
寺田 そもそもあそこの場面は、自分を、疲労させる舞台的な装置として扱っていて。自分が疲れることによって、物語が特にあるわけじゃないけど、その疲労自体が機能して、なんか知らないけどお客さんが感動するんじゃないかという目論見があったんです。
やってみて、もう飛べないなと思ったときに無理矢理体を動かそうとした結果、音楽に動かされてる状態に見えたかもしれないですね。
あの手法は僕のオリジナルじゃなくて、元々は小劇場の劇団さんを参考にしていて。
あと面白い話があって。あのライブをした日に、地下アイドルが同じことをしてましたね。疲労させるって、応援させたくなる物語力があるんだろうなと思って。成功したかはわかりませんが・・・。
ーーめちゃくちゃ盛り上がってましたよ!拍手が起きてましたし。
寺田 ありますよね、人の心を動かすものが。疲れた人って。
ーーここまで一つのライブで、汗をかく寺田さんとそれとは対照的に冷静なお二人がいて、って他にはこんなライブありますか?
寺田 初めてだよね?ないよね?
井手 ないない。やれない。
ーー冒頭のMCで、「ノイズミュージックというものがあって、雑音や物音も音楽と解釈できる。だから、お客さんはしゃべってもいいし、トイレに行ってもいい。」と話されていました。
また、パフォーマンスの中盤で、寺田さんも上の階に行ってしまって、1階のステージに誰もいない瞬間がありました。その時のお客さんの視線がバラバラで面白かったのですが、その辺りはいかがでしたか?
寺田 前説と僕も(上の階に)上がると言うのは、意図がありまして。
演劇とかもそうかもしれないですけど、音楽とかも、舞台と客席の関係性をフラットにする試みってあるんですけど。「演者」と「観客」という関係性になっちゃうのを崩したいなと、ああいう場所だったし、それをやってみたかったので。
なので僕がいなくなるのは、あそこは僕らが演奏してるのを聞く場所じゃなくて、お客さんも一緒に空間を作っているんだ、というのを表現したかったという意図がありましたね。
ーー上では、どんな状態だったのですか?何か繰り広げられてたのですか?
井手・黒木 (笑)
井手 これは、どうなんだろうね?とにかく僕らを笑わせにきてるのかなって。
もちろん真面目にはやってるんですよ、音も出してるし。
寺田 めちゃめちゃ僕ふざけてたんですよ、上で。踊ったり、二人をいじめてましたね。
井手 視覚で、いじめられてたね。
黒木 笑ったら音が出なくなっちゃうから(笑)
ーーそんな攻防が繰り広げられていたのですね(笑)
寺田 すごいプライベートな空間でした、あの瞬間は。
井手 いつものスタジオみたいな。
寺田 それを下でお客さんがすごい真剣に聞いてる、みたいな(笑)
ーーでも1階で聞いていても、近所の家でピアノが聞こえるみたいな距離感で音が入ってきたので、人の生活を想像する音というか、ノスタルジックを感じました。
黒木 おぉ・・・(笑)
ーー本とのアプローチはいかがでしたか?音を読む、という演出だったと思うのですが。
寺田 単純に最初は、本を叩く?とかも思ったんですが、どうせだったらストレートに読んでみるかという気持ちになってですね。言葉を音として、リズムとして扱うというシンプルなアイディアではあるんですけど、それをやってみました。
もう一つ、絶叫しながら朗読する場面を作ったんですけど、ちょっと実験的な意味もあって。
読んでいた本は専門書なんで、物語とか強いメッセージは全然ないんだけど、疲れまくった人間が絶叫しながら読むと、なんだかその専門書の内容が感動的に聞こえてしまうんじゃないかという。実験っていうと仰々しいんですけど、いたずら、でしたね。
ーーまんまと、しっかり感動しました。接続詞とかでも感動しました。
寺田 なるべく、ページもバラバラに無作為に止まったところを読んでいて、本来は感動し得ない内容ではあるんですけどね。いたずらですよね。
あと、ある意味ちょっと、音楽の暴力的な部分でもあると思っていて。
よくつまんないドラマとか演劇とかで往年の名曲がかかると感動してしまう、という音楽の魔力というか、歌謡曲とかの感情を持っていってしまう機能があると思っていて。それの良し悪し、僕は功罪があると思っていて、それを逆手に取ったところはあるかもしれないですね。
ーーなるほど。元々のある曲が持っている力って、ありますよね。
寺田 感動させちゃう、みたいな(笑)
ーーときわ座、という場所自体はどうでしたか?
寺田 絶対またやりたいと思ってますね。それこそ、最初にやりたいと思ったこともやってみたいし、また何か使って実験していきたいなと。
サウンドアート的なインスタレーションな感じでやるイベントもやってみたいな、と思っていますね。
ーー最後に。今回の企画を通して、今後のKSMとしての展開や野望は?
寺田 こういうパフォーマンスを重視したショーは初めてやって、すごく勉強になったので、今後のライブに、この手法はどっかに取り入れてやっていきたいなと思いますね。
黒木 そうですね、楽しかったです(笑)
井手 ほんと、見つけたよね。
黒木 悪い緊張感なくやれる、というか、寺田さんに頼りきりなパフォーマンスだったけど、すごく楽しんでやれるのもたまにはいいかなって。
寺田 今度は僕も演奏側になってやりたいなと思った。
黒木 誰か呼んだりしてやっても楽しいな、と。
寺田 濱口さん、どうですか?
ーーお、ぜひ!(笑)よろしくお願いします。
ーー今日はありがとうございました。これで、インタビュー終わろうと思います。
寺田 大丈夫かな?(笑)
ーー大丈夫ですよ!(笑)
黒木 (笑)
寺田 はははは(笑)