しつこさと切なさと心強さと。
アタシはピンクレディーになれないと気づいたのは中学になって聖子ちゃんが出てきた頃から。
髪型もマネてみたけど現実的にほど遠い。
そんな時転校生のさとちゃんに出会った。彼女は有名なタレント事務所に所属するアイドルの卵。
そんな人が太宰府におると!?
ブリブリのフリルでテロテロのピンク色の傘をさして聖子ちゃんヘアーが悔しい程よくお似合い。
どこに売ってるんやろうあんな傘…
アタシとさとちゃんは偶然近所で約三年一緒に通学する仲になりいまも仲良し。
恋の話はもちろんアイドルへの厳しくも華やかな苦労話をリアルに話してくれた。
アタシは彼女みたいにかわいくもないし美人でもないけど、こんなに近くに夢を現実に近づけている彼女を間近に見て、アタシもアイドルになりたい!と本気で思うようになっていった。
オーディション雑誌を毎月購入しては自分がいけそうなオーディションを片っ端から受けまくった。でも最初の書類選考で写真を載せなければならず、見た目に自信のないアタシはとびきりかわいい笑顔を鏡で研究して全体写真もキメッキメのポーズで母親に撮ってもらった。毎日毎日自宅の郵便受けを見るのがアタシの日課になっていた。
200件くらい落選してようやく受かったのはトレンディドラマのエキストラと劇団員の養成学校と大食い選手権だけ。途中歌手なりたい事とか忘れとったかも。でもいつのまにか目的を持って生きる楽しみが身についていた。
その粘り強さは五才上の姉にも鍛えられた。
6歳のアタシはいつも一緒に寝ていた姉の強い希望で望んでもいない個室を与えられた。
特に土曜ワイド劇場を観てしまった夜は、あのオープニング曲とカラフルな蝶が脳裏に焼き付いてある晩ついに口の中に蝶がガバガバ入ってきた夢で目覚めた。
「ねぇねぇー一緒に寝ようよー」
姉が「じゃあ、コーラ買ってきて。そしたらアタシの部屋で寝てもいいよ。」と言われ、夜11時過ぎに100メートルほど離れた場所にある自販機まで行きコーラを買って姉に渡した。怖かったけど一晩中怖いよりマシかと思って頑張った。「ばーか。」姉のそのひと言でアタシは安心して眠れた。
そんな姉は4歳のころ親父の連れ子として母と結婚。のちにアタシが生まれた。母は姉がかわいくて結婚したという。
幼い姉は母のことを当時「おねえちゃんおねえちゃん」と慕っていた。
アタシが生まれて小学校に上がる前ぐらいまで
壁一枚横に知らないおばさんが住んでいるような長屋に父と母の家族4人で暮らしていた。
このころ父はトラック1台で土建業を始め、毎晩のようにウチに誰かが来て酒盛りが繰り広げられていた。その酒代で毎月の経営のやり繰りは綱渡り状態で、昔から両親を知っている人たちは母がいなくては今はなかっただろうと話す。
そのころから親父の母への暴力はひどく、この長屋にいたころはビール瓶で頭を殴られ血が噴き出し数十針縫うことが3度もあったという。
そんなんで殺されかかると家を飛び出すことがこの先アタシが二十代半ばになるまでの長い年月もの間何度も何度も繰り返され、母は耐え抜いてきた。
その間アタシは高校のときまで母と姉の関係性を知らずにいた。
ある日アタシは授業で習ってきた血液型の話を家族に自慢げに話した。「姉ちゃん!姉ちゃんはアタシのことずっと、アンタは御笠川の橋の下で拾われてきたんよって言いよったけど、ほんとは姉ちゃんがそうなんやろ!だってA型とO型からB型は生まれんらしいよー。」このあとすぐに父親から個別に呼び出された。
アタシは何故かそんなにショックではなかった。これまでもそれからも憎まれ口言われたり、喧嘩ばかりしたけど、母を支えたい気持ちは姉といつも一心同体だった。
姉との絆はこの後親父に愛人が登場するたび更に深まっていった。
「くるくる寿司食べ行くよ!」母の誘いに浮かれたアタシはまさかこの日が長いホテル生活の始まりとは予想もしてなかった。
塾帰りの高校生の姉を迎えに行く母の車に飛び乗りたらふくいただいた後、車内にて今後の予定を知らされる姉妹。ほー、包丁振り回されたんじゃあ逃げるしかないな。
この日母は陽が沈むまで二階の押し入れに隠れていたという。
初日は当時話題だったソラリアホテルだ!そんなとこに泊まれるなんて!姉妹は浮かれていた。
デパ地下の総菜を買ってベットの上で食べながら有線放送をかけてまるでパーティー気分だった。
ある晩私たちは有線放送のチャンネルで「木魚の音」というのをみつけて「なんみょーほうれんげーきょーなんみょーほーれんげーきょー ぎゃはははは!」とは大はしゃぎ。
それまで黙っていた母が突然「静かにしてーーー!!」と涙目になっていた。
予想より長引いた高級シティホテルの生活も底をつき、知り合いにラブホで働いてるおばちゃんがおるってことで、途中からラブホ生活になりこれまた新たな世界を知ってしまった。