「夛世界」第四楽章: Finale: "Decoherence"
解説
第三楽章の重要人物であるヴィオラが抜けて、ついに二重奏(秘封倶楽部)になります。
不思議を探しに行ったメリー(1stヴァイオリン)が神隠しに遭い、残された蓮子(チェロ)はひとり常陸へ向かいます。
しかしそこで見つけられず途方に暮れますが、メリーの後を追いかけて行くと、呼び掛けに応える声が聴こえる!
二人が手を取り合うとき、見えざるものたちの力により、元の世界へ戻っていく。
そこは輝きに満ち満ちて美しい世界だった。
原曲
「七夕坂夢幻能」から
「夜じゃなくてもお化けはいるから」「ひとりぼっちの常陸行路」
曲調
調性:ホ短調
拍子:4/4
形式:ソナチネ形式(再現部省略型)
呈示部
序奏(0:00)
ヴァイオリンの伸びやかなメロディに、チェロが刻みながら伴奏します。
第一主題(0:23)
ここでも同じような形で曲が進みますが、メロディは少し掴みにくいリズムになっており、そこに伴奏が拍通りに刻むことで安定します。
ここはメリーと蓮子の旅行の段取りの仕方に対応しています。
しかし、主題の最後でヴァイオリンは突然消えてしまい、チェロだけが取り残されてしまいます。
あちこちを探して回るように、冒頭音形の短縮形を繰り返します。
第二主題(1:36)
完全なチェロのソロによる「ひとりぼっちの常陸行路」。
原曲は6/8拍子で少し明るい雰囲気てすが、た4/4拍子で少し重たい感じにし、あちこち歩いて探し回りながら、呼び掛けるような感じを出しました。
最後は心細くなるように、チェロの音だけが寂しく響きます。
展開部
第一主題(2:22)
メリーの後を追いかけよう。
ヴァイオリンのメロディを、今度はチェロが力強く奏でるとその呼び掛けに応える声が。
手を取り合うようにメロディを受け渡し合いながら進み、お互いの合図のピチカートは波束の収束(粒)の後、最後はユニゾンになって突き進みます。
すると消えていた2ndヴァイオリン、ヴィオラも加勢し、全楽器の強奏で盛り上がっていきます。
二人が元の世界へ戻るのを、二人の賢者が後押しする構図です。
再現部
序奏主題(2:41)
全曲一番の聴きどころ。ヴァイオリン、チェロは冒頭と全く同じですが、2ndヴァイオリンとヴィオラが加わることで、輝きに溢れ、力強さに満ちた音楽となり、
この世界に戻ってこれたこと、二人が再会できたことを祝福するような、劇的なクライマックスです。
「あちら」の世界を通ってきたことで、こちらの世界がいくつもの見えない世界の重なりであることに気付き、同じものがこれまでと全く違って見える、そういう場面です。
最後は、テンポも強弱も少しずつ緩やかに落ち着いていき、戻ってきた・再発見したこの世界の感触を、何度も、何度も、何度も確かめ噛み締めるように、優しく静かに曲が終わります。