暗転
…先生、今日は何をすればいいですか
バシ
いたっ
先生に頬を打たれた。これで何回目だろうか…
あし、いたい。
ロングヘアのか細い美少女は、頬のジンジンした痛みより、踊り続けてすりむけた足の先が痛くて堪らなかった。
は!
レッスンスタジオに映る脚を高く上げたレオタード姿の自分に驚きました。
「股」に血がついているのです。ヌルリとするのです
これは…いやだ…生理?生理だ。恥ずかしい。
それにどうしよう。ママに言わなきゃ…でも、その前に先生に言うの?
-少女は、初潮でした-
どうしよう、脚を上げてキープしていなければならない。下ろしてしまったら、怒られるのよ。
血が、他の子にも見えてるかしら。先生にも、見えてるかしら。ああ、どうしたらいいの!
音楽、大きい。気が遠くなる、ダメだ
「ストップ!○○!来な!」
先生が怒鳴った、私は呼び出された、☆☆チャンが、また何か言ってるわ。おおかた呼ばれた理由に気付いているのね。
「あんたレオタードに血が付いてるよ。なんで用意しないまま踊ってた?恥ずかしい。本番だったらどうするの。早く着替えてきな。…フー。」
先生のタバコの煙がかかった。う、きもちわるい
なんだか具合が悪いから、タバコの匂いは…
-少女、トイレで吐く-
「うぇっ うぇっ えっ…」
生理用品を持っていないわ。ハンカチでいい、かな…
ママ…
あ
暗転
「先生、今日もありがとうございました。」
「はい、ありがとうございました。また明日。」
みんなと、終わりのレヴェランスをする。終わりの挨拶。痛いあしを、ゆっくりまげて、綺麗におじぎする。先生もする。先生…?
魔女のような爪の、魔女のような鼻の、夜会巻きをしたロングドレスの、先生。レッスンが終わったら、タバコを吸う。わたしはそれが少し嫌いで好きだったかもしれない。
〜♪
まぶしい!
めじるしがなくて、回り続けなければならないの。
先生が幕のソデにいるから。あ、せんせい、ごめんなさい、わたし、わたし、つま先、ポアント、おちちゃった。ごめんなさい、先生、髪飾りがおちちゃった
急いで幕に戻る。多分、曲は終わっていて、次の子がくる。先生のもとにかえらなきゃ。
バシ
「 」
ぎゃっ
また今日も頬を打たれました。先生がなにかおっしゃっていました。覚えてないで、衣装のまま飛び出しました。
寮から離れてどのくらいでしょうか。さすがに、衣装のままだと寒かったみたいです。どこかに入りたい、お金も楽屋のカバンの中です。
両親の連絡先は寮の部屋の中です。
お気に入りのクッキーも、いい匂いのクリームも、
全て楽屋に置いてきてしまいました。
あるのは、綺麗な衣装と、もう汚れてしまったポアントと、履いているタイツだけなのでした。髪飾りはステージに落としてしまったのですから。
とぼとぼと夜の街を歩いていました。
ショウウィンドウに映る服に目がいってしまいます。
ショウウィンドウに映る自分からは目を背けていました。きっと泣き顔で惨めなんだ。きっと髪もぐちゃぐちゃで、タイツだってやぶれているわ。
あっ
ショウウィンドウに映る自分に気づきませんでした
目を背けていたのではなくて
わたしはチュチュを着て泣き顔のバレリーナの卵だったはずなのです
こんな、こんな娼婦みたいな、大人の女性は知りません。足が痛いのはポアントじゃなくて、高いヒールのせいなのでしょう。ほおが痛むのは知らない男に殴られたのね。
あっ
ヌルリ
「股」からナニか出てきました。ヌルリとするのです
…きっと血だわ。生理だわ。ついてないわね、なんも、持ってきてないんだから。
路地裏で「ミニスカートを脱ぎ」
パンティを確認しました。
えっ
精液が出てきていました。男の精液です。少女はわかるのです。誰のモノかはわからないのですが、ヌルリ
いやっ…!
ああ、チクショウ 中に出しやがって
…ぅ、ぉぇ きもちわる
飲みすぎた キいてないよ、音楽もうるさかった。
キいてないよ。寒い。
風邪じゃなくてスニッフした鼻がツンと痛かったから。
アダージョじゃなくてクラブの音楽がうるさかったから。
脚を上げて ヤって 中に出されたから。
寒いのは、こんなに薄着だから。
タイツが破れてンのは、ヤるときに破かれたから。
「ストップ!キミ!来なさい!」
は?
先生?先生どおして、あたしもう、バレエやってないよ。魔女の爪はあたしのだよ。先生どうして?
…先生ごめんなさい!髪飾り、本番で落としてごめんなさい!また、フェっテ失敗してごめんなさい。もう間違えないから、もう振り付け、間違えないから。
まぶしい!!!
-少女、いや、少女のような彼女は、警察官に呼び止められ、目をライトで確認された後、パトカーに乗せられたのだった-
「キミ瞳孔が…あーあ、これはやってるね。先生?この子ずっと、先生だの髪飾りだのおかしな事を言ってるよ。まず病院かな。ほら、暴れないで。傷の手当てもしよう」
…今日はなにをすればいいですか
病室で彼女は、「先生」に、そう問いかけるのは、これで何回めだろうか…
もう、ぶたれることはないのに、少女は、アダージョの鼻歌を歌いながら、髪の毛を整える。
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