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アファメーション術を身につけてしまった小学生。

土木を始める前。父のススメで母はスナックをオープンさせた。

その頃アタシはまだ生まれてなかったけど、何度もその話を聞かされてきたのでまるで見てきたかのようにその情景が目に浮かんでしまう。

営業中、店の奥の小部屋で父は幼い姉とそこで過ごしてたんだとか。

母をお目当てにやって来る客は当然何も知らずにやってくる。

初めのうちは静かにテレビを観たり絵をかいたりして時間を費やす奥の二人。
そのうちいきなり小部屋からズドン!と出てきては客に怒鳴りつける父に客は腰を抜かす。

挙句の果てに暴力沙汰になり警察を呼ばれる始末。「もうお客さんがだあーれも来んようになって、辞めたんよ~。」

天然でゆる~く穏やかな母。
そんな母が父を支えてなかったら会社の持続は不可能だろうって昔から両親を知る人が口をそろえて言う。

母がそこにいてほほ笑むだけでいいと言ってくれてる従業員も多かった。
疲れて帰るおいちゃんたちは母の「おつかれさーん。」の笑顔にいつも癒されている様子だった。みんなが事務所に戻ってくるまでは、明日の配車の手配をしたり、仕事が少なくトラックが遊んでいる時はよその土木会社に連絡して「暇で暇で‥何か仕事ございませんかねぇ?」そう言ってあちこちに電話をかけまくり受話器の向こうの見えない相手に丁寧に頭を下げていた。
お歳暮やお中元も今のようにヤマト便ではなく
母が直接訪問して手渡ししていた。
幼いアタシはそんな母にいつもくっついていた。

当時小学一年生だったアタシは、自宅兼事務所だったのでランドセルをからって真っ先に事務所に帰っていた。
宿題は事務員のおばちゃんに時々見てもらっていた。「あらっ!すごいねぇ~!」アタシは褒められてもそう大して伸びる子ではなかったけど、なにせ両親はいつも忙しくってアタシはほとんどほったらかしにされとったので、そのおばちゃんに褒められたくて褒められたくて。

父の暴力は日常やったけど、本当に限界を感じた時は母は家を出たまましばらく帰ってこれない。そんな時このおばちゃんと話していると不思議と寂しさが和らいだ。時には一緒に涙してくれた時もあった。
目に一杯涙を浮かべた笑顔で、「がんばってね。負けたらいかんよ!お母さん絶対帰ってくるけんね。おばちゃんがなんとかするけん心配せんとよ!」

おばちゃんは父と同じ昭和19年生まれ。
彼女にもアタシぐらいの三人の娘さんがいて、優しいご主人が。

定年後もパートで働いてくれていたおばちゃんには今も感謝の気持ちが尽きないけれど、特に記憶に強く残ってるのが、ある雪の深い日の公衆電話ボックス。

「必ずお母さん戻ってくるけん!負けたらいかんよ。」この日もおばちゃんはいつものように励ましてくれた。
十円玉を片手いっぱい握りしめて、
明日からまたがんばろうって温かくなった。
降り積もる雪の中を、小学生のアタシと姉を乗せた父の車はなぜか熊本城へ向かい、その帰りに筑後町の原鶴温泉に泊まった。

今回のお母さんはホンキで荷物をまとめて出ていった。いつもの家出は殺されそうになった母が飛び出して数日後戻るパターンやったけど、それと違うことに気づいたアタシは泣いて泣いて一晩中泣いていた。その泣きはらした目で熊本城の前で撮った写真が今でも実家にある。

こんなことが繰り返される幼少期やったけど、何度も何度もこのおばちゃんに励まされて、立ち上がるクセを身につけてきた。

中学になるとアタシは姉の影響もあってラジオをよく聴くようになっていた。事務所のおばちゃんの横でリクエストはがきを書いては毎回読まれるのを心待ちにしていた。「ラジオネームはフッくん大好きっこさん」

「ゲゲッ!アタシやん!おばちゃんこれアタシよ!」ラジオの声に興奮気味のアタシはおばちゃんと耳を傾ける。採用された内容は「木から落ちてぐったりしたカラスにお父さんがリポビタンDを飲ませて元気に飛び立った」というちょっと我が家にしてはなかなか感動的な話。おばちゃんも嬉しそうだ。このころから父の会社は少し規模が大きくなり、事務所が自宅兼ではなくなり同じ敷地内に事務所が建った。

バブル期に入ってから従業員も一気に増えて、父にとって責任が重過ぎたのか、彼は睡眠薬なしでは眠れない状態になってしまった。

そしてその薬のせいで我が家は、さらに崩壊していった。後々この薬はイギリスの新聞でも取り上げられて問題となったらしいんだけど、日本ではまだ普通に処方されてた。
異変に気付いた母が薬を変えて欲しいと医者に懇願したが父はこの薬じゃ眠れないと脅しにかかり結局その恐ろしい薬、ハルシオンをやめられないでいた。
この長い長い地獄の日々に終わりが見えることはないのだろう、もうココから逃げ出すことは出来ないと悟った時から他に楽しみや目標を見つけて没頭することへ繋がった。







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