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鎖をつけた野良犬生活スタート!

「勘当だ!出ていけ〜!」

ヤッター!!!!
追い回されて逃げ回って生きていた頃とは全く違うこれまでに味わったことのない解放感だった。

母が心配して時々様子を見に来た。何しろカギを閉めていたって簡単にこじ開けられそうな薄っぺらいベニヤ板で出来た玄関の扉。
食べ終わったかまぼこ板に「タケシ」という名で名字のあとにマジックで書いて玄関に張り付けていた。それを見た母は「なんね?誰ねタケシって。」
アタシは男友達からいらなくなったオトコもののトランクスをいただきベランダに常時干し、
表札にはタケシの名を借りて身を守っていた。

「普通の暮らし」を夢見るようになったのは
高校生の夏のある日。

「お前たちに漬けもんとメシだけの暮らしをさせまいとオレは毎日眠れないほど必死で戦ってるんだ!!」

友達とバーゲンセールを堪能して帰宅した
女子高生を待ち受けていたのは父親の罵倒。

それはアタシのこの日の服装が原因で始まった。

「その格好はなんか?サーカスにでも出るとか?」当時スカーフを首に巻くのが流行っていた。
「お父さん、これは今流行っとーとよー。」と微笑む母に、「はあ?!流行っとったらオマエはパンツ一丁でも歩くとかバカタレがぁあー!!」と怒鳴られた。

延々と続く説教がまた始まり、ウンザリしたアタシは「漬もんとメシだけの暮らしでもいいけん普通の暮らしがしたい!」と言い放った。

「普通の暮らし?オマエにとって普通っちゃなんや?平凡ちゅうとがどれだけ大変なことかオマエにはわからんか?」

家出を繰り返しては見つけだされ鳥かごに戻されれる。でも今度こそ!ようやく父の方からの家出命令。
母は涙を流しながら「どうしてこうなると?なんで娘を信じてやれんの?」

歌手を夢見て東京で一人暮らしした時も結局父の援助で女性専用の高級マンションに入れられた。
働く先も父の友人の芸能プロダクション。
いつまでたっても自分の人生を自分の足で歩むことは許されなかった。
デザインの専門学校に入学した時も、1か月後には勝手に退学届を出されていた。
いつも父の勝手な妄想に振り回されていた。

今回も父の妄想から始まったコト。
でもついに初めてリアルな自由を手にした気がした。私が作る「普通の暮らし」!!

自転車で海まで数分。夜明けの波は穏やか。ひとしきり遊んだあと、花屋の配達のバイトへ。帰りにスーパーの見切り品を狙って夕食を作る。これがこの頃のルーティーンだった。
「あそこの娘さん、いまだに独身で今度サックス奏者としてアメリカにいくらしいばい。どげん思うや?もう30才ばい。」
父はそんな感じで人の幸せを自分の物差しだけで計る人だった。
「とにかくやりたくない事を率先してやれ。
決めたことはやり遂げろ。今さえ良ければ良いなんて思うなよ。」

私はいま、
父が言っていたコトの正反対で生きている。
そしてそれはアタシの息子に対してもそう。
自分の足で歩けるようになってくれることを願い、息子自身が自分で選ぶことを大切にしている。
後悔したり苦労することがあっても本人が決めて経験することで自分自身の人生が積み上がる。
誰のものでもないあなたの人生。誰がなんといおうと自分の人生の主役は自分自身なんだから。
好きなことを大切にしよう!

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