「夛世界」第二楽章: Scherzo dell'Entanglement
解説
忙しなく刻むリズミカルな音楽、さながら原子振動などのミクロな物理現象のような、機械的
それが一転して中間部では、それまでの音楽と対比をなすように妖しいメロディが登場し、あのお方の姿が一瞬垣間見えます。
再び元のリズミカルな音楽に戻り、その勢いのまま終わります。
コンセプト
ベルの不等式は、物理量に隠れた結びつき(変数)がないか調べるために考案されたものですが、東洋思想では
『老子』の「これを視れども見るに足らず、これを聽けども聞くに足らざるも、これを用ふれば旣󠄁すべからず。」(見ることも聴くこともできないが尽きることなくそれは働いている)
あるいは
「音もなく香もなく常に天地は書かざる経を繰り返しつつ」(二宮尊徳)
のように、感知できない何かが絶え間なく常に働きかけている表現があります。
特徴的なリズム隊はそうした働きを、中間部で現れる"それ"は視えざる者を表しています。
原曲
「七夕坂夢幻能」から
「不等式のティンカーベル」
曲調
調性:ロ短調
拍子:4/4
形式:複合三部形式・ソナタ形式
( I - Ⅱ - I , Ⅲ - Ⅲ' - Ⅲ, I - Ⅱ' - I )
提示部
第一主題(0:00)
歯切れのよい、無機質で機械的な音形に乗って、強いアクセントでメロディがヴァイオリンで奏されます。
リズムは常に16分音符単位で動き、精巧な時計のように時間を刻みながら進んでいきます。
第二主題(0:39)
一転してリズムがやみ、少しずつ息の長い音形になりながら二つ目のメロディが登場します。
第一主題(1:15)
第二主題が終わったのを見計らい、チェロが細かいリズムの予告を打つと、冒頭と同じリズム・メロディに戻ります。
展開部
第三主題(1:24)
全楽器が止まった後、ヴィオラからうねるような妖しいメロディが歌われ、ヴァイオリンが引き継ぎます。
第三主題:展開(1:50)
このメロディがチェロから順番に受け渡されながら、展開されます。
メロディは五度跳躍+半音進行になっていて、五度で上へ上へと行く長れ「動」と、半音で響きを濁らせながら低音で停滞する流れ「静」になり、絡み合って(entangled )山場を築きます。
第三主題(2:02)
主題がもとの形に戻りますが、全楽器の強打音を挟んで、あのお方のメロディが一瞬現れます。
ちょうどこの2つのメロディは、頭の音形が一致しているので、ここに来るしかない!という気持ちで入れました。
再現部
第一主題(2:21)
再び主部のリズムに戻ります。呈示部とほぼ同じですが、再登場なので少し簡略化しています。
第二主題(2:40)
こちらも呈示部通りですが、転調したことにより、中間の伸びやかな部分がより美しく響き、最後のリズム隊への接続も滑らかになります。
第一主題(3:05)
最後は型通り第一主題でリズム・勢いそのままに歯切れよく曲が終わります。