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「賢将」第一楽章

解説

ベートーヴェンのピアノ三重奏曲7番「大公」のオマージュで、賢将ことナズーリンを将校に見立てた、勇しく力強い感じのアレンジを目指しました。

「春の湊に」のメロディが多いのでどうまとめるか悩みましたが、「賢さ」=余計なものをそぎ落とす、大切なものを見定める(見つけ出す)というコンセプトで、曲が進むにつれてメロディが減っていくという大きな流れに落とし込みました。

ちなみに楽想のNasuto(ナズート)はイタリア語で「鼻がきく」「賢い」という意味があり(参照)、ナズーリンの名前の元ネタだと勝手に思っています笑。

原曲

東方星蓮船から
「春の湊に」「小さな小さな賢将」

曲調

調性:変ト長調
拍子:3/4、4/4、6/8
形式:ソナタ形式

呈示部

「賢将」と「宝石」

第一主題(0:00)

「賢将」のテーマ。
「小さな小さな賢将」のメインメロディをピアノソロで、まぶしい光の中を堂々と歩みを進めるような雰囲気にアレンジしました。

原曲は短調なのを、一音目を二度下げることで長調にしていますが、後半は短調の雰囲気を出し、立ちはだかる困難を乗り越えていくような、あるいは自分を鼓舞するような感じを出しました。
(苦悩と歓喜が共存する感じがベートーヴェンぽいですね)

ピアノが弾き終えると、チェロ・ヴァイオリンがメインの主題に呼応するように登場し、全楽器で再び主題が繰り返されます。

副主題A(0:41)

「小さな小さな賢将」のイントロ部分を使った移行部。冒頭の雰囲気から変わって短調の物憂げな感じになり、メロディは三拍子のままですが、ピアノが次の主題を予告する形のメロディを出し、ヴァイオリンが裏で6/8拍子で伴奏します。

副主題B(1:02)

チェロとヴァイオリンが親しく会話するような掛け合いで「春の湊に」のメロディが登場します。
直前のヴァイオリンの伴奏音形をピアノが引き継ぎますが、拍子はさりげなく4/4拍子に切り替わります。

副主題C(1:17)

4/4拍子。一転してチェロのピチカートとピアノの伴奏に乗りながら、ヴァイオリンが跳ねるように奏でます。雰囲気としては原曲通りな感じですが、後ほど大胆にアレンジされます。

第二主題(1:33)

「宝石」のテーマ。
4/4拍子。休符を挟んで、ヴァイオリンが第二主題「春の湊に」のサビを静かに奏で始めます。第一主題の力強いモチーフと対照的になるよう、もの悲しく哀愁がありながらも、内に秘めた煌きのようなものを感じる雰囲気を出しました。

テンポも落としており、また通常であれば属調(変ニ長調)にするところを、原調に寄せる&第二主題と明暗の対比を強調する形(同主短調)で嬰ヘ短調(=変ト短調)になっています。

副主題D(2:22)

4/4拍子。第二主題の終わりから流れるように続いて、「春の湊に」冒頭メロディを変形した形のピアノ伴奏が現れ、ヴァイオリンとチェロはユニゾンで伸びやかに対旋律を奏して呈示部が締め括られます。
この対旋律はすごくいい感じに書けたので、この後も使おうかと思ったのですが、使いどころがなかった&曲が長くなってしまうので、ここだけになりました。。

展開部

「賢将」が「宝石」を探す旅へ。

提示部で現れた主題が、副主題Aを除いて順番通りに出てきますが、全てが三拍子ベースのリズムになって変奏される形になっています。

第一主題(3:03)

ヴァイオリンとチェロのユニゾンのロングトーンから変ロ短調になり、展開部へ突入します。
最初の主題が様々なキーで、各楽器に目まぐるしく受け渡され、危険な地帯を突き進んでいくかのように、どんどん激しさを増していきながら展開されます。

副主題B(3:36)

副主題Bが6/8拍子、ヘ短調で変奏されます。ピアノが少し機械的な調子でメロディを出し、ヴァイオリン、チェロがピチカートで伴奏に回ります。
続いてヴァイオリン、チェロ、ピアノ(左、右)の四声で、カノン風に展開され、盛り上がったところで全楽器が同じ動きを繰り返し、三拍子へ進む準備をします。

副主題C(4:04)

変わって3/4拍子で硬質な響きのワルツ風な変奏になります。ショスタコーヴィチやハチャトゥリアンのような、20世紀の少し暴力的(?)な感じを思わせる雰囲気もありますが、エネルギッシュでドラマチックな感じが個人的に気に入っている部分です。

第二主題(4:38)

ピアノの低音連打が止まった後、引き続きピアノが 直前の荒々しさを打ち消すようなクリアなトーンで三拍子化した第二主題を奏でると、ヴァイオリンとチェロもこれに加勢して、最初の物悲しい雰囲気に少し優美さが加えられたような曲調になります。

ただし、展開部内でも第一主題と第二主題は五度の関係になっており、両者の間にはまだ距離がある感じなっています(緊張関係が残っています)が、これが未解決で残っていることが、再現部の調和(解決)の伏線になります。

副主題D(5:18)

第二主題の終わりに被さるようにして、提示部の副主題Dの3連譜音形が拡大されて3/4拍子で続き、ゆったりした流れから徐々に勢いを増していき再現部へ導いていきます。

再現部

「宝石」を手に入れた「賢将」の帰還

提示部の6つの主題が、展開部で三拍子化され5つの主題になり、再現部では三拍子の3つの主題になるというように、余計な主題が取り除かれ、かつ第一主題と第二主題がともに三拍子変ホ短調になるという形で互いに歩み寄り、両者が漸近していくという流れがここで結実します。

第一主題(5:40)

冒頭は変ト長調でしたが、一音目が二度上がり変ホ短調の姿になります。これまで出てきた荒々しさ、物悲しさを全身で背負うような曲調で奏されます。
またこのテーマはもともと三拍子ですが、後半に2拍子的な部分もあり、再現部ではそこにアクセントが入ることで拍子が揺らぎ、より含みのある表情の曲調になっています。

第二主題(5:59)

休符を挟んですぐさま第二主題になります。第一主題との間にあった副主題はもはや全てなくなり、三拍子変ホ短調の形をとって第一主題に寄り添います。

まずヴァイオリンのメロディ、チェロのピチカート伴奏で現れ、ピアノも加わり盛り上がって行くと、ピアノに第一主題(変ホ短調)が再び現れ、第二主題の対旋律になる形で二つの主題が調和します。

第一主題は悲しみを背負う(短調化する)、第二主題は優雅さを纏う(三拍子化する)という、それぞれが互いに変わっていくことで、手を取り合うように主題同士が噛み合わさる、この曲一番の聴きどころです。
(ソナタ形式の醍醐味ですね。。)

副主題D(7:12)

展開部の最後と同じような形ですが、直前のメロディが終始するのをしっかり待ってから、ゆったりとしたテンポで入る形になり、2つの主題が無事に結ばれたことを確かめるような、より安堵感のある雰囲気になっています。
緩やかな歩みの「賢将の帰還」です。

コーダ(7:38)

そこから少しずつ加速し盛り上がって、冒頭に戻るように変ト長調の第一主題の形で、晴々しく盛大に曲が閉じられます。

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