馴染みの店で、いつものを頼むおっさんはカフェインが苦手だ。
カフェイン
今日の話は、
おっさんの飼い犬
マメタロウが
亡くなってしまってからの話。
確かに、
その時の話を
ピックアップして
記事を書こうと思えば、
書けるんだろうけど
全然それについては、
気分が
当然ノッてこないので
その後、
しばらくたってからの話。
おっさんの
勤続期間も
そろそろ長くなってきて
それなりに…
いやそれなり以上に
お互い
信用しあうようになっていた。
そんな中、
どっちが誘うわけでもなく
気が付けば、
僕はおっさんの
車の助手席に座っていた。
数週間以上かな?、
マメタロウのいなくなった
いわゆるペットロスで、
おっさんは
深く底なしの寂しさを
感じていて。
当然のごとく元気がなかった。
多分一緒に、
ご飯に行ったような気がする。
その当時、
僕は他府県に住んでいて
おっさんの
住まいの最寄り駅まで
電車で休みの日に
来たことを覚えている。
改札を出て、
階段を下りると
そこには、
おっさんの車があった。
まあまあ汚い。
恒例のごとく、
僕は、車まで近寄ると
助手席の前で立ち止まる。
電車の発車音が聞こえる中
そのまま立ち続ける…
目の前の、
助手席の窓の奥から見える
うすらハゲの
剃り込みの入ったおっさんが
何か僕に向かって言っている。
こっちから見ると、
口パクで
何を言っているのかわからない。
これも、僕らの恒例行事だ。
しばらくして窓が開いた。
すかさず
僕は運転席の人に言った。
僕
「え?タクシーじゃないの?
自動でドア開かないん?
この車…
いけてないなー」
おっさんは、
ニコニコしながら呆れ顔で僕に
おっさん
「タクシーちゃうわ。
自動で開くわけないやろ。
はよ自分で開けて。
おはよう。」
少しは、
元気が戻ってきたように
思えた瞬間だった。
そして
恒例のたいして
面白くない流れはまだ続く。
僕は車のドアを開け、
助手席へと乗り込み、
おっさんに挨拶を返す。
次の瞬間には、
シートベルトをする。
そして、
おっさんに会うまでの
電車であったことや
たわいもない話を、
おっさんにする。
そんな
たわいもない話に、
おっさんは
付き合ってくれて
なんやかんや
和やかな時間が、
少なくとも5分は過ぎる。
くどいようだが、
これも恒例行事である。
その間、ずっと
助手席のドアは
開いたままである。
5分以上は
開いたままである。
おっさんが、
しびれを切らせて僕に言う。
おっさん
「タクシーじゃないからな?笑」
僕は、
半笑いで
おっさんに
いたずらな顔をしながら返す。
僕
「え、知らんかった。
タクシーやと思ってたから
ずっと閉まるの待ってたのに。」
おっさん
「だとしたら、
その運転手
相当仕事できひんやろ」
僕
「この運転手、
仕事できひんねんなー
って会ってから
ずっと思ってた笑」
おっさん
「もうええわ、
はよ閉めて笑
行くで」
そんなこんなで、
せっかくの休みに
僕らは昼から、
ショートコントをかまし
野郎だけで
飯を食いに行った。
どうせ、僕らのことだから
大した話もせず、
ショートコントのような
掛け合いを
飯を食いながらも
続けていたように思う。
多分笑。
飯を食った後…
「この後、どうするー?」
的な流れになったと思う。
僕は、
おっさんをカラオケにでも
誘い出して
気分転換にでもなればなー
と考えていた。
でもなんだか、
そのときの、
おっさんはめずらしく
もう少し、
静かに話したかったのか
昔からの
おっさん行きつけの
喫茶店に行こうと
こっちの意見も
あんまり聞かず
誘ってくれた。
そんな時の、
おっさんは決まって
行きたいというサインなので、
おっさんの訳の分からいない
ジェネレーションギャップの歌を
聞かなくて済むし
連れてってもらうことにした。
言い過ぎたかな?笑
で、割と駅から
すぐ近くに、
おっさん行きつけの
喫茶店はあった。
ウッドテイストで
すごく雰囲気も良く
きれいだった。
喫茶スペースの横に、
さまざまな種類の
コーヒーが売っていて
すごく楽しかったのを覚えている。
車内での会話で、
その喫茶店には
おっさんの同級生が
働いていることがわかっていた。
今でもちょくちょく
何人かで
集まるときのメンバーらしい。
喫茶スペースへ移動すると、
カウンターから声がした。
お姉さん
「あら、久しぶり、いらっしゃい」
おっさんは、
久しぶりの来店だった。
行きつけと聞いていたから
久しぶりの言葉に…
僕
(こいつホンマに行きつけなんやろな…?)
と思ったのは内緒の話だ。
続けて、
カウンターのお姉さんは、
おっさんに
お姉さん
「今日はめずらしく、
お連れさんもいるんやねー
○○ちゃんは、
今日休みやでー。
おっさんはいつものでいい?
お連れさんは何にするー?」
物腰が柔らかく、
優しそうな接客だった。
一瞬でおっさんが、
行きつけにする理由が
わかるようなオーナーさんだった。
僕はオーナーさんに
ブラックコーヒーを頼んで
おっさんとの会話を始めた。
いつもどおり、
たわいもない会話なんだけど
ちょっとだけ、
自分の中では踏み込んでみた。
僕
「マメ亡くなって
しばらく経つけど
もう犬飼わへんの?」
おっさんは、
少し困ったように考えてから答えた。
おっさん
「前も言ったみたいに、
ちょこちょこ
保護犬のサイトは
見てるけどなー」
僕
「んーそうかー」
そんな感じで、
今日の駅前での会話とは
打って変わって
また違った雰囲気で、
静かな喫茶店のBGMの中
おっさんと会話をかわしていた。
続けて、
僕はおっさんに聞いてみた。
僕
「じゃあもし…
次、ワンちゃん飼ったら
どんな名前つけるー?」
おっさんは、
待ってました♪と
ばかりに嬉しそうに…
ストックあります!
決めてました!
の顔をしながら答えた。
おっさん
「和スイーツ系
かわいいよなーと思って。
きなことか、あんことか
白玉ちゃんとかもええなー
あ、はなことかも。」
僕は、
おっさんから
出てくる
女子高生みたいな
センスに
びっくりしたことを覚えている。
そんな中、
僕とおっさんの前に
湯気の立った
いい匂いのする
飲み物が二つ
それぞれの前に並べられた。
僕は、すごく香ばしく
コク深そうな
匂いのする
ブラックコーヒーに
感動していた。
頂いてみても、
やはり匂いの通り
シンプルに美味しい。
そして、
コーヒーから視点を
おっさんに向けて
話しかけようとしたとき
僕の鼻を、
突然の酸味が襲った。
次いで甘みもくる。
そんなはずはない…
瞬時に
コーヒーに視点を戻す僕。
香ばしく、
コク深そうな匂いで
もう味も
想像できるようになっていた。
気を取り直して
再びおっさんの方を向く。
今度は
甘みから酸味の順で
攻めてきた。
当のおっさんはというと、
オーナーのお姉さんと
会話をしている。
そのまま、
僕はおっさんの
ドリンクに目をやった。
多分今しがた見た
僕のコーヒーカップとは
違うカップであった。
僕
(へーすごいなー
コーヒーの種類によって
カップまで変えてるねんなー
こだわってるなー)
なんて思いつつ、
再び僕の
コーヒーに
目をやろうとしたとき
おっさんの
カップの中身が
僕の視界の端に入ってきた。
白い。
そういわれてみれば、
なんだか嗅いだことのある
匂いだなと思った。
おっさんと、
オーナーさんの会話も丁度
落ち着いたみたいなので
僕は、おっさんに聞いてみた。
僕
「おっさんは、
何コーヒー飲んでるん?」
おっさんは
僕に答えてくれた。
おっさん
「ん?僕?ホットカルピス。」
すべての点が
つながった瞬間だった。
酸味と甘み、
グラスではなくカップ。
まさにホットカルピス。
おっさん
「僕、カフェインあかんねん。
頭いたなるねん
飲んだら…笑」
僕の知らない
おっさんを知った瞬間だ。
僕
「緑茶とか、紅茶は?」
おっさん
「カフェイン入って
なかったら大丈夫ー。
入ってたらホットカルピスーか
トマトジュース♪」
そこへ、
オーナーさんが
やってきて自然と言った。
お姉さん
「○○ちゃんが、
おっさん君が来たこと
見事に次の出勤日に
当てるのよ笑」
不思議に思って…
なんでわかるのー?
って聞いてみたの」
そうしたら
【この店でホットカルピス
頼むの、おっさんだけやから。
何週間かに
1回あるかないかやし、
こどもでも
ホットカルピスは
頼まへんから笑】
って言ってたわよ」
おっさんは
苦笑いしていた。
行きつけというより、
めずらしい
同級生なだけであった。
僕はその日、
尊敬する先輩が
カフェインが無理な、
めずらしい
ホットカルピスさんだということを
知った。
また次回。
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