白い粉のハーモニー。
月をまたぐ前夜。
決まってコタツの上に小さくカットされたアルミホイルが並んでる。
ひとつまみの塩をそれで百個近く包んでいる母。
それをタバコケースの外側に入れていたタツオさんのトラックが警察から止められ取り締まりを受けた。
「なるほどお清め塩かぁ、ご安全に。」
警察はすぐに解放してくれた。
タツオさんとアタシは、以前社員が覚醒剤所持で逮捕されたとき他の社員の身の潔白を証明する為に全員行った検査に2人だけが引っかかってしまった。
タツオさんは常備薬から。
アタシは昨夜飲んだ風邪薬から陽性反応を引き起こした結果に。
世間一般的に人相が悪いとされる人たちに囲まれていた私は、逆に笑顔でスーツ姿のおじさんに慣れていなかったけど、
近ごろ見かけないなあと思ってたおじさんが
あっちの世界に戻ってしまった。とか、
しばらく塀の中だった。
とかいう知らせが入ると
自分の父親はいったい何者なのか?と思う時がある。
それは今でも。
「オヤジが死んだ。」
姉からの電話の数時間後、半年ぶりの対面。
アタシの実家であるはずの玄関口で迎えいれる見知らぬ女性。10年前父に連れていかれて紹介されたあのスナックひまわりの女子大生だ。
通夜が始まる前から続々と人が集まってきた。
喪主を名乗るその子と葬儀担当者が淡々と話を進めていく。私はその横で呆然としていた。
「お母さんを頼んだ。」
半年前入院先のエレベーターでの会話が最後だった。
入退院と自殺未遂を繰り返してきた父なので、そのセリフが今回こそホントに最後になるなんて思えなかった。
でもそれよりももっと意表を突かれたのは、
愛人と3ヶ月前に籍を入れてたこと。
父は車内で死んでいたこと。
ひとりで死んでたのに司法解剖せずに
病院で亡くなったことになっていたこと。
あとは、
なんでアタシと同い年のこの女性が10年もの貴重な時間をこんなジジイに捧げてきたのかってコト。
「死因がわからんのはイヤ。いまから司法解剖頼もうよ!」
取り乱すアタシは周りの大人たちから「会社の尊厳を守るためにも、もうこのまま葬儀をやるしかない。」
喪服の見知らぬ女性が会社関係の参列者たちに挨拶しているのを見て、アタシには何の権限もないのだと悟った。
不審に思う姉とアタシは警察に相談するも
父が救急車で病院に搬送され、医師によって死因を「腎不全」と診断されたこと。
そして既に火葬されたこと。
もうどうすることも出来ないと言われた。
彼女は病院で司法解剖をするか問われたが、手術を繰り返してきた父の体をこれ以上傷つけたくない。という理由で断ったという。
それよりも愛する人がどうして亡くなったのか
知りたくなかったのか?
会社の尊厳を守る?
二十年経つ今になって、ようやく見えてきた。